植木枝盛から考える(2):近世武士道と「東京卍リベンジャーズ」「かぐや様は告らせたい」/家永三郎と丸山眞男
Posted at 21/03/19 PermaLink» Tweet
これは私が理解している限りでの図式的な把握なので現代史学ではもっと研究が進んでいるとは思うが、中世では武士の主君と家来の関係は「御恩と奉公」の関係、つまり西欧の騎士と同じような「領地の付与ないし安堵」との見返りに「軍役奉仕」が義務付けられた関係であった。
しかし西欧の貴族たちがいわゆる絶対主義時代には宮廷貴族化していったとしても基本的には領地を持っていたのに対して、日本の近世武士たちは大身の旗本や大名家臣を除いては切り米制、つまり「自分の領地からの上がりで食べる地主階級」ではなく「給与生活者」になったと言う変化があり、主君に対する独立性が弱くなった。近世武士たちはその上で「役方」「番方」「近侍役」と言う形で主君に奉仕したが、軍事的性格の番方や政治実務を担う役方(これは近世武士の役割の大きな変化だったと思うが)だけでなく、主君の個人的な身の回りの世話をする「近侍役」、つまり小姓や側用人なども務め、君臣が密着した関係にあった場合も多い、つまり「距離感が近かった」と言うことが大きい特徴であるように思った。
その上で、武士は主君に「個人として」抱えられたのではなく、基本的には子々孫々代々、「家として」抱えられたと言うことも大きいように思う。これは家臣である武士から見れば安定的に主君に忠義を尽くすことの意味があったわけだし、子供にもそう言う教育を与えただろうし、また主君が潰れたら自分たちも一家離散なので主君を押し込めることも場合よっては辞さず、と言う関係も生まれる一方で主君の側から見れば家臣を「所有物」とみる観念も生まれやすかっただろうと思う。
道徳的・思想的な系譜としては朱子学の影響や水戸学や会津の什の掟、葉隠など各藩の独自の思想の影響も当然あるだろうが、関係性としてそれを分析してみるとそう言う感じが基本的にあったのではないかと思う。
この辺りは現代でも多分尾を引いていて、特にアウトロー的な世界や伝統的な上層エリートの世界にはそう言うものが残り、またそれがマンガなどによって表現されていたりもすると思う。「かぐや様は告らせたい」のかぐやの兄が「早坂家は俺の所有物だ」みたいな発言をしたり、「東京卍リベンジャーズ」でマイキーがタケミッチのことを「あいつは俺のもんだから」のような発言をしたりするのはそう言う方面から考えると理解できるようには思った。
あとは、先に読んでいた「明治史研究の最前線」の第3章「思想史研究」のところにも関わるのだが、植木枝盛研究を進展させたのは家永三郎だと言うことがわかったのは、かなり全体像が見えた気がした。家永という人は「検定不合格日本史」でしか知らず、過去の遺物のような左翼史観の歴史家という印象が強かった。「明治史研究の最前線」によると日本で「戦後確立した」近代思想史を担った人として政治学では丸山眞男、歴史学では家永三郎があげられているのだが、家永は少し調べてみると古代史や仏教史などから始めて、戦後は植木などについても研究していることを知った。彼はかなり多作だったようだが、とりあえず「日本文化史」(岩波新書)は読んでみようかなと思った。レビューを少し読むと武士道について批判しているようで、この辺りは論的ポジションになりそうだなとは思うが、読んでおかないといけないなと思った。
思想史についてなんだか「明治史研究の最前線」では歯切れの悪い感じがあり、恐らくは家永三郎をどう扱うかという問題が本当には決着していない部分があるのではないかという気がした。一方で政治学の方では丸山眞男の存在感はいまだに大きいようで、私もこちらは「日本の思想」(岩波新書)しか読んでいないのでなるべく主著とされる「現代政治の思想と行動」は読むようにしたいと思った。
明治史は近代史であるが、すでに全体が100年以上前のことになっているので、「明治史研究史」自体をちゃんと把握しておかないと議論が見えなくなる。研究書の多くは日本語だから語学のハードルは基本的には低いし、研究書以外のものも博捜すればかなり見えてくるものもあるように思う。私の最終的な目標は明治時代史ないし思想史を押さえることではなく、日本にとって大事だと思われる「保守主義」の姿をより明確に、できれば「今日から使えるように」示すことなので、「学びて思わざればすなわち暗く」に陥ることなく、また「思いて学ばざればすなわち危うし」に走ることもないように、しっかりと調べ、また考えていきたいと思う。
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