漠然とした警戒感:科学主義的ナチスドイツとデジタル中国
Posted at 21/01/20 PermaLink» Tweet
漠然とした警戒感:科学主義ナチスドイツとデジタル中国
昨日は自分の政治・経済的思想が政治的には保守、経済的には財政拡大主義的なものである、ということを書き、なぜそうなのかということを書いたのだけど、経済に関してはリストラ主義・「無駄をなくす」というネオリベラリズムへの反発、アンチということが大きいということを書いた。
つまり、人の思想形成というのはポジティブな面から、これが大事だから大事にする思想を持つ、という面がある一方で、あるものを体験してそれが良くないからそれを否定する、そうでない思想を求めるというネガティブな面からの形成というものがあるということなのだけど、昨日は特に経済の方については現在のネオリベラリズム的な基調に対して強いネガティブな考え方を持っているということについては書いたわけだ。
積極財政的な、つまりケインジアン的な政策は「改革」が主流になった頃からアウトオブデートな思想だと切り捨てられて来たわけだけど、実際には欧米では臨機応変に用いられていて、日本は頑なに緊縮政策を続けているので馬鹿げた一点豪華主義みたいな感じで財政が出動していてバランスが悪いと思うのだが、何しろ財務省設置法に財政規律が明記されているのでとにかくこれを変えない限りは日本の不幸な状態は続くと思う。
ケインジアンよりももっと実験的な、MMTという政策も提唱されていて、これもやってみないとわからないが、限定的な実験をしてみたら実は結構効果が上がるのではないかと思う。バイデン政権になって大規模な財政出動がほぼ確定的だからバブル状態になり、米ドルが下落すればその分日本円が上がるわけで、そこで日本でも財政出動を行わなければもっと円高は進み、日本経済がより厳しくなるだろう。そこは特に、生活に困窮している人たちに届くような給付金政策が有効だと思うが、そのほかにも今まで削られて来た社会基盤・文化基盤的なものの強化に使っていくべきだと思う。
経済面では割とそういう方面から、ネガティブな意味での思想形成の契機がはっきりしていたのだけど、政治面での保守というのがなぜ保守なのか、というところで、こういうネガがあったから保守なんだ、ということをあまりはっきり書いてなかった、というか自分の中ではっきりしていないところがあったなと思う。
これも昨日書いたからこそおそらく気づいたことなのだが、自分は設計主義的な社会思想、共産主義や社会主義、あるいはコミューン主義というものについては非常にネガティブに考えている。だから、「設計主義でない」という意味で保守主義、漸進主義を支持している、ということになる。これは自分の体験に基づく部分がかなりあるのだが、この辺りはまだ整理できてないところがあるから、書きにくいのだなと思った。
何か社会を変えようという理想を持つということは、その理想に沿って社会像を描いていくわけで、その時にはこういう社会が素晴らしい、たとえばフェミニズムであれば女性が男性に負けずに社会で生き生きと活躍できる社会をつくりたいという理想像があって、そのためにこうでなければならないという社会を実際的に設計していくわけで、たとえば女性の政治家は男性と同数でなければならないとか、まずそういう設計から始めるわけだ。
しかし日本の社会風土を実際に考慮した設計ではないから、これはおそらく中国の大躍進政策や北朝鮮の「米を大量に収穫するためには苗を密集して植えればいいと首領が指導した」ことに基づいて行われた農業政策と同様、このままではうまくいかないだろう。ザインとゾルレンでいえばゾルレンのみが突出した成熟しない行き方で、大躍進政策で1000万人以上が餓死したと言われたような無惨な破壊が日本社会にももたらされる可能性はあると思う。(まあそれ以前に、実際には実施されずに終わるような気がするけれども)
そうした設計主義の弊害に目を向けると、もちろん現在の社会も不満はたくさんあるから変えていくべきところはあると思うけれども、それは設計主義ではなく漸進主義で進めるべきだ、という保守思想を支持するということになるわけだ。
最近危惧の念を抱いていることで言えば、工学的思考の統治システムや社会システム政策への持ち込みということがある。これは上手に使わなければ、というか「道具として使う」という意識をきちんと持たなければ、かなり危険な面もある方向性だと思う。
現在も新型コロナのワクチンの配布についてロジスティクスが問題になっているが、ロジスティクスといえばある見事な例は、ナチスが百万人単位で人間を強制収容所に送り込んだケースだと思う。この辺りのことはどう研究されているのかわからないが、普仏戦争以来のドイツの鉄道の軍事利用の方法論が非常に役に立っていると思う。
現在、共産中国への憧れ、特に最近では中国における新型コロナ感染症の管理の徹底ぶりに憧れてる人が右も左もノンポリもいるように見える。中国のように日本ももっと徹底的にやるべきだ、のような。そこにはおそらく、「社会は設計でき、その通りに進歩できる」みたいな思想が今の日本にも相当強くあるからだという気がする。そしてそれは特にテクノロジー寄りの人にそういう傾向が強い感じがする。
テクノロジーで社会を進歩させられる、という思想は共産主義的=設計主義的な理想主義と非常に相性がいい。国家社会主義=ナチスが当時の最先端のドイツの科学技術を手に入れたことと、今の中国がデジタルテクノロジーを手に入れたことは、かなり近似したやばい現象であるように思える。
デジタルテクノロジーの進歩に警戒している人はそう多くないように思える。デジタルディバイドであるとかそれに付随する問題を考える人はいても、その進歩自体に警戒感を持つ人はそう多くないだろう。また、その警戒感を持っていても、自分自身が使いこなせる程度にはアップデートしないとそういう警戒感自体を伝えていけないという状況にもなっている。
設計主義による人間と社会の破壊というものを見て来ていると、そういうものに対しての警戒感を持たざるを得ないし、それゆえの保守主義という面が私にはあるのだ、ということが自分の中で今気がついたことであるのだけど、今の段階ではとりあえずこの警戒感を伝える、ということをしておくことかなと思う。
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