ドラッカーの保守主義、「明治史研究の最前線」、ロールズの第二原理などなど
Posted at 21/03/01 PermaLink» Tweet
3月になった。2021年も6分の1が終わった計算になる。あるいは、2020年度が後1ヶ月というべきか。いずれにしてもいろいろと忙しい時期。一つ一つ片付けていくよりないが、自分の研究というか保守主義というものを自分の中でとらえ、それを提示していくことはしっかりやっていきたいと思う。
昨日はブログを書くのが午後になったが、一つ自分なりにこれかなと思えたのは、伝統的な「人種や階級を超えた人間としての対等感」みたいなものが日本の保守主義の一つのよって立つところになるのではないかということ。協同組合主義とか日本的な上下一体感みたいなものとその辺りの関わりみたいなものも見ていければいいかなということもある。ただまあ、これはこれで広げ、深めていかなければいけないものだなとは思う。
昨日は一つにこれと決めずに気になったものをいろいろ読んでいたのだけど、一つはドラッカー。何かを読んでいたらドラッカーの保守主義について「産業人の未来」の言及があったので第8章「1776年の保守反革命」を少し読んだのだが、ドラッカーはアメリカ独立革命を強く肯定し、フランス革命を強く否定していて、バークの名前は見えないがバーク的な保守主義の、つまり理念による設計主義的な思想を強く否定する考えを持っているのだということが確認できた。
ドラッカーはナチスを強く批判し、出世作となった「経済人の終わり」ではそのナチス批判がチャーチルに高く評価されているが、「産業人の未来」の目次を見直すと、第7章が「ルソーからヒトラーに至る道」とあり、理性万能主義がナチズムに繋がったことを書いている。
今少し読み直してみて、この本はおそらく以前一度読んでいるなと思った。「経済人の終わり」が強く印象に残ったのでこちらの方の印象が弱くなっているが、理性万能主義の危険を訴えて「保守主義」を主張しているところはもう一度読み直した方がいいなと思った。この本が最初に出たのは1942年で、ハイエクの「隷属への道」が1944年なのでどちらも第二次大戦中になり、二人ともオーストリア出身でアメリカに渡っているが、二人の接点についてはウィーン時代にドラッカーの父のサロンにハイエクも来た、ということくらいしか今のところ見つけていない。ハイエクは1899年生まれ、ドラッカーは1909年生まれなので10歳違うし、ドラッカーはユダヤ系なのでボヘミア貴族の血を引くドラッカーとはまた立場は違っただろうなと思う。
ハイエクは経済学者、ドラッカーは経営学者として名を残すので、思想史的にはハイエクの影響力が強くなったが、この辺りのところは比較して考えてみると面白いとは思う。
二つ目は、「明治史研究の最前線」。昨日読んだのは「第1章 維新史研究」からコラム3「戊辰戦争研究の論点」までだが、研究の趨勢がわかるとともに現在の研究動向の知らない点の指摘がいくつかあって興味深かった。
私の関心事との関わりで言えば「王政」概念にならんで「公議」概念が重視されているのが興味深いと思った。日本の保守主義の一つの原点としてこの「公議重視」ということは必ずあげられると思う。昭和21年念頭の所謂人間宣言でも、勅の最初に「五箇条の御誓文」が引用されていて、「維新の原点に帰る」というような意識が昭和天皇にはあったと思うが、契約国家論的な日本国憲法のデモクラシーと「公議」概念の比較が「日本の保守主義とは何か」を明らかにする上で大事になってくるのではないかと思う。
「公論」の政治的意味は、「多くの支持を集めた意見」と言う意味と「正論である」と言う意味があると言うのはなるほどと思った。多数決か正論か。それを一致させる試みが破綻したのが明治6年の政変であるという考え方。そのあとはいわゆる有司専制体制になるわけだが、8年には「漸次立憲政体樹立の詔勅」も出されていて、公議の重要性を無視しているわけではないことを示そうとはしている。
もともと幕末史に関しては必要もあってある時期幕府政治家の研究書は結構読んだのだが、専門歴史家でない人の著書も多いので再確認が必要かなとは思う。また80年代以前に書かれた本も多いから最新研究がどうなっているかは見ないとと思う。
もう一つ興味深いのは維新後に矢継ぎ早に行われた戊辰戦争、版籍奉還、廃藩置県、秩禄処分が幕末期に蓄積された諸問題の解決という性格があるという指摘。幕府・藩・それに仕える武士という層を新政権でどのように位置づけるかはもちろん重要だったことは間違いないが、それはすでに維新前から意識されていたとかなと思う。
版籍奉還・廃藩置県は明らかにフランス型の中央集権体制をとったわけだけど、それは普仏戦争とドイツ第二帝国成立前後という微妙な時期に行われている。ドイツは各領邦を滅ぼさず連邦制という形をとったわけで、明治政府がそれを選択せずフランス型を採用したのにはどのような議論・政治過程があったのかということを思った。
その後で奥羽越列藩同盟のくだりを読み、列藩同盟自体が諸藩連合政府樹立の動きであったという指摘を読んだのだが、ということはいわばこれはフランス革命における「連邦主義者の反乱」的な意味合いも持っているのだろうかとも考えた。
そのほか、奥羽越列藩同盟が越後に進出した理由の一つは開港場であった新潟の存在があり、ここでプロイセンから武器を購入したりしていたというのは初めて知った。蝦夷地の領地と引き換えにプロイセンに借款を申し込んでもいるらしい。列藩同盟が勝っていたらどうなってたか。
いずれにしても「諸藩連合による中央政府樹立」という方向性は戊辰戦争の過程でなくなったという見方はあり得るなと思ったのだが、その辺のところは当時の議論をもっとみていかないとわからないかなとは思った。
三つ目は昨日買った宇野重規「民主主義とは何か」の中で、気になっていたロールズの思想について概要を読んだ。ロールズについては今までも何度か読んだ覚えはあるのだが、どうも印象に残らずにいたのだが、昨日寝る前にその辺りを読んで、要は彼の思想の骨子は「公正な機会均等の下、最も恵まれない人の境遇を最大限に改善する限りで格差は認められる」、不平等が正当化されるのは、それが最も恵まれない人の利益になり、その人の視点から見ても受け入れられる時に限られる、という部分にあると了解した。
つまりこれは例えば「累進課税制度(税率が高所得者ほど高くなるという不平等)を正当化する理論」であると考えられるし、また「政府による公的扶助(貧しい一部のもののみを対象に政府資金を投入するという不平等)」を正当化する理論であるとも言える。これが主張されたロールズの「正義論」が発表されたのは1971年だから、時期的に言えばジョンソン大統領による「偉大な社会」政策が不調に終わり、ニューディール以来の「大きな政府のもとでの自由」に疑問符がつけられていた時期ということになるわけで、ここで改めていわば「リベラル派のバイブル」としてロールズが評価されたということになるのだろう。
宇野さんによればロールズは現実の福祉国家に対しては批判的だったというが、それはもちろん「偉大な社会」政策の失敗に基づいたものだろう。
保守主義は理性万能主義的なリベラリズムの推進に対するアンチテーゼとしての意味が常にあるので、リベラリズムの動向と保守側の動きというのはきちんと見ていかなければならないなと思った。
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