学校教育に今求められることなど
Posted at 21/04/27 PermaLink» Tweet
学校教育というものについて。というか、教育全般と言ってもいいのだけど、教育というものは「教える側=教師」と「教わる側=生徒」、「生徒の保護者」、「一般社会」と4つの立場があるわけだが、主に教える側から見ての話。
教える側は、まあそれが仕事だから教えるのだけど、小学校では基本的には全科目教えるが、中学以上は自分の教科を教えることになる。それも高校になるとさらに細かくなり、物理の先生は普通物理しか教えないし、世界史の先生は主に世界史を教えることになる。国語は古文・漢文・現代文とどの人も教えるのが普通だけど、それぞれに自分の専門、得意分野というのはあるだろう。
教える側には、自分の教える教科は価値のあるものであり、他より優遇されて当然だという考えの人もいるらしい。私は商業高校に勤めていたことがあるが、商業科の先生はやはり簿記を最も重視しているように感じた。普通高校ではあまり感じたことはないが、英数国などの「思考や実務のため技術・技能」を教える教科は理科や社会の教員よりはそういう意識を持っているのかもしれないと思う。
私は世界史を教えていたが、歴史などいわば教養的な教科は「知ってる奴が知らない奴より得をする」みたいなところがある。分数計算も身に付いていない生徒の多いあまり高くないレベルの学校で教えていると、世界史は市民にとって必須の知識だから必修にすべき、みたいな感じはあまりない。国語に関しては「知っていたら得をする」というよりも「知らないことにより損をする場合が多い」感じはするから、常識的なレベルは国民的に身につけておいた方がいいとは思う。
だから、国語に関しては「優遇しろ」とかそういうのはともかく、「必修にする」くらいのことはしたほうがいいかとは思う。現場にいる教員にとっては「必修になることによって雇用が確保される」という面はあるからそれ自体ある意味優遇なのだが、国語力のある国民が多いということ自体は個人にとってより国家社会にとって必要であるという意味もあると思うので、それはそれなりに妥当なことだと思う。「義務教育」はむしろ前近代の国民にとってより、近代国家の方が必要としたものだ。明治維新期には働き手を学校に取られるということに反対する学校反対一揆なども起こっている。
教育というもの、学校教育というものは、「個人のこれからの人生に役立つ技能知識教養を習得させること」「国家社会が成り立つために必要な知識理解を注入すること」「個人の興味関心に合わせた内容を教授すること」の三つが柱だと思う。言い換えれば「個人が生きるために必要な内容」「国家・社会を維持し発展させるために必要な内容」「個人の可能性を伸ばすことによって個人の人生と社会の豊かさをより大きくしていくための内容」の三つがあると思う。
そしてそれは「ひとしなみに全員に与えるべきもの」と「個人や階層、能力によって何を与えるかを判断しなければならないもの」の二つのレベルがあると思う。
今の学校教育は必要ないもの(小学生からの英語とか)を「全員に」与えようとし、個人にとって必要なものが不十分なままになっていることが多い感じはする。この辺、江戸時代の寺子屋では「手紙の書き方」とか「口上の述べ方」なんかが教えられて、つまり世間に出た時に本当に必要なことが主に教えられた(そして江戸時代の社会ではそれがいつ来るかわからない)わけだが、「子どもの発見(フィリップ・アリエス)」後の近代社会では「子供は子供として」教育されることになり、「社会儀礼や金銭の取り扱いから遠ざけられる」ことになった。この辺りも、「子供という理念型」の型にはめ過ぎるよりも、子供にとって何が本当に必要なのかを再検討する必要もあるだろう。子供をお金から遠ざけようとするあまり、教師の側もお金に疎い人間が多くなっていることなどは、ある種の社会の歪みという気はする。
進路の分岐点になる年齢、つまり「同じ内容が全員に与えられる時期」から「それぞれに必要なものが与えられる時期」の境目は、日本では義務教育である中学を卒業する時にある。この時期は国によって設定が異なるが、10代のどこかで設定されていることは同じで、日本国憲法・教育基本法下では前期中等教育までの9年間が義務教育、同じ内容を教える時期ということになっているわけだ。
そうなったのは本来、戦前の教育システムでは小学校までが国民大衆教育で、中学からは中学校・女学校のエリート教育、陸軍幼年学校や師範学校などの専門教育に分かれていくということが「エリートの大衆からの遊離」を産むという考えから、全ての国民に「学問の入り口」までの教育を与えようという動機であったのだと思う。つまり「算数」だけでなく「数学」をも教える、ということに意味があると考えられたのだろう。
戦後の学校教育は主に戦前の「反省」から、強烈なイデオロギーがいくつも関わるようになった。平等主義とか金銭を忌避する思想とか「教え子を再び戦場に送るな」とかの思想などがある。また生徒に対する体罰を禁止したり、生徒に文化的・体育的な活動を奨励したりするなど、それもまたイデオロギーの展開によるものだ。
ただこうした色々なイデオロギーは、今の時代に必要な公教育は何か、という真剣な問いが示唆する方向からはかなりずれてる面もあると思う。いじめが起こり、それをなくせないというのもそうした表れだろうし、また一度失敗するとキャリアを取り戻しにくいというのも減点主義の発想が蔓延した弊害があると思う。こうしたことはそれぞれに歴史を背負っているので、そう簡単に解決できることではない。
それでもまだ教育にできることはあると思うのだが、平等主義の建前から、機能的な運営が難しいというのは改善していってほしいとは思う。学校教育ももっと機能的に大人数・少人数・個別指導が行えるようになるといいとは思う。現実には学校教育の制度的・思想的な硬直性が、学習塾の必要を生み出しているわけである。
教育という営為は社会の再生産のためのものなので、社会自体の将来に夢が持てないと教育自体もなかなか難しくなる。政治家も思想家も、つまり大人は少子化だの高齢化だの環境汚染だの暗い未来図を書くことだけに熱心になるのではなく、より良い世界の未来図を描くことこそが、教育の立て直しにとっても重要なことだと思う。
教育に関しては考えることは多いのだが、今日はこんなところで。
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