「日本のこころ」:日本にある「階級を超えた本質的な人間としての対等感」
Posted at 21/02/28 PermaLink» Tweet
宇野重規「保守主義とは何か」、渡辺京二「近代の呪い」を読み終えて次に何を読むのか、どういう方向に読書を広げるのかについていろいろ考えていて、試行錯誤的に色々なものを少しずつ読んでいるという感じ。
イギリスやアメリカの保守主義についてある程度のイメージを持った後、日本の保守主義について考えるという一つの考えがあって「近代の呪い」を読んだのだが、渡辺京二さん自身が現代を生きる人としての保守感のようなものがあり、私などが若い頃のいわゆる「保守」の人々が持っていた考え方みたいなものを知るのに出光佐三や福田恒存について少し読んでみた。
渡辺さんは思想家というより学者という側面が強く、自分の思想を語る時には抑制的で、さまざまな事象について検討しながら述べているので読みやすいのだけど、福田を読むときは自分でこれはこういうことだろうと解釈を加えながらの読み方になるし、出光はストレートに自分の思ったことをポンポンぶつけてくるのでどうやって相対化すればいいかとか考えながらになるので読むスピードは割と落ちる。
ただ私などの若いときの保守派というのは戦前からキャリアを積んできた人たちだったから、やはり敗戦によって失われたものについて強い感覚を持っていて、「明治精神」「帝国憲法」「教育勅語」などの素晴らしさ、「民主主義という名の敵対主義的思想」、「日本国憲法」「教育基本法」に対する強い批判がストレートに出てくる。ただ教育基本法の問題は、日本会議や自民党保守派が主張して平成十八年(2006年)に改正が行われたが、これが果たして当時の保守派が求めていたような改正になったのかはよくわからない。
敗戦後の、GHQの「指令」「指導」による思想改造、「戦前日本の告発・断罪」というものに対しての「違和感」というのはそうした保守派だけでなく、割合幅広い層に共有されるものだったと思うが、そういうものはそれこそ「声なき声」になってしまい、今ではあまり取り上げられなくなってしまっているものも多いように思う。小林秀雄の「僕は馬鹿だから反省なんぞしない、悧巧な奴は勝手にたんと反省すればいゝだろう」というような発言は、保守主義者の一つの戦後の復活の起爆剤のような役割はしているだろうと思う。
そういう中で、自分自身の本棚や父が残した本棚の中から、関係のありそうな本を物色しながら少しずつ読んでいたのだが、物理学者の中谷宇吉郎の「日本のこころ」(文藝春秋、1951)という本が出てきたので表題作の随筆、「日本のこころ」を読んだ。
この中で中谷は自分の聞いた話の中から、外国人から見た日本の話を二つ取り上げている。一つは理化学研究所で同僚だったイタリア人のディーケという人が浴衣で夏の神楽坂を散歩していたら汚い仕事服の労働者に「もしもし、西洋の旦那」と呼び掛けられたという話。もう一つは、ロシア人で東大生だったエリセーフがカスリの着物に下駄で北海道を一人旅している時、出たばかりの「三四郎」を読み耽っていたら米の買い出し人のような男に話しかけられ、「この頃はお国でもそういう字が流行りますか」と聞かれたのだという話。どちらも、人種とか階級とかに関係なく気さくに親密な感じで話しかけてくる日本人に感動したという話で、「昔の日本人はそういう人たちだった」という話だ。
この書き方は渡辺京二「逝きし世の面影」が「外国人から見た江戸時代の日本人」を見ることで失われてしまった日本人の姿を描き出そうという試みと同じだなと思った。中谷がもう一つ挙げているのが大森貝塚を発見したモースの「日本その日その日」という本に出てくる西南戦争当時の日本の様子で、これは「逝きし日の面影」にも参考文献に上がっていたのでやはりそうなんだなと思った。
この「階級を超えた本質的な人間としての対等感」というのは、やはり日本においては独特のものがあって、「近代の呪い」でも日本に来た外国人が日本人の使用人を雇ってもいうことを聞かなくて困るという話が出てくるし、いかに日本は上の者が下の者に気を遣う国かとか、そういう話は他の本でもよく読んだ。
恐らくはこの「階級を超えた本質的な人間としての対等感」というのが日本の保守主義においては重要な要素なのではないかなと思う。この辺りのことについてはまたいろいろ読んで考えて考えをまとめていければいいなと思う。
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