どういう場所で生きるのか
Posted at 21/04/09 PermaLink» Tweet
可能かどうかは別として、将来を考えるというときに、「どの階級で生きるか」ということは選択肢として考えた方がいいなという気がしてきている。最近、本当に自分は世の中を知らなかったなと思うことが多い。階級というのは図式の問題ではなく、どの階級で生きるかということは、それぞれで結構生き方が変わってくるなと思う。
現実に進路選択をする時に、一番きかれるのは「何がやりたいか」なわけだけど、それがすごくはっきりしている人はあまりいなくて、それでもどこで生きたいかとかどんな暮らしがしたいかなら割合現実的なイメージを持てる、という人は多いように思う。
思い出してみると、自分が高校生の頃将来何をやりたいかと考えたときに、出てきたのは「天文学」か「シルクロードの歴史」だった。今は結局どちらもやっていないわけだが、もっとはっきり「やる」と決めていたのは、「東京に出ること」と「東大に入ること」だった。それは今思い出してみるとあまりにも自分にとって「当たり前」のことだったので、特に「目標」とさえ思っていなかった。当然実現すべき日程の様なものだったのだが、今考えてみるとだからそれが実現したんだろうとは思う。
それに比べると「天文学」や「シルクロード」は「やれたらいいなあ」というくらいの目標で、だから「やりたいこと」だとか「目標」と名付けていたのだけど、やはりその程度では実現するのが難しかったんだなと今では思う。
職業に関して考えてみても、特に何をやりたいと決めていたわけではなく、天文学かシルクロードの勉強をしてなれるものになればいい、くらいにしか考えていなかった。悪くても教師くらいにはなれるだろうし、みたいなことは思っていたが、見事に教師になった。
今考えてみると、そこはもっと詰めるべきところだったと思う。会社員になりたいとは最初から全く思っていなかったが、それなら何になるのか。母には研究者になればいいと言われていたのだけど、「研究者」というものが結局何なのか、あまりよくわかっていなかったので具体的にイメージできなかったのだなと思う。「教師」は身近に見ていたからイメージしやすかった。大学の先生と高校の先生がどう違うのかもあまりよくわかっていなかった。高校の先生になれるなら大学の先生にもなれるんじゃないか、くらいの感じだったなと思う。
大学の時はとにかくその時にやりたいことをやる、そのうち将来やりたいことも見えて来るだろう、という今考えるとそらアカンやろという部分もある思考だったが、とにかく目の前のやりたいことをやっていた感じで、かなり長いあいだ演劇をやっていた。しかし、将来もずっと演劇をやりたいかと考えたときに何か違うと思った。何が違っていたのだろう。今考えてもその辺のところがよくわからないが、所属していた劇団のことは分かっていても「演劇という世界」あるいはその周辺にあるステージ芸術であるとか、演技を軸としたエンタテイメントみたいなものの世界というものに所属していたいという気持ちが、結局はあまり起きなかったということなんだなと思う。何か「世間が狭い」感じがしたのだ。恐らくは必ずしもそうでもなかったのだが。
「所属」というものが若いころの自分にはあまり理解できなかった、というかむしろマイナスのイメージでとらえられていて、そこが今考えると落とし穴だったなと思う。「学者は自由な仕事」だというイメージがあったけど、大学院に行って学会とかに参加してみると、まず最初に参加者名簿に書かされるのは「所属」である。これはかなり抵抗感があった。学者というのは「所属」させられる仕事なんだなと。また「所属」が得られなければ続けられない仕事なんだなと思ったし、実際ツイッターなどで見ていてもそれで苦労している人は実に多い。
今思えば、「所属」など「住所の番地」みたいなもの、くらいに考えておけばよかったのかなと思うのだけど、若い頃はそんなことも実にマイナスな感じでとらえていた。「所属」というのは「自由」を強く束縛するものという印象が強かったのだと思う。
それではフリーランスになりたかったのかというとそうでもない。今なら誰かにアドバイスを求められたらフリーランスになるならどこか大手にまず所属してみて業界の仕事の仕方を知ってからの方がいいよ、と言うと思うけど、当時はそういう発想はまるでなかった。今考えると何を考えて生きてきたのか不思議だが、結局芝居をしながらやれそうな仕事と考えて高校教師になってみて、実際にはとても両立は出来ないから芝居を続けられなくなって、そうなると教える仕事そのものに抵抗はなくてももともとが「高校教師という仕事がやりたい」わけではなかったから、巨大な困難に見舞われると、結局は続けられなくなったのだなと思う。
ただ、今の仕事や生き方、文章を書く上での種になる経験にしても、教師時代の経験がいろいろな面で生きている。とにかく第一線で仕事をするということは大事なことで、否応なく世の中のいろいろな面を知り、世の中の矛盾も考えるし理不尽にもつきあたるし、どうあればいいかという理想についても考える。どんな仕事でも生活できる給料をもらって一度働いてみるといい、ということは確かだと思う。やりたくない仕事よりはやりたい仕事の方がいいと思うが。
結局人間一人では生きていけない。子どもの頃、わりと周りに風来坊というか「世界中を旅行している人」や「何で生活しているのか分からない人」が結構いたせいか、人間どんなふうにでも生きていけるという感覚が自分の中にはとても強くて、その感じが「所属」への拒否反応みたいなものにもつながっているのだろうなと思う。
