森元総理の件など雑感/保守とは態度でありイデオロギーではないこと:福田恒存の言葉
Posted at 21/02/27 PermaLink» Tweet
森元総理の件を車を運転しながらなんとなく考えていたのだけど、「価値観のアップデート」云々を言う人がいたけど、なんというか要は価値観や思想は時代に合わせてどんどん変節していけという主張なんだろうかと思ったり、ただ五輪組織委が森さんを頭にした組織になった時点でこれはどうかなと最初から思っていたのだけど、森さんを頭にしないと回らない状況があると関係者が思ったからそうしたんだろうなとは思ったり。森さんのおかげで実際面がどれだけ上手く回ったのかとかはよくわからないので評価は難しいんだけど、今の橋本ー小池ー丸川体制(JOCは山下さんだが)がそれなりに回りそうな感じはする。問題はおそらくはバッハみたいな次元の違う五輪貴族と互角にやりとりができるかどうかなんだが、大体のお膳立ては終わっているだろうから(追加経費の負担の問題があるが)まあなんとかなるのかなと言う気はする。
森さんは小泉以前の総理大臣だから過去の人感が強いんだけど、それだけに緊縮への囚われとかも強くなくて、ところを得ればそれはそれなりにやってもらえたと思うのだけど、森さんの下で色々やっていた人たちがどうもよくわからなくて、そう言う部分は結局は変わってないだろうから、もう当たり障りなく執行できればいいと言う感じなんだろうなと思う。しかし正直、「本当にやるのか?」感は強くて、まだまだ困難はあるだろうなと思う。
ただ正直、あの程度の発言でこれだけの大騒動になるのはやはりためにする議論が行われている、結局は菅総理が状況をうまくコントロールできなかったとしか思えず、どうにも感じが悪い。まあコロナがなければもう既に話は終わっていたところにこう言うことが降って湧いたので、色々な面で日本も世界もうまくいってない状況が端的に反映されているんだろうなとは思う。
オリンピックというのは、日本においては主にいわゆる「脳筋」の世界みたいに思われてるが、実際には「政治」「利潤追求」「国際的威信」など様々が絡み合った典型的な剥き出しの利害外交の場なのだけど、アスリートでありつつ日本の利害を代表できる人材みたいな人が日本では本当に育ってないなと思う。
それはスポーツがエリートの独占物ではなく幅広い層から選抜されてくるという事情もあると思う。それはある意味戦前の陸軍のようなもので、国民の間に広く共有されている感覚みたいなものが、スポーツの世界には反映されやすいようになっている気がする。そして、軍人が政治に関わらないというルールがあったように、スポーツ選手は政治に関わらないという不文律がある感があって、本当は育ってくるはずの政治とスポーツをリンクさせるような存在の人がなかなか出てこないのではないかと思う。
ヨーロッパがそういうものに強いのは元々アマチュアスポーツが貴族エリートのものであったからで、元々の土壌が違う。しかし逆に学校教育を通じてスポーツが大衆化したことで、日本独自のスポーツの良さ、強さのようなものも生まれたのだと思う。もちろんその問題点も数多生まれてはいるのだけど。
いずれにしても、現在の世界における日本の国家として、ないしは国民として、スポーツはどういう風にあるべきなのかという点を、どうした国家国民に資する存在になるのかという点をもう一度見直していくことも考えてもいいのではないかと思う。
***
佐藤松男編「滅びゆく日本へ 福田恒存の言葉」(河出書房新社)を拾い読み。この書題はどうかと思うが、内容は恒存の膨大な著作の中からエッセンスと思われるものを拾い集めたものということで、とりあえず気になる部分から読んでみようと思っている。
まずp.68「保守主義」の項。ここ、と思うところを書き出してみる。
「私の生き方ないし考え方の根本は保守的であるが、自分を保守主義とは考えない。革新派が改革主義を掲げるようには、保守派は保守主義を奉じるべきではないと思うからだ。」
「保守派は見通しを持ってはならない。人類の目的や歴史の方向に見通しの持てぬことが、ある種の人々を保守派にするのではなかったか」
「保守的な生き方、考え方というのは主体である自己についても、すべてが見出されているという観念を退け、自分の知らぬ自分というものを尊重することなのだ」
「保守派はその態度によって人を納得させるべきであって、イデオロギーによって承服させるべきではない」
「大義名分は改革主義のものだ」
読みやすいように漢字と仮名遣いを変えたが、これはとりあえずそれこそ「アップデート」の試みなのでご寛恕願えればと思う。
「主義」という言葉にこだわるのは今の若い人が言うとなんとなく子供っぽい議論のように思えるが、ここではつまり「主義」と言うもの自体が「見通し」、すなわちある種の「実現すべき理想」に向かって遮二無二突き進む設計主義の弊害を表している言葉だ、と言うことが言いたいのだと思う。
そして我々の主体である「自己」についても、自分のことは全てわかっているという理性主導の考え方を避けるべきだ、と言うことを言っているのだろう。理性では把握できないものが自分にはある、それを尊重しなければならない。それが「自分の知らぬ自分」と言うものであり、これは社会に対しても同じで、理性的に見れば愚かに見えるような社会の様々な有様にも、理性では把握できないような様々な存在の意味があり、それを尊重することが保守の態度なのだ、と言うことを言いたいのだと思う。
「保守派はイデオロギーによってではなく態度によって人を納得させるべき」と言うのは本当に耳の痛い話で、Twitterで噛みつきあってるようなのはそう言うものと最も遠い状態であるとは思うが、なかなか今日的な状況ではそうした「態度で示す」形で「保守」と言うものに対する共感を広げていくことは大変だなとは思うし、まず第一に保守を標榜する我々以下の世代にとって態度で人を納得させるだけの内部の充実を持つこと自体がなかなかできていないなあと思う。いや、立派な人はいると思うのだけど、世間を納得させるところまでは行っていないと言うことだろうか。
「大義名分は改革主義のものだ」と言うのは「正義」を振りかざすリベラルやフェミニスト、ポリコレ派の醜態は改革派とは元々そう言うものなんだ、と言うことを言っていてある意味味わい深いなと思う。なかなか140字で態度で示すのは難しいわけで、それだけに表現の工夫が重要になってくるのだろうなと改めて思った。
「私は、すべて"主義"がつくものは、眉に唾をつけてみるという習慣があります。」と言うのはとぼけていて面白いのだが、まあ言いたいことは同じだろう。主義、イデオロギー、理想、正義、そう言うものが人を偏狭にする。
「自分の知らぬ自分」と言うものをバークの言い方に当て嵌めれば「国家・暖炉・墓標・祭壇」と言うことになるのだろうし、オークショットの言い方に当て嵌めれば「会話によって見えてくるもの」なのだろうと思う。
ただそれも、「国家主義・暖炉主義・墓標主義・祭壇主義・会話主義」になってしまったらそれはその時点で保守ではない。万能の剣というものは存在しない、という謙虚さあるいは諦観、なんと言えばいいのかそう言う現実認識そのものが、保守というもののある意味武器なのだと思う。それらのものを尊重する態度、尊重する行動、尊重する言論こそが、人々を納得させるための手段なのだろうと思う。
と言うところで今朝はここまでで。
***
「単なる思いつき」なのか「洞察」なのかはよく吟味してみないとわからないことは多い。と言うことを思ったので付け足しとして。
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