医療機関などの「公共性」について考えたこと
Posted at 21/04/25 PermaLink» Tweet
朝からTwitterのタイムラインで「公共性」という言葉を見たのでちょっとそのことについて考えていた。保険制度で保護されている医療機関は、「公共性」の観点からもっとパンデミックに協力的であるべきだ、というような話である。
医療機関の公共性というのはたしかに議論のされ方としては足りないという印象はある。しかし実際に医療機関が公共性の観点からそうした義務を負うべき、という方向の議論になってしまったら、諸刃の剣というか、80歳の医師が90歳の患者を見ているような田舎の個人医院が過重な義務を負わされて廃業せざるを得なくなったりして医院数が減少するという可能性もなくはないなと思う。
また、仕事の内容に公共性がある仕事など医療に限らずいくらでもあるわけで、公的な補助と引き換えに過重な義務となるとそれこそ老々介護的な世界でやってることはどんどん成り立たなくなる恐れが大きなということも考えた。
つまりは、ここまで高齢化が進む前にやるべきことは多かったということになるのだが、公共性よりも民業ということに注目しすぎてグランドデザインを描けてなかったのだなと思う。それがこのパンデミックの事態になって、初めてまともに議論が始まったということであって、まさに泥棒が来てから縄をなう、というより縄を作るための稲を植え始めた、みたいな印象である。
正直、今の新自由主義的な政府の方針は基本的に「成り立たなくなった分野・地域・インフラから立ち枯れていけばいい」という作戦というか、要は「無策」を基本として財政を緊縮するという作戦だったので、今急に「公共性の哲学」を持ち出されても現場で対応することはムリという感じは強くする。
当地では高齢者施設での接種は医師会が担当することになるようだが、まだ具体的なスケジュールは入居者家族等には全然伝わってきてない。結局、ワクチン保管の冷凍庫など結構物理的な問題が大きいみたいだ。そこから先はドライアイス等を使用して運搬することになるようだが、具体案自体ができていないようだ。
しかし少し驚いたのは、医療の公共性とか当然議論されてきたものとばかり思っていたテーマが全然そうでなかったということで、この辺りは国民が医療者や医療機関に期待していたものとはかなりの齟齬があるという印象はある。ただ、先に述べたように、こうした議論は諸刃の剣なので、慎重に取り扱う必要があるのだが、そうしたことを調整できる機関が存在するのかという危惧もある。
率直にいえば「公共性の問題」というのはつまりは権利に対する「義務の問題」と考えていいだろう。みんな「義務」というと「国民の権利及び義務」みたいに国家主義に繋がる印象を持っていて拒否感を持たれるので「公共性と言い換えている」感じはある。「義務」を定めるのは国家だが、「公共性」は社会で議論して半ば自発的にそれを負わせようという雰囲気がある。つまりは、政府財務省とネオリベ勢力が無償の奉仕として国民に事実上の義務を負わせるためのブラックなノリを感じてしまう部分がある。
義務を主張するのは従来は保守派でリベラルはそれを批判してきたが、公共性という議論はつまりはリベラルから出てきた市民社会的な義務論だというべきだろう。しかし今のリベラルの雰囲気を見ていると、公共性という名の下に人民裁判的な強制力を持って一部の国民に義務を押し付ける可能性もあるように感じられ、国家が責任を持ってそこの部分の調整する必要があるように感じられる。
医療機関が保険制度によって守られているのは、当然ながら公共性が前提となっているのは確かであって、そこで公共性に基づく義務を事情に考慮しつつきちんと負わせること自体には特段の異論があるわけではないのだが、その辺の配慮は地域の実態を踏まえつつ義務を負わせる必要はあるだろうと思う。
医師のツイートを見ていると医療機関で連携ができないのはコンビニ店員が他のコンビニの店員のことを知らないのと同じことだ、という人がいたけれども、コンビニの経営自体は本部で統括されているわけだし、医療機関には医師会という代表機関があるわけで、そういうものがどれだけちゃんと機能しているかという問題でもあると思う。
この辺りのところは医療社会学とかそういう研究分野になるのかもしれないが、早急に体制を立て直していくための調査や提言は急務だと思う。それができないと、公共性という言葉も政府財務省=ネオリベ勢力が金を出さずに人を使う口実に堕してしまう危険はあると思う。
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