アメリカの保守(2):連合することで生まれた「アメリカ保守革命」
Posted at 21/02/19 PermaLink» Tweet
「保守主義とは何か」の第3章を読んでいる。昨日に引き続き、アメリカの保守の流れだけれども、様々な起源を持つ保守の流れ、その中にはリベラルから路線を変えたグループもあったわけで、それが1980年の大統領選挙でレーガンを当選させてそれまでのアメリカの政策を一変させた「アメリカ保守革命」を起こしたわけだ。今回はその過程を、本書の説明を元にまとめてみた。
「保守主義」の動きというのはアメリカの20世紀の歴史、そしてそれを主導してきたリベラル思想の動きにそのカウンターとして出てきたことが多いので、まず簡単に1930年代以降のアメリカ史の流れを追ってみる。
1920年代まで、経済的にも社会的にも個人の自由が政治の基調だったアメリカの歴史が大きな転換点を迎えたのが大恐慌と、それを解決するためにFDルーズベルトが主導したニューディール政策だった。ケインズ的に説明すれば政府が有効需要を創出するために多額の予算を投資して失業対策を行い、アメリカ連邦政府はそれまでにない「大きな政府」となった。
これをきっかけに、リベラリズムとはそれまでの「政府の制約を受けない個人の自由」であったものから、「大きな政府の下での個人の自由」に変化したのだという。この変化は、それまでの「個人の自由」を支持していた人々を分裂させ、ニューディールを支持する「リベラル派」と支持しない「リバタリアン」の流れを生み出したわけだ。
ルーズベルトの戦争指導はアメリカを勝利させたが、その後に起こった「民主主義陣営の分裂」により「冷戦」が起こる。特に中国の共産化とソ連の核実験成功はアメリカ社会に大きな衝撃を与え、マッカーシーの赤狩りなどの現象を生んだ。
しかしアメリカ政府のニューディール的な思想は受け継がれていき、それが最も具現化したのがジョンソン政権下での「偉大な社会」政策だった。一方ではアメリカはベトナム戦争に介入し、その中で反戦運動やカウンターカルチャーが盛んになって、そうした傾向に対する反発もまた強まることになった。
ドルショック、オイルショック、ベトナム戦争の敗戦、イランの米大使館人質事件など、アメリカの経済と威信の退潮の中で華々しく登場したのがニューディール的な大きな政府を否定しアメリカの威信を取り戻すことを宣言したレーガンだった。レーガンの元でアメリカは再び強国たる意志を取り戻し、その後は冷戦を終結させてアメリカ一強とも言われる世界秩序を作り上げた。その後のアメリカではリベラルよりも「保守」が強い影響力を持つようになり、世界の保守主義にも大きな影響を与えている。
ざっと流れはこんな感じだろうか。
この中で90年代以降はリベラル派のポリティカルコレクトネスの主張がより先鋭化するなど、リベラル派の側の反撃もより先鋭になったと思うが、それも保守が強い基調の中でもリベラル側の抵抗だと見ることができるのかもしれない。
こうした歴史の流れの中で、それまでばらばらに存在した保守のコミュニティが連合を形成し、アメリカ史の表面に浮上して「保守革命」を実現したということになる。
第一のグループが「伝統的保守」で、第二次世界大戦後にウィーヴァーやカークなどの著作やバックリーの「ナショナルレビュー」誌の発刊、メイヤーらの「フィラデルフィア・ソサエティ」の創設などにより、福音派などの宗教保守に支持を広げて、一つの勢力に成長していった。
第二のグループがリバタリアンで、元々はリベラルであった集団のうち、ニューディールへの反発から個人の選択の自由、市場の絶対性を主張し、人々が自分たちの多様なユートピアを追求することを肯定するグループで、これも広く草の根の支持を得た。これらの人々の中には第一のグループと重なる人も多かった。理論的にはフリードマンやノージックの著作を根拠とした。
この二つの連合が1964年の「超保守派」と言われたゴールドウォーターの大統領選への挑戦を可能にしたわけだが、ゴールドウォーター自身はリバタリアンではあったが伝統保守派とは違うスタンスも持っていたのだが、彼らとの連合のために公民権法に反対したり、冷戦的反共派を結集させるためにベトナム戦争での核の使用を示唆したりしたようだ。
第三のグループがネオコンで、元々はユダヤ人を中心としたニューヨークの知識人グループでコスモポリタンな思考を持った東欧系の移民が多かったという。彼らは出自からスターリン主義に反対するリベラル反共主義の立場だったが、「パブリックインタレスト」や「コメンタリー」などの雑誌を中心に結集し、国連の正当性や国際協調主義への不信とリベラルなカウンターカルチャーへの幻滅の中で共和党支持に転換した。彼らは「アメリカの覇権」の重要性を強く主張して、伝統的保守派やリバタリアンのグループとともにレーガン当選と保守革命の原動力になったわけである。
彼らの支持勢力の大きな部分はユダヤ人のコミュニティであり、中東政策におけるイスラエルの利害に敏感な人々だった。本来民主党支持のマイノリティではあるが政治・経済・文化・報道等に大きな影響力を持った彼らが保守の側についたことはかなり大きなことだったと思う。彼らは国際協調主義よりも、アメリカの覇権による世界の安定を選んだわけである。
最後のネオコンとユダヤ人コミュニティについては他の資料を参考にした自分のまとめの部分も大きいのだが、全体的にはこうした構造について、この本はとてもわかりやすく説明されていると思う。
その後のブッシュジュニア政権やトランプ政権における支持構造、また彼ら自身の思想については今まで読んだ限りでは書かれていないけれども、この辺りの認識を基盤にすれば理解しやすいのではないかと思う。それぞれの勢力について、次回はもう少し詳しく書いてみる。
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