「ことばは国家を超える」と「新説の日本史」を読んでいる
Posted at 21/05/28 PermaLink» Tweet
「ことばは国家を超える」と「新説の日本史」を読んでいる。どちらも面白い。
「ことばは国家を超える」は膠着語や屈折語といった言語類型が進化論的な立場から屈折語である印欧語の方が膠着語である日本語やマジャール語に比べて進化しているというエスノセントリズム的な思想が背景にあったとか、インドヨーロッパ語の「起源」とされている「印欧祖語」というものの存在はフィクションではないかとか、言語系統が違っても周囲の言語の影響を受けて文法的なものが変化することがあり(冠詞の例が挙げられていた)それを言語同盟というとか、読み始めた時には印欧祖語みたいな形でウラルアルタイ語の祖語というものを探っているのかなみたいな感じに思っていたことが、言語学的な議論をいろいろ提示してくれていることによって思いもかけない方向に目を開かせてもらっている感じがあり、とても興味深い。また全体的な感想は読み終えてから時間のある時にまとめたいと思う。
「新説の日本史」の方はまだ古代編、「倭の五王」の話と「薬子の変」の話のところを読み終えた。倭の五王が天皇の系図と結び付けられているのはこじつけであるという主張で、これはこれでわからないことはない。これは古代史のかなりタブー的なところに入っていく可能性もあるが、別の見方からすると天皇家の祖先が中国に「朝貢していた」ということ自体が史実ではない可能性があるということで、むしろ皇国史観的にはプラスになる可能性もなくはないなと思ったりした。
「薬子の変」に関しては変を主導したのは藤原薬子というより平城太政天皇なので「平城太政天皇の変」というべきだという主張なのだけど、この辺に関しては私は異論はある。
天皇そのものを変の名称に出す事例は他にないから慣例に反しているということ、だから薬子の変ではないにしろ、大同の変とか年号でいう方が妥当だろうと思うということだ。
ちなみに平城太政天皇というなんとなく座りの悪い言い方だが、これは律令制度上攘夷した天皇は自動的に太政天皇になっていたので、持統天皇以降平城天皇までは「太政天皇」とし、薬子の変ののちに譲位した嵯峨天皇は太政天皇の位につくことを断ったので、跡をついだ淳和天皇がそれを押し留めて太政天皇の位を贈ったという経緯があり、Wikipediaによれば嵯峨天皇以降は太政天皇ではなく上皇と書くことが日本史学上は慣例になっているということだった。
また薬子の変の原因として内侍=つまり女官が天皇から百官への取次を独占していたことがあり、嵯峨天皇が自らの側近に取次を行わせることで秘密を守る蔵人の制度を作ったのはそのためだった、というのは初めて知った。つまりは平城天皇までは朝廷で女官がそれなりに大きな権力を持っていてつまりは藤原薬子はある意味特別の例ではなかった(薬子は平城天皇に寵愛されていたわけだがそれはそれとして)ということになるわけで、考えてみると県犬養三千代(橘三千代)のような例もあり、律令制度の初期には宮中で女性がかなりの権力を持っていたということになるのだなと思った。考えてみたら後世にも天皇から発給される文書は女房奉書と呼ばれていたということもあるわけで、この辺のところはもっといろいろ読んでみたいと思った。
つまりは嵯峨天皇ー藤原冬嗣以降は男性貴族が宮中で天皇と直結して政権を運営することになったということになり、著者はそれが摂関政治の起源であるとしているけれども、その辺の妥当性はちょっとまだ自分ではよくわからない。朝議の運営の仕方なども先日「藤原冬嗣」を読んでそういうものかと思ったところなので、奈良時代の仕組みなども含めてもう少し読んでみないとちゃんとは納得できない感じはした。
平城天皇と藤原薬子の例は前代の称徳天皇と僧道鏡の例のように男女関係をもとに政権を壟断した人物がいたという印象が残るわけで、ただ女官が権力を握ったことによって起こった変という意味では「薬子の変」と呼ぶのも象徴的な意味はあるようには感じた。後世になると宮中での男色の例なども出てくるし男女関係だけでなく男男関係も政権への影響はなくはないと思うが、この辺の構造変化についてはとても興味深いものがあるなと感じた。
あとは、日本史界ではいまだに「天皇存在の脱神話化」を頑張ってる人たちがいるんだなと改めて思ったというのが今回読んでいる感想なのだが、現在の国体に関連する人物に責任を求めるような事件の名前の付け方は基本的に世界的にも例はないわけで、そういう意味でも「平城太政天皇の変」という言い方は私は良くないと思う。ここに関しては「天皇は神聖にして侵すべからず」ということだと私自身としては思う。
時間がないので荒い書き方になったが、今朝はこんなところで。
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