新型コロナウィルスがもたらしたもの:経済重視派の医療者批判と医療ナショナリズム(1)
Posted at 21/01/13 PermaLink» Tweet
Twitterやテレビなどで世間のさまざまな状況を見ていると、気になることが時々ある。それは、「経済重視派」の人たちの医療者非難である。
最初は感染症の専門家、8割おじさんこと西浦博氏への非難であった。人間の活動を8割削減して感染を抑えなければいけないという主張、また何もしなければ42万人死ぬ、という主張が一人歩きして、経済重視派の目の敵にされた。しかしこれは西浦氏の個人的な意見ではなく、彼の専門の感染症の数理モデルの研究から必然的にもたらされる結果を公表したに過ぎず、そのことによって彼を個人的に誹謗中傷するのは間違っている。「研究の結果、坂本龍馬は船中八策を書いていないことがわかった」からといって研究者を非難するのと同じであり、無意味な行為である。
第1波、第2波ときて現在の第3波は深刻である。しかし第1波の時に非常に協力的であった国民は現在では二派に分かれていて、「やるべきことは変わらない」からステイホームやリモートワークを重視し、三密を避け、手洗い・うがい・消毒をきちんと励行しようという人々と、「コロナはただの風邪」「大した病気じゃない」と会食に勤しんだり無防備にクラスタを広げ、またイギリスから帰国後の自主隔離期間中に十人の会食を行ってイギリス型の変異種を市中感染させたような「平常時行動派」に大きく分断されている。
医療者はその中で限界の状態で医療行為を続ける人が多くいる一方、市中ではコロナ患者は受け入れず、閑散としている病院もある。そして、現在の医療者非難・医療者攻撃はそういう市中の開業医に向けられているようである。彼らを強制的に徴用して新型コロナ治療の最前線に送り込むべきだ、という意見をちらほら見る。
私はこの現象はとても不思議に思っている。必要な医療は新型コロナだけではない。普通の状況でも疾病は常に発生しているし、その医療は普段からネオリベラリズムの緊縮派によって削減され、十分とは言えない状態になっているのに、こうした緊急事態での「遊び」「余裕」というものがいかに大事かはわかりそうなものだと思う。
これを、「医者はいい思いをしているのだからこういう時には身を捨てて取り組んで当然だ」というやっかみやコンプレックスと解釈して精神分析的に考察することもできるし、外部からのノブレスオブリージュ押し付けの主張と取ることもでできるが、緊急事態宣言の出ている現在はある種の非常時であり、準戦時なのだと考えると彼らの主張は戦わない軍人に対する批判(多くの兵士が前線で悲惨な状況の中で戦っているのに内地でぬくぬくと過ごしている軍人批判)と同じものだと考えることもできる。
ただいずれにしても、医療の最前線で戦っているのは医師や看護師等の医療者であることは間違いなく、彼らを非難することはまさに督戦隊的な、後ろから弾を打つ行為であることに違いはないと思うし、非常時にそうした精神病理的な主張が現れることは理解はできるけれども、あまり建設的な議論であるとは思えない。
つまり私は、医療者は国家国民を守る存在であり、現にまさにそういう使命によって、少なくとも戦後初の事態に対処している重要な存在であると考えているということだ。逆に言えば、そういう使命を遂行している医療者を「守る」ことは、国家を守り、国民を守ることだと考えている。
日本にとって医療は必要か不要か。この問いに後者の立場に立つ人はあまりいないだろう。まあ常識的に言えば必要に決まっている。私自身は実はあまり西洋医学を信用しているわけではないのだが、今回の事態においては医療者を擁護するスタンスを取っている。
それでは日本の医療は、国際的に見てどうだろうか。これは海外からの発信を見ればわかるが、非常に水準は高いと思う。先端的な医療、たとえばスティーブ・ジョブスが受けたような、個人の全ての遺伝子を解析して治療薬を作り、普通ではすぐに死んでしまう肝臓癌で数年も生きながらえた、というような高度先進医療の分野では日本はアメリカなどに敵わない点があるが、誰でも気軽に標準的な医療を受けられ、それが十分に供給されているという点において、日本ほど充実した国は他にないだろう。むしろ日本人の、特に高齢者はそうした医療に精神的に依存していて、そのために政府の医療費が膨らんでいるという別次元の問題点が指摘されるくらいである。
海外で医療を受けるときの困難さ、費用の高額さはよく指摘されるところであり、日本に帰ってきてホッとした、という話はよく聞く。
つまり、「日本はいい国である」という我々の実感のかなりの部分は、実は医療によって支えられていると考えられるわけである。これは、「医療ナショナリズム」と呼んでもいいと思う。政府が医療保険を手厚くし、そうした医療体制を整備してきたのは、当然ながらそれが国民に支持されたからであり、多くの優秀な学生が医学部に進学し、多くの医師が高額な報酬を得ても許されたのは、充実した医療が国民の誇りであり、国民の支えであったからである。
日本のナショナリズムの根源、国民の精神的支柱と考えられるものはもちろん天皇制であるわけだけど、昭和天皇の最末期に報道された「下血」の量などの医療的な報道は、天皇の神聖性よりも科学の神聖性の方が重視される「現代」を象徴するものだったと思う。私は皇室は大変重要な、日本にはなくてはならない存在だと考えているけれども、医療の社会的・精神的重要性もまた国民にとって非常に重要なことに変わりはないと思う。
雪かきをしなければならないので続きは後で書きます。
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