知は力なり:フランシス・ベーコンと三王国戦争
Posted at 21/04/26 PermaLink» Tweet
ちょっとフランシス・ベーコンが気になったのでネットで調べたりしていた。
フランシス・ベーコン(1561-1626)はシェイクスピア(1564-1616)と同世代。デカルト(1596-1650)よりひと世代早い。デカルトはほぼベラスケスと同世代でバロックの世代、ベーコンはエルグレコやカラヴァッジョに近い。この辺、美術史でいえばルネサンス・マニエリズム・バロックが交錯する感じの時代だ。
調べてて感じた印象なのだが、と言うか以下は論文のようなものではなく、ある種のアイデアスケッチであるのでこう言うふうに考えている人間もいる、と言う程度に捉えていただきたいと思う。
と言うことを前提とした上で、デカルトは人間を認識主体として、ベーコンは行動主体として捉えている感がある。だからデカルト主義は認識をちゃんとしたら実践は決めた通りに機械的に実行されれば良いと考え、ベーコンは認識は科学的客観的に行わなければならないがそれを実行・実践するのは人間だというイメージを得た。
ベーコンがコモンローの法哲学者たちと対立して国王(ジェームズ1世)を支持したというのは興味深いと思った。王国の統合を目指すジェームズがスコットランド法を取り入れることでイングランドのコモンローが変質することをイングランド議会は恐れたと言うのは面白い。エリザベス1世のライバルでもあったメアリー・スチュアートの息子のスコットランド王がイングランド王になると言うのはよくスムースに行ったなと思ったが、イギリスで清教徒革命が「三王国戦争」と呼ばれるのはこの同君連合の三王国間の関係と言う視点があるからだなと思った。
また、狭義の三王国戦争は1660年の王政復古によって終わるのだけど、その後の名誉革命による議会=国教会体制の確立と、敗者たるジェームズ2世とその後継者によるジャコバイト戦争は18世紀になっても続くわけで、イギリスが現在のイギリスという形を取るための道のりというのはそう簡単なものではないと改めて思う。
逆にいえば日本では従来、イングランド国内の政争とのみとらえる視点が強かったので「清教徒」による「革命」ととらえたということなのだろう。「国王処刑」のインパクトを君主国である日本がどう受け止めたかということなのだろうと思う。フランス革命の国王処刑は「革命」だとはっきりしているので日本にとってもわかりやすい。漢学的には「放伐」「革命」の概念でとらえられる。「清教徒革命」はイングランドとスコットランドの統合を同君連合にとどめるか国家合同を行うかという問題があったということなのだが、結果的には1707年のグレートブリテン王国の成立(スコットランド議会の廃止)、1800年の連合王国の成立(アイルランド議会の廃止)によって国家合同は成り立ったが、今なおそれぞれの地域が独立性を保っていることは周知のことである。
近代日本にとっては、国家の成立していなかった台湾はともかく、朝鮮王朝→大韓帝国という国家を持っていた朝鮮を併合したときにその法制をどうするかなどの問題があったわけで、最終的に異質なものとして共存するイギリスのやり方と、唯一にして不可分の国家であるとするフランス、連邦国家の体制をとったドイツのそれぞれについての研究がもっと深められるべきだったのだろうとは思うが、イギリスについては研究が中途半端になったような感じはある。
そうなったのは、「国王処刑」は戦前の日本においてはとにかくまずは「不祥事」であって、日本がその轍を踏んではならないということが研究もかなり束縛したように思う。また戦後はマルクス主義史観が強く、教科書でも1世紀以上後の「アメリカ独立革命」や「フランス革命」と同じ「市民革命」の枠で捉えようという無理な記述になっていた。三王国戦争は三十年戦争とほぼ同時代であり、基本的には17世紀の宗教戦争の一環と見做した方が自然だろう。
コモンローの思想はイギリスの自由主義的伝統と強く関係しているし、ジョン・ロックの契約国家論的な思想にもバークの自由主義的保守主義の思想にもつながっていくのだが、ベーコンはある意味それよりも革新的でありつつ、狂信的な理性主義に陥らないで済んでいるのは科学的な経験論的思想があったからのように思う。
ベーコンの経験主義は客観的な科学的認識の重要性、「知は力なり Knowledge is power」と言う考え方、つまり事態を動かす「力」として「知」をとらえるところに人間中心主義の強力な近代性を見出すべきだと思う。理性主義のデカルトはある意味キリスト教伝統の上に立つ不自由さもあるけれども、英米が覇権国家として成功した裏にはベーコン以来の思想伝統があると考えることはできるのではないかと思った。
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