「壊れかけている民主主義」を建て直すために:エマニュエル=トッド・インタビューを読んで(1)
Posted at 21/01/24 PermaLink» Tweet
ここのところ現代の問題について色々考えて、それらについて書いていたのだけど、世界は今何を目指すべきかみたいなことを考えていて、その中でTwitterなどで色々なものを拾い上げながら読んでいた。
その中でも、現実を考えるための補助線として誰かいい著作者や本があるといいなと思っていたのだが、昨日読んだエマニュエル・トッドのインタビューが面白く、そのついでにWikipediaでちょっと調べてみたらやってること、考え方もかなり面白く私としては興味が引かれることが多かったので、ちょっとその辺について調べてみたり考えてみたりしようと思った。
昨日読んだインタビューはこちら。
他にもインタビューがなされているようだけど、これはどうも彼の新著が日本で出版されたことと関係あるようだ。
こちらの方も順番に読んでみようとは思う。ただこれは考え方や思考の方法論的なもののようなので、先に読むべきものであるかどうかはわからない。代表的な著作は他にいくつもあるようだから、その辺を先に読んだ方がいいのだろうと思う。まず作戦を練らなくてはと思う。
もう一つのインタビューはNewsPicksに課金登録しないと読めないので、今のところ読んでいない。
ただコメントを読むと、先のインタビューでトッドの意見で唯一同意できなかった移民問題についての議論があるようなので、読んでみようかなとも思っている。
彼の専門は簡単に言えば「歴史人口学」ということだろうか。フランスには「国立人口学研究所」なるものまであるようで、この分野が発達しているということなのだろう。簡単に言えば、歴史の定量的研究ということだろうか。日本では速水融さんや鬼頭宏さんなどがいて、歴史学というよりは経済学の方に入るようだが、トッドはアナル派の歴史家・エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリの勧めでケンブリッジに留学してそこでは家族制度を研究していて、どちらかというと日本でいうところの歴史社会学的な要素が強いように見受けられる。
まだはっきり理解しているわけではないけど、歴史人口学で彼がやっていることというのは、家族のあり方・人口・出生率・識字率などをパラメーターにして各国の社会の過去の動向を検討し、それを用いて将来を予測する、という風に捉えてみた。
このインタビューでは日経の記者がインタビュアーなのだが、記者自身が守るべき規範として持っているのが「民主主義」と「グローバリズム」であるという前提が強く、そういうバイアスを持った人に応えている内容だ、ということは考えに入れておかなければならないなと思う。
今日はまずこの「民主主義」の問題について検討してみたい。
まず記者はトランプ派のアメリカ連邦議会侵入事件を受けて現代を「民主主義の危機」と捉えているようで、「機能不全に陥っているように見える民主主義を働かせるにはどうしたらいいか」という問いから入っている。
それに対しトッドは「教育による社会の分断がある」こと、「宗教や国家など共同で全ての人が信じるものがなくなってしまったこと」、のふたつを挙げている。
だから分断を解消するためには、上層の人たちが下層の人たちを尊重する形で経済政策や社会政策を作ること、つまり国家を単位としてその中で和解していかなければならない、上層の人たちは下層の人たちの上層の人たちが特権階級化しようとしているという疑念を、また上層の人たちは自分たちのポジションを教育程度によって正当化することをやめなければならない、といっている。
これは「才能があり(≒生まれがよく)努力した(≒高い教育を受けた)人は報われて(≒社会的に高い地位について)当然だ」というネオリベ的なメリトクラシーの思想を乗り越えなければ分断は解消できない、というふうに言ってもいいし、また今必要なのはグローバル化ではなく国内の統合・団結=unityである、ということでもあると思う。言葉を変えて言えば、国家は「国民の、国民による、国民のための国家」であるという意識に改めて立ち戻るということでもあると思う。
実際のところ、日本でもその分断は深刻になってきているが、伝統的な階級社会であるヨーロッパはそれ以上だし、貧富の差や人種による階層の文化がもともとあるアメリカでも日本の比ではない。
つまり、トランプ現象に関して、問題はトランプ派の民衆の方にあるのではなく、エリートの側にあるということを言っているわけで、これは私も賛成できるし、日本に関してもその通りだと思う。
これは次に出てくるグローバル化の議論においてもそうなのだけど、重要なことは国家、国民の生活、経済を守る意識が大事であり、そのためには適度に市場を占めることが重要であり、多少の保護主義を持ち込むことが重要であると言っていて、その理由もまた、「エリートと大衆の交渉は国家の枠組みの中でのみ可能だから」だとしている。
つまりトランプ現象やブレグジットのような「大衆の反乱」がアメリカやイギリスで起こったのは、国の中で格差が深刻になったからであり、これらの現象は社会が壊れていくことを避けるために起こっているのだと指摘している。英米が先頭に立って資本主義を世界に広め、またグローバル化を推進してきたことを考えると、英米にこうした現象が世界に先んじて起こっているのも歴史の論理的帰結であって、社会を立て直すためのチャンスであるという感じで捉えているように思われた。
この辺りまでのトッドの議論には私はとても賛成で、というよりももともとはっきりとそういう意見なので、今までこの人の著述に触れてこなかったのは残念だと感じた。インタビューを最後まで読んでみると、特に日本についての意見は少し違うなというところがあるのだが、それは日本に対する観察が少し妥当ではないと感じるところもあるからだと思う。
しかしメリトクラシーの限界についての議論は同意できるし、ポリコレに関しては書いてないけれども、エリートの側が進めようとしているこれらの政策も結局大衆の多くは損を被る側であるので、そこに同意できないのも当然だと思う。エリートの側の正義を一度括弧に入れて今最も重要なことに取り組んでいくという反急進主義、漸進主義の思想こそが今重要なのだと思う。
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