「孤独・孤立」を「愛する」日本人
Posted at 21/04/10 PermaLink» Tweet
「日本に孤独・孤立を担当する大臣が置かれた」というニュースが世界的に話題になっているという話を読んだ。「孤独・孤立政策」を担当する坂本哲志・一億総活躍大臣によると、対策室が立ち上がってから1か月間に、アメリカ、中国、ロシア、インド、スペインの新聞社やテレビ局からインタビュー依頼が殺到しているということだ。
https://www.fnn.jp/articles/-/164790
「孤独・孤立」の問題は、阪神大震災後の仮設住宅での孤独死などの問題からすでに日本では注目されていたが、世界的にはこのことを問題化して対策を打とうとするのは珍しいケースであり、その意味で先駆的な試みなのだなということがわかって興味深かった。
この辺は多分、村上春樹のいう「デタッチメント」と「アタッチメント」の話とも関わるだろう。言われてみると案外意外だったのだが、あえて孤立する、つまり孤立すること自体に価値を見出す、というのは世界的に見れば珍しいことのようだ。実際のところ、村上が評価されたのも、そうしたところにユニークさを見出した読者が世界では多かったということかもしれないし、また逆に「ノーベル賞」などに嫌われるのもそうした部分なのかもしれないと思った。(村上は芥川賞にも嫌われたが)
言われてみると、「孤独・孤立」というのが世界的には一昨日に書いた「毒々しい女性らしさ」の問題にも出てきたように「忌み嫌われる」ものであるのが普通であるのに、日本では必ずしもそうではなく、あえて既存社会との「断絶を選択する」という行動を「プラスのもの」として見る傾向があることと関係はあるだろうと思う。
http://www.honsagashi.net/bones/2021/04/post_3591.html
社会の近代化とともにそういう生き方が日本では十分可能になった、ということも大きいだろう。しかしその結果日本では人間関係が希薄な人が多くなり、特に災害の時や感染症の流行などの危機的状況の中で関係性が薄い人たちが困難な状況に追い込まれやすいという現象も起こってきた。
今回の「孤独・孤立対策担当大臣」の設置というのは、「日本では孤独の問題が可視化されやすい」ということを意味していて、それは「孤独をプラスの価値と見る見方が日本では(ある意味)伝統的に強い」ので、孤立化していてもそれをニュートラルに捉えられ得るということを意味しているのだろうと思う。
「孤独であること」を「恥」と感じる文化ではなかなかそういう対策は打ちにくいが、日本の場合は「選択してそうしている」という誇りがある人も多い。しかし選択の結果とはいえ困難が生じていることに対して国民の統合を考えなければならない政府の立場から孤独対策を行うというのは、世界的に見ても例外的な、ある種奇異に見える現象だということなのだろう。
これはフリーター・非正規労働の問題とも重なり、選択してフリーターを選んでいた時代から非正規しか選択肢がない時代に変わったように、孤独を選択していた時代から孤独を強いられる人が多くなったという変化もまたあるのだろうと思う。
つまり、世界的に見れば「望まない孤立・孤独」という概念自体が奇異なのだろうと思う。「孤立・孤独を望む人間がいる」ということ自体が多分不思議に見えるのだろう。それは、「孤立してない、孤独でないという意識がプライドの源泉の一つ」という世界的な常識に反するのだろう。
この辺りはおそらく、日本の伝統的な美意識、「隠者の文化」みたいなものが補助線になっているように思われる。世界的にも聖アントニウスみたいな隠者はいたわけだが、今のアトス山とかの修道院の話を聞くと群れを成して宗論で激論を交わすみたいな感じになってて、「孤立・孤独そのものを価値とする文化」ではないなあと思う。
まあ兼好法師や鴨長明などの隠者文学と言われる人たちも実際には都鄙に降りてきてその辺の人たちとかなり濃い交流をやっていたらしいし松尾芭蕉などもむしろ全国にネットワークを築いていた感じもあることはあるのだが、ただ「孤独・孤立を価値とする」というところが日本において評価されることは変わらず、近代になっても尾崎放哉や種田山頭火への憧れというものはあるわけで、その辺の「孤独・孤立の文化的厚さ」みたいなものが、日本ではもともとかなり大きいということがあるのではないかと思う。
そうしてみると、現代の日本の少年マンガに、逆に「友情」とか「仲間」というものを強調する、良いものとして称揚する作品が多く、また人気があるのもある意味日本人というものは放っておくと孤独を好むという体質的なものを持っているからではないかという気がする。
「優れたものは理解されないから孤立する」というようなテーゼも恐らくは日本でほどは世界では理解されないのだろうと思う。そう考えると、ゴッホという人物がどうして日本でこんなに人気があるのか、ということもまた理解できる気がする。ネオリベ系の若手界の老害のような人たちも「友情なんていらない」と言い切る人たちが多いが、この辺が受け入れられるのも、ある種の日本文化的な背景があるのかもしれないと思った。
なぜそうなるのか、そこをどうしていけばいいのか、というのはまた別の問題なので頭の良い人たちに考えてもらいたいと思うが、ただ我々日本人というものは、やはり結構変わっているのではないかという気もしなくはない。新型コロナの感染があまり拡大しないのも、日本人の持つ微妙な他人との距離感も関係しているかもしれないななどと思ったりもした。
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