世界経済を回復させるための保護主義:エマニュエル=トッド・インタビューを読んで(3)

Posted at 21/01/26

エマニュエル・トッドのインタビューを読んでの感想、3回目。

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00119/00104/

トッドの言うこと、現状の問題への処方箋というのは基本的に現在あるものを利用して、というのが多いのだけど、今回取り上げる「保護主義の導入による世界経済の回復」と「そのための国際機関の構想」という問題は各国の市場の閉鎖、保護主義を協調して行う機関ということで、これはかなり新しい提案ではないかと思った。

第二次世界大戦後、閉鎖的なブロック経済が世界戦争をもたらしたという反省のもと、一般的な市場開放を推し進めるGATTやWTOが自由貿易を推進し、近年は地域間の貿易協定であるTPPなどが作られ、市場の開放を協調して進めていく国際機関・国際的枠組みが作られてきた。記者の所属する日経新聞もそうだが、日本の経済人や政府関係者は「市場開放=経済のグローバル化」を全面的に支持するというより、ある種の宗教のようにさえなっているように思われる。

トッドの構想には基本的には賛成で、今の世界経済はどこの国もまず内需を高めるための保護主義が必要な状況だと思う。トッドのいうように、「長い歴史の中では市場が開くべき時も閉じるべき時もある」というのが正解だと思う。これは経済学者には言い難いことなのだろうと思うけど、「景気の波」があるように、「市場開閉度の波」があって然るべきという見解は割と目から鱗で、この辺は理論化されるべきではないかと思った。

世界市場の開放は、基本的に必ず価格を下げる。そうなると景気は沈滞する。市場を閉じ、関税を高くして国内産業を復活させる。それにより国内需要を回復させる。そうなれば市場を開き輸入を拡大することで、国家間貿易を再び活性化させることができる、と。

考えてみれば実際のところ、中国の近年の飛躍的な発展自体が保護主義的な政策でなされたことは記憶に新しい。一方で市場を開き続けた日本はどんどん低迷していった。

実際には、経済学も市場開放・財政赤字削減のフェーズと保護主義・財政出動重視の両方を組み込んだ立体的なものになっていくべきだと思うのだが、なぜそうならないのかはどうも不思議で仕方がない。トッドのような経済学の外にいる人だからこそ提案できることもあるなと思った。

またトッドは保護主義も自由主義の一部であると考えるべきであり、市場内部では経済主体のそれぞれの自由は守られるべきだとしている。

この辺は日本の社会構造・経済構造にそのまま当てはめていいかどうかは難しい。日本の経済や経営は「仁義」や「配慮」みたいないわば経済外のところで回っている部分もあるから、その構造を破壊したら取り返しがつかないところはあるわけで、その辺のところも然るべく理解され理論化されていかないと経済だけでなく社会構造自体がおかしくなる部分もあるなと思った。というかもうなっているんだけど。

ただ市場内部を再建すべき時には保護主義によって内部需要を高めるべき、というのは全くその通りだと思った。それが本当にリストラクチャリングなのだと思う。

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