明六社の人びと/岩波書店の凄さ/自分の知らない父のすがた
Posted at 21/03/14 PermaLink» Tweet
「明治精神の構造」を読んでいたのだが、福澤諭吉のところを読んでいて、明治6年に森有礼の提唱によって作られた啓蒙主義の結社・明六社のところを読んでいて、多くの啓蒙思想家の名前が出てきたのだが、あまりピンとこない思想家の一人に西村茂樹という人がいて、それを少しググって調べてみたら現在も活動している国民道徳振興団体・日本弘道会の創設者だということがわかった。
彼はWikipediaによれば佐倉藩の支藩の出身で、佐倉藩の藩校で学び、老中となった佐倉藩主堀田正睦のもとで貿易取調御用掛に任じられた人物だという。その後の詳細は書かれていなかったが明治6年に明六社の結成に参加し、儒教を根本とした国民像を提唱したという。主著は「日本道徳論」でこれは岩波文庫にも入っている。
まあこれだけではよくわからないのでこれからまた調べてみないといけないと思ったが、こうした経歴でこういう考えの人が明六社に参加しているというのも興味深い。また孫の一人には宮本百合子がいるというのも面白いと思ったが、宮本百合子のもう一人の祖父は米沢藩士の中條政恒という人で安積疏水を引いた人であるとか、このあたり明治期の文化や殖産興業策などが閨閥的に絡み合っているのも興味深いなと思った。
福澤に関する部分はまだ読みかけなのだが、福澤諭吉の思想が分かりにくい点があるのは、彼が常に実際の問題に際して問題と目指すべき目標を掲げて議論したからで、必ずしも一貫性がないという点にあるという指摘。徳富蘇峰はそれを評して「臨機応変」「対症投薬」と述べたと言う。そういう意味では福澤は理論家ではなかったということになるが、やはり基本は日本を欧米列強に負けない、彼らに伍していく国にしたいという信念の人だったのだろうと思う。
ちなみに明六社に参加した人物の中に日本の統計学の祖と言われる杉亨二がいるが、私は彼をなぜ知っているかというと、子母澤寛の小説「勝海舟」に出てきたからだ。彼は統計学の魅力に取り憑かれ、勝に「統計学は面白いか」と聞かれて「面白い、実に面白い」と答えると、勝は「自分は面白いからと学問をやったことはないねえ」と言われてハッとした、というエピソードが書かれていたからだ。
Wikipediaによれば彼は統計局の祖にあたる部局で本格的な国勢調査の実施を目指して努力したが、第一回国勢調査が実際に実施される1920年の3年前に、90歳で亡くなっているのだという。こういう文章を読むと、先人の遺徳を偲びたいものだと思う。
こういうことを調べていると、実はかなりの重要な文書が左右問わず岩波文庫に収められていることがわかり、岩波書店の歴史の偉大さが改めて理解できるところがある。今読んでいる「明治精神の構造」自体が現在では岩波現代文庫に収められていて、私が読みたい主要な著作が多く拾い上げられていることに感謝しなければいけないと思う。
また、こういう本をいちいち買うのは大変だなと思っていたが、父の本棚を探すと実はかなりこういう社会科学や人文科学に関する岩波文庫を中心とした書籍を実は父はかなり持っていて、どこまで読んだのかはよくわからないけれども、父の活動には広範なバックボーンがあるということを改めて感じた。
父が亡くなった後、その遺稿は母が中心になって遺稿集を作ったのだけど、それは多くの部分が私の知っている父の姿ではあったのだが、こうして本棚を詳しく調べてみると、自分の知らない父の姿が現れてくるように思った。
一部の書籍は東大が古書籍の提供を求めたとき(それを売却し多分を東大への寄付金に当てるというもの)にそれに応じて寄付したのだけど、文庫等つくりの関係でかなりの傷みがあるものは残されていて、それらもきちんと整理すればかなり使えるのではないかということがわかった。
祖父も地理の教師だったので特に地元関係の地理歴史関係の書物は結構残っていて、それらは割と使っていたりするのだが、改めて父の書籍をきちんと活かせるとある種の親孝行でもあるなと思った。
父が亡くなって12年も経ってそういうことに気づくというのもアレはアレなのだが、まあ自分の中の整理もだいぶ進んできた感はあるので、こうした遺産を生かして自分のやりたい仕事、保守主義についてまとめ直すということと、これからの日本にとって必要と思われる思想の要点が伝えられるようなものを作るということの二つに向けて、取り組んで行けたらなあと思った。
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