論敵を攻撃するためのアイテムについて
Posted at 21/06/07 PermaLink» Tweet
色々考えてて、色々読んでいるのだが、またそのほかにも色々考えたり、色々思いついたりしてるので、なかなか文章も書けないのだが、まあちょっと日常のメモみたいな感じで少し。
「クローズアップ藝大」は読み終わったので今読んでいるのは戸田山和久「思考の教室」(NHK出版、2020)。どういうスタンスの人かと思って読み始めたが「反省的思考」というものの例として「歴史修正主義」の運動をしていた人が「日本軍のしたことを責められると自分が攻撃されている気になってしまうので否定していた」と「考えのゆがみ」に気付いて「修正」できた、という話が出てきて、ああなるほど「そっちの人」ですかと白けてしまったのだが、しかしこういう「思考の方法」を説く教科書的な内容の本で「歴史修正主義」とか「考え方のゆがみ」という決めつけを若い人に刷り込もうとしている「悪意」を割とおじさんが考えたっぽい「若者に対する親しみやすい感じ」で語る内容なんだなという印象を受けた。
まあ今の若者は優秀な人もいるからそういう「罠=トラップ」には気付く人も多いだろうとは思うけど、そういうところに引っ掛かる人もいるかもしれないなとは思う。
まあつまり、これは私などの考え方から言えば間違った立場の人が書いている本なわけだけど、でもまあそういう人たちの「手の内」を知るには一定役に立つかもしれないと思った。
そうこうしていたら「疑似論理的思考」というものの話になった。一つ目は「同語反復」。これは具体的な政治家の例としては出てこなかったが、いわゆる「進次郎構文」というものだろう。「今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけないと思っている」みたいな感じだろう。
二つ目は循環論法というやつ。「神は実在する。なぜなら聖書に書かれているからだ。なぜ聖書の言葉は信用できるのか。それは神が書かれた言葉だからだ。」みたいな感じだろうか。
三つ目は対人論法という名前で出ていたが、よく世の中で使われている例で言えば、「安倍元首相の政策は間違っている。なぜなら戦犯岸信介の孫だからである」みたいな感じの、政策が間違っている論拠として本人の属性に触れることで忌避感を出して政策を潰そうとするような例である。ちなみに岸信介は極東軍事裁判で起訴されたわけではないので戦犯であるという言説自体が誤りなのだが。
四つ目に挙げられたのが「藁人形論法」というやつだ。相手の主張を批判しやすいものにすり替えて相手を叩く、という方法だ。例としては国際的に主流である離婚した夫婦の双方が親権を持つという「共同親権」の問題について、否定する弁護士やフェミニズム系の人たちはDVがあるから共同親権は認められないという。しかしDVの問題は人間としての基本的な権利である親権の問題と別に検討すべきなのは明らかで、それを叩きやすいDVの問題にすり替えるというようなやり方のことである。
この辺になってくると、実際の議論でとてもよく見られるケースなので、なんとなく納得してしまっている人も多いのではないかと思う。
こんな風に色々な「疑似論理的思考」について語られるのだが、今あげた例はこの本に出てきた例ではなくて私が考えた例である。自分が何かを考えたときに、このような思考になっていることはないかというのを検討することが必要になることもあるだろう。
私はこの本を読んでいてこの辺で嫌な気分になったのだが、それは考えてみると自分の主張に対して「それは藁人形論法だ」と難癖をつけられたことがあったからだ。しかし私は「藁人形論法」という言葉を知らなかったので何を批判されているのか見当がつかなかった。もうその時の議論は忘れたので本当に藁人形だったのか相手がレッテル貼りをしてこちらを攻撃したのかはわからないのだが、つまり重要なことは「藁人形論法だ」とかこの後に出てくる「燻製ニシン」、「滑りやすい坂論法」など、こういう「論法」の名前は相手を攻撃するために使われる手段なのだ、ということだ。
自分ではしっかり論理的な内容を語っているつもりでも、こういう訳のわからない攻撃、「あなたのいうことは藁人形論法だ」などの目くらましをぶつけられて、理解できなくてたじろぐ、というようなことがあるともったいない。そういう意味ではそういう論争を仕掛けてくる人たちのワードを一通り押さえておいた方がこちらの戦闘能力は高まるだろう。そういう意味で「敵から学ぶ」ということがこの本を読むことの大きな意味のように思えてきた。
これはある種の偏向した思想に対抗するときには必要な心構えだなと思うが、フェミニズムの用語としてよく使われる「マンスプレイニング」だとか「トロフィーワイフ」などの概念も、一通り自分なりの理解をしておいて、相手の術中にはまらないようにしておくと良いと思う。まあ昔の言い方で言えば「理論武装」である。「思考の教室」はおそらくは「彼ら」の理論武装のための教科書なのだが、そこからも学べるものはあるということである。
ああ、他のことも書こうと思ったことは多いのだが、長くなったので今日はここまでで。
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