今アメリカで起きていること:「トランプ派は「アメリカ」を怒らせた」のか、そもそも「アメリカの本体」はどこにあるのか
Posted at 21/01/11 PermaLink» Tweet
今アメリカで起きていることについての、現時点(令和3年1月11日午前)での私なりの感想と観測と分析と予測。
1月6日、トランプ支持派がワシントンに集結して議会に乱入した事件は、アメリカ国内にかなり強力な動きを生み出した。報道の通り、トランプ自身に対する弾劾や訴追の動きが起こるとともに、トランプが強力なツールとして使ってきたツイッターのアカウントが永久に停止されるなど、マスコミだけでなく現在の世界でなくてはならない情報プラットフォームになっている各サービスからも追放される動きになっている。
これについてツイッター上で「彼らは「アメリカ」を怒らせた」という表現があり、これについて考えていた。
「彼らは「アメリカ」を傷つけた」というのが恐らくは今のトランプ及び支持層に対する評価だ、というのはわかる気がする。議会に侵入し、下院議長の机で傍若無人に振る舞った彼らの様子が世界に報道され、「アメリカの民主主義が冒涜された」と感じた人が多かったということだろう。
しかし、ワシントンに100万とも言われるトランプ支持層が集まったこと自体がある意味「民主的」な動き、言葉の本来の意味での「デモクラティック=民衆の力」の現れでもあったはずで、彼らを暴徒と決めつけるのはある意味「特殊アメリカ的な奇妙な現象」とも考えられる。フランス革命の時も、アラブの春の時も、似たようなことは起こっていて、そして常に「アメリカ」は民衆の側に、つまり「暴徒」の側についてきた。しかし「アメリカ議会」にその矛先が向けられた時、「彼ら」はその「民衆の力=デモクラシー」を否定する側に動いている。そしてそのことを疑問に思う声は、あまり見られない。
「アメリカ連邦議会」は「神聖にして侵すべからざるアメリカの象徴」の一つであり、他国のそれとは違う、というのはその信仰を共有するアメリカ人が言うのなら理解できなくはないが、日本人が言うのは奇妙なことだ。また、その連邦議会を攻撃する人たちがいたと言うこと自体、その「アメリカの象徴」の脆さ、現在の状況の危うさを示しているとも言える。
トランプ支持層はおそらくアメリカの人口の4割くらいはいる。その人たち全てを「反アメリカ」と見做し、その全てを押さえつける力が「アメリカ」にあるのだろうか。この人数にしても構成する人々の層にしても、これは「赤狩り」などとはわけが違う、より深刻な弾圧になることは間違いない。
そしてその弾圧の先頭に立つのがTwitterでありGAFAという「私企業」であるという構図は、他国から見たら異様な風景に見える。
「アメリカの本体」はどこにあるのか。「アメリカの本体」とは誰のことなのか。
クリントン政権以来のアメリカの「発展」と、それに取り残された人々の対立を見てきた中では、トランプ支持層そのものこそが事実としてのアメリカの本体ではないかと私には見えていたのだが、今彼らを弾圧しようとしているのはより上の方の層で、それをなんと呼ぶべきか。いわゆるパワーエリートはその中に含まれていると思うが、なんだろう、「能動的市民」とでもいうべきクラスということになるだろうか。少なくとも大学は出ている人たち。つまりは「オバマのアメリカ」で利益を受けた人たちということになるか。「サイレントマジョリティ」という言葉も思い浮かぶが、彼らは本当にマジョリティなんだろうか。
彼らの実態を考えてみると、まずはメリトクラシー(能力主義体制)の問題がある。指摘されているように、アメリカだけではないのだが、特にアメリカでメリトクラシーが強化されている。アメリカのポリティカルコレクティズムを支えているのもその「能力主義」であって、「女性であれマイノリティであれ才能と努力で能力を身につけたものは優遇されるべき」という思想に基づいていわゆるポリコレが推進されてきている。そしてそれは結果的に、彼らのメリトクラシズムを正当化し、強化している。
アメリカでは経済構造の転換に伴い、中産階級の没落ということが言われているが、その中でも勝ち組の人たちはいる。その人たちは今回の「反トランプ化」を支持しているだろう。「勝ち組と勝ち組予備軍のアメリカ」とでも言えばいいか。「勝ち組予備軍」というのは「女性やマイノリティ」のことを指しているのだが、彼らにはメリトクラシーによって保護されたポリコレによって能力を伸ばす場が与えられ、新たに勝ち組に参入する可能性が開かれているということからそのように呼んだ。ただ、その中でも実際に成功できるのは当然一握りであり、彼らの失望がまた新たなルサンチマンを生み出すことは十分予測される。
彼らはメリトクラシーに支持されたポリコレによって下層中産階級とそれ以下の「やる気のない奴ら」(主にプアホワイト)を切り捨てることを正当化している。そして彼らこそが「トランプのアメリカ」で利益を受ける、或いは受けることを期待したクラスである。彼らを集結させるシンボルこそがトランプであった。
トランプのいう「Make America great again」で再びグレートになるべきなのは「下層中産階級とそれ以下のアメリカ」だったと読めば、この動きを納得することができる。今回のトランプとトランプ支持者の排除の動きは、それを解体し無力化する方向性が進行しているということになるだろう。
トランプ派は数はいても権力を握っているわけではないし、マスコミも各プラットフォームも全て反トランプに回ったので、今後の戦いは苦しいだろう。「トランプが大統領として最高の権力を握っている」ということだけが彼らが何かできるポイントだったわけだから、これからはかなり苦しくなるだろう。
むしろ、「アメリカの本体」はどこか決まったところにあるわけではないのかもしれない。トランプ時代はより下層にあったものが、地殻変動が起こってより上層に移行しているのかもしれない。また、それは見せかけだけかもしれないという気もする。まだまだ様子を見ないとわからない感じがする。
だが、これから、この変化がそのまま動いていくならば、この「勝ち組と勝ち組予備軍のアメリカ」の価値観をアメリカ国内だけでなく日本にも、というか世界にも強力に再輸出し始めることになるだろう。クリントン政権下以来のポリティカルコレクティズムが、「アメリカと付き合うための基準」として各国に押し付けられる。今コロナで休戦状況のイスラム過激派との対立もより先鋭になっていくだろう。
中国との対立は原理的には相容れないはずだが案外現実的な方向性で妥協する気もしなくはない。民主党の中国贔屓は古くからのものだ。その時台湾はどう振る舞うか。
一般論としていうと、共和党は「敵」と対決姿勢を見せることでアメリカの強さを演出し、民主党は「敵」はいない、世界はアメリカのパワーで秩序は保たれている、と演出することでアメリカの強さを誇示する傾向がある気がする。
共和党政権下では日本は「アメリカの味方」「アメリカの同盟国」として持ち上げられ、比較的安定したポジションにいられる感じになるが、民主党政権下では直接に「敵」である中国やロシア、イランなどと交渉して「話をつける」傾向があるので、「同盟国」は軽視されがちになる。
自民党政権や親米右派はアメリカに重視してもらえる共和党政権を喜ぶが、衛星国として重視されて喜ぶのも誇りに欠ける話だなと思う。民主党政権を左派は喜ぶがそこには「世界市民」幻想があるわけで