文化について考えてみたこと
Posted at 21/05/27 PermaLink» Tweet
文化というものはそれ自体に価値があるだけでなく、後の世代にそれに内包される嗜好や価値観、思考の仕方などを伝える文化的鋳型でもあるなと思う。文化的な事象に生物学的な比喩を用いるのは不適切であることが多いのだが、文化がそれ自体mRNA的な役割をして、何が良くて何が良くないとか、こういうことをするとかっこいいなどの情報がmRNA的な断片によって、子供たちの文化的DNAに転写されていく。元々はかなりタブララサに近い状態である子供達も一度文化的DNAが形成されるとそれに沿った価値観、嗜好、嗜好方式で生きていくことになる。
言語的変化が起こるのは主に若者世代であって、彼らが少し格好をつけて使い始めた新しい表現は廃れて死語化していくものもあるが知らないうちに定着していくことも多い。こういうのはある意味文化的DNAの塩基配列が一部組み替えられたようなものなのだろう。それは同じグループの中で共有されていくから、元々は同じ言語を話していても違うグループにいるとそうした変化が起こる場合と起こらない場合があるので、その中で言語の違いがグラデーション的に起こっていくことも多いのだろうと思う。
そういう意味ではテレビや動画などの文化現象は子供たちに親たちとは別の文化的メッセージを送ることによって親の世代とは違う文化的DNAが形成されていき、その意味で親子間の断絶が起こるということになるのだろう。
学校教育は国民的な文化を継承するための有力手段ではあるが、バックボーンもなく新しいことを取り入れていくという傾向が強くなると、新しいことはすぐ古くなってしまうため、教育を受けても子供たちに残るのはある種の文化的荒野ということになりかねず、いかに国民的文化を継承していくかが強く意識されないと子供たちの内面がある種の「野蛮」=文化が欠落した状態になりかねない。これは現在のように次々と知識が更新されていく時代にあって、古い無用な知識ばかりが頭の中を占めるようになってしまった中高年の中にある種の文化的アパシーが起こってしまうことにもつながっていく。その時に古くからの価値ある文化を保てているものと保てていないものとでは、自己の根となる部分に大きな違いが生まれてしまうだろう。
人権思想やフェミニズム、ポリティカルコレクト的な思想、つまりそれら設計主義的に文化を改変しようとする思想はある種の「文化的遺伝子組み換え」を図るものなわけで、人間の文化の連続性・一体性を破壊し混乱させるものであることは間違いない。それらの思想が全く無用であるとは言えないかもしれないが、少なくとも外科手術的な、遺伝子組み換え技術的な手段であることは自覚して用いるべきだろうと思う。
以上のことは恐らくは田中克彦「ことばは国家を超える」を読んでいてその影響を受けて出てきた発想なのだけど、この本で説かれている内容そのものが面白いというだけでなく、読んでいて色々触発されるところがあるので色々な方に感想を聞いてみたいなとは思った。
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