徳富蘇峰の教育観
Posted at 21/03/29 PermaLink» Tweet
いろいろ忙しい中で何を読むか考えていたのだけど、それは「明治精神の構造」が徳富蘇峰のところでストップしてしまっていたからで、どうも何をチラチラ読んでもあまりこれだというものがなく、まずはこの本に戻ってみようと思い、徳富蘇峰の章を読了した。
蘇峰は最初に平民主義を唱えて論壇にデビューしたものの、明治20年前後の不平等条約改正問題で国民主義との連帯を図る中で、中心が国民主義に移って「転向」と騒がれることになった。この章で書かれているのはこの「転向」前までの話で、その次の章が政教社になっているので、蘇峰の後半生もそちらの方で語られることになるのかなと思った。蘇峰は政教社メンバーではないが、国粋主義という点では共通していると言っていいだろうと思う。
蘇峰が熊本で開いていた私塾・大江義塾は、イギリス流の自由主義教育を標榜し、大幅な生徒の自治を前提とする運営方針だったという。これはここで学びのちに孫文らを通して中国革命に大きく関わった宮崎滔天が書いているところによると、生徒たちは蘇峰を「猪一郎さん」と呼び、カリキュラムを作るのは教師たちであったが学則は自分たちで話し合って作るなどした「自治の民」であったという。
この時代の彼の主著は『第十九世紀日本の青年及其教育』(のちに『新日本之青年』と改題)と『将来之日本』だが、『第十九世紀日本の青年及其教育』では青年の教育について書かれていて、「封建主義による教育」と「折衷主義による教育」を批判し、合理主義精神と自尊自愛の精神を育て、自治の精神を養成する自由主義教育を為すべしと主張した。この辺りは、戦前期の旧制中学や旧制高校の自由・自治の気風にも大きな影響を与えたものではないかと思う。この本は田口卯吉が自分の主宰する「東京経済雑誌」で数週間にもわたって連載し、また郷里の先輩である井上毅は役所を休んで通読し、周囲に推薦して回ったという。いかに彼の主張が歓迎されたかがよくわかる。
このあたり、蘇峰の初期の仕事が教育に関するものだったというのは割合に意外で、その平民主義の主張もこうした教育の実践から出てきているというのはなるほどと思った。
その後彼は東京に出て言論活動に乗り出すわけだが、その中で不平等条約改正の運動に関わり、また三国干渉に強い衝撃を受けたことなどもあって国権論に転向し、政府の参事官に就任したことによって反政府人士の批判を浴びることになった。
ただ、戦前の教育、特に旧制高校が意外なくらいに明るい、自由な学問の場になり、保守からリベラルまで幅広い人々を輩出していく一つの基を作ったのはこの蘇峰の教育論があったのではないかという気がする。
保守主義の教育ということについてはまだ定見があるわけではないけれども、この辺りのことは面白いと思った。
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