しかし人間一人では実際生きていけないし、どんなに自由であっても結局はどういう世間かに所属し、どういう業界かに所属して生きることにはなってしまう。完全に所属を拒否してデイトレーダーで生活するとかの手もなくはないが、そうなると一番話が合うのはデイトレーダーになってしまい、そういう世間に属することにはなると思う。
まあ私のように「所属」に変にこだわりがない人の方が多いとは思うのだけど、昔の私のようにそういうこだわりがある人がいたら、イヤかもしれないけど所属するならどういう世間がいいか?というくらいの柔軟さを持って思考した方が充実した人生につながるよ、ということは言ってもいいかなと思う。
結局ツイッターとかで物を言ったり、noteで物を書いたりしていても、ある意味ツイッター世間やnote世間に「所属」してしまうところはあるのだし。まあツイッター世間では所属しても1円にもならないけど。
今思えば、どんな学科でどんな研究であっても、まず成果が出るまで研究して、その後どういう方向に変わっても研究者としての仕事は続けられるわけで、とりあえず研究者になっておく、という選択肢はあったなと思う。現実には修士で大学院はやめたのでその先には行けなかったわけだけど。
最初の話に戻ると、「階級」ということについて自分のこととして考えたのは、下のサイトを数日前に見ていたということがあったなと思う。
http://labaq.com/archives/51930223.html
この表はかなり面白いのだけど、要は階級ごとの思考パターンの違いということだ。たとえば「お金とは何か」という問いに対し、下層階級は「使うもの」と考え、中流は「管理するもの」と考え、上流は「投資するもの」と考える、などというのはなるほどと思う。お金を減るものと考えるか、維持するものと考えるか、増やすものと考えるかは彼らがその階級に属する原因でもあり、結果でもある。
人の価値を「面白いやつかどうか」で測るか、「物事を達成する力」で測るか「どういう人脈を持っているか」で測るかというのはまるで思考が違っていてここも面白い。もちろんどれも持っていた方がいいとは思うが、上流が上流であるゆえんは人脈を持っていることだ、ということがよくわかる。
生きる原動力は下層階級では人間関係であり、中流では達成感であり、上流では経済力や社会的地位を獲得したり守ったりすること、というのもそうだろうなと思う。お金を得たら次は名誉だ、というのはよく言われることだが、お金と名誉が原動力になる人が上流になるしまたその地位を維持するためにはその二つが必要なんだろう。
まあこれらはかなり単純化した話ではあるのだけど、どの階級で生きるかを考えると、これらの表の中のどういう価値観が自分には心地よいかという問いにはなる。
自分のことで考えてみると、実際に田舎で生きてみると、考えているよりもずっと人脈というものの価値は高かったなと思う。そしてちゃんと人脈を持ってる人にとっては、世の中は多分自分よりも生活しやすいだろうなと思う。
それは生活しやすいということであって、自分の価値観で生きられるかどうかとはまた違うのだが。
自分のこれまでのことを考えてみると、結局は「何をやりたいか」を基準に考えてきて、「どういう場所で生きるか」みたいなことは後回しになっていたなあと今になっては思う。コロナ前は東京と田舎を往復していたが、今はずっと田舎にいる時間が長くなっているので否応なく居場所のことを考えざるを得ないということもある。それによって見えてきたことも大きい。東京ではどんな立場でどんなふうにでもお金さえあれば生きていけるが、田舎では世間というものを考えざるを得ないということもある。
若い頃はやりたいことをやっていれば満足できるということもあるし、ある程度大人になったら同じような志向を持つ人たちと交流出来ていれば快適に暮らせるということもある。しかし年齢が行って来ると、今度は生活そのものの快適さの様なものの方が重要になってきて、そうなって来ると人脈の威力というものは効いて来る。
時代もよかったということもあるが、若い頃はやりたいようにやっても生きられた。大人になると、不愉快な人間関係はとりあえず削除して、話の合う人たちの中で生きる快適さを優先するようになって来たように思う。そして今になると、どうやれば生活そのものが快適になるかが重要になってきて、それが守られていることが人間関係の快適さややりたいことが出来る条件でもあるように思えてきている。
つまりは、世の中がどのように出来ているかが分かってきて、生活面で必要なポイントポイントで自分に必要なことを提供してくれる相手がいるかどうかが大事だということが理解できるようになるし、また相手に対しても相手が必要なことを提供できるかどうかが大事なのだということが分かってきた。
そんなふうに好き勝手をやっても生きてこられたのは時代が良かったからだろうと思う。今の若い人はそういうところはシビアに考えないとすぐ生きるのが大変になってしまうので若い頃からそういうことをちゃんと考えて生き方を選んでいるのだろうと思う。我々の世代に比べてそういうところがすごくしっかりしていると思う人が多い。それがしっかりできないと夢もへったくれもない、というのは大変なようでいて、我々の時代とはまた違う可能性を持っている人たちが増えているのではないかと期待する思いもある。
とりあえず、雑観のようなものになってしまったが、現時点で自分を振り返ってみた。これからはより快適に生活でき、より快適な人間関係を保ち、自分のやりたいことをやって、生きていきたいものだと思うけれども、どういうふうに考えて生きていけばそれが最も胃jつ減できるかの最適解は、まだ見つかってはいない。
そうです。わからないまま生きていく。明日からのそんな私です。
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