保守主義と日本国憲法
Posted at 21/03/21 PermaLink» Tweet
なかなか忙しくて、今日もこれから出かけなければならず、次にネットに繋げるのはいつかわからないので、今ちょっと書いておきたいと思う。
日本の保守主義についてずっと考えてきているのだけど、大きなところはまず日本国憲法をどのように扱うかという問題がある。日本国憲法の自然権、制定前権利としての人権という思想と、それに基づく契約国家論をどう考えるかという問題だ。
戦前から活動してきた古い保守主義者にとっては、まずこの憲法自体が受け入れられない、日本の国柄を破壊している、という主張があり、これはこれでよく理解できる。日本の国柄というのはこの場合、明治以降に形成されてきた近代国家としての国柄ということだと考えられるが、その中には伝統的な美意識や「武士道」などの考え方、また儒教的な考え方も含まれるので、「国柄」意識は近代思想だけからできているわけではない。しかし、美意識や「武士的精神」というものは現代日本人の中にもかなり残っている面はあり、良くも悪くも受け継がれている面はある。
一方、日本国憲法というものも1947年の施行以来、74年間にわたり日本人の思想や行動を大きく規定してきた。その中で皇室をはじめ伝統的な文化の担い手たちも、その中での役割を模索してこられ、ある種の型が出きてきたとも言える。ベースには伝統的な価値観がありながらも、日本国憲法の思想をあるいは受け入れ、あるいは不適切と考えながら、当初は受け入れがたかったものと折り合いがついたりつかなかったりしているのが現状だろう。
もともと、昭和天皇が昭和21年の年頭の勅書、いわゆる「人間宣言」を明治天皇の名で発布された「五箇条の御誓文」から始めたように、昭和天皇は「日本的な民主主義」というものがあると考えていたし、またイギリス的な立憲君主制を自らの理想とされていたところがあったと思われる。
現憲法では天皇の政治的役割はイギリスに比べても大幅に制限されたものになってしまっているが、昭和天皇も上皇も、今上陛下も憲法下の日本において、どのような役割を果たせばいいかについてお考えになり、特に上皇陛下はそこを積極的にとらえ、行動されてきたように思う。
その辺りから考えると、日本の保守主義というものを考える上でも日本国憲法が曲がりなりにも70年以上機能してきた現実に基づき、何を取り何を批判すべきかを考えていく必要はあると思う。
特に、「広く会議を興し万機公論に決すべし」という五箇条の御誓文にもある「話し合いで物事を進めていこう」という考え方は、当然ながら律令時代や鎌倉時代、江戸時代でも行われてきたことであり、それをより開かれた形で討議していくべきという原則は守られるべきだと思う。つまりファシズムのような独裁制、またプロレタリア独裁のような一つの党派に国の指導を委ねるようなやり方は、日本においては排除されるべきだと思う。
つまりそれは、思想の対立があることを容認するということである。これは言葉で言うのは簡単だが、なかなか人情としては難しい面がある。女性がいると会議が長い、といった確かにアナクロニックではあるがたかが老人のジョークに激昂して彼を責任ある地位から追い払うことをよしとするような空気が、今の日本にはある。自分の認められない思想の人物が責任ある地位につくことをなんとしてでも妨害したいと言うことである。それに対してそれはやりすぎじゃないかと言う反応を封じ込める空気が、アメリカなどほどではないにしても日本にあるのは、私から見たら残念なことである。
ツイッターなどを読んでいても、最近思想対立に由来する騒動があった。元々はある研究者が軽口のように斯界の権威(故人)を批判したことから始まったのだが、話が大きくなり、別のところにあった対立の火種に火をつけてしまい、かなりの大騒動になった。
こちらももともとあった思想対立、それもかなり激しい対立が表面化した形だが、そのやり方について問題にされ、一方の当事者が謝罪に追い込まれた。元々の批判には、文脈を読めばもっともと思われるのだが、個人攻撃と取れる部分があったことはやり方として適切だったとは言えない面はあるだろう。ただそれはお互い様という面もあり、論争に加わった女性に対して揚げ足取りや非難、侮辱などと取れる部分もあったわけで、そうした批判のあり方については評価が色々あるのは当然だと思う。
ヴォルテールに擬されている民主主義についての格言の一つに「私は君の意見には反対だ。しかし君がそれをいう権利については命に変えても守る」というものがある。このことをもっと重大に考えたほうがいいのではないかと思う。
さまざまな発言が、相手に対して抑圧的に働くことはある。特に言論の場において物理的な暴力が容認されないようになってからは、言葉の破壊力が相手を論破する力を持つようになり、「言い過ぎだ」と感じられる発言が勝利を収める傾向が続くと、言葉はどんどん汚く、強いものが飛び交うようになる。
それはまた言論においては技術の一つであり、特に現代の一般的なあり方を根底から変えようという思想においては、そういう強い言葉を用いなければ相手に打撃を与えられない、と考える党派が出てくることは止めようのないことかもしれない。
これは左右問わず見られる傾向であるが、言葉の強さや技術で相手をやり込めても、相手はそれに共感することはなく、不満は地下に潜るだけである。特に現代社会において正論の地位を獲得している言論においては、その傾向は極めて強く、それに対する不満がアメリカでのトランプ現象やイギリスでのブレグジットにつながっていることは言論に関わるもの全てが問題として認識してもいいことだと思う。
物理的な暴力による弾圧はミャンマーのように問題を広げるだけだし、ウィグルやチベット、モンゴルのように世界に問題点が喧伝されるだけなのだが、言論や民主主義的なやり方を借りての戦闘にしても、アテネの陶片追放の制度が悪用されて政敵追放に用いられることで弱体化を招いたように、万能ではないということは覚えておかなければならないと思う。
いずれにしても完全な制度や完全な社会というものは今までもなかったしこれからもないだろう。その時によりマシな制度、よりマシな社会にするためにはどうしたらいいか、というのがいわば保守主義の発想の原点だと思うのだが、より完全な社会を目指す設計主義的な理想主義者はそこを認めないので、なかなか厳しいものはあるなと思う。より説得的な制度や社会、国家を作っていくための思想をまず、作っていきたいと思っている。
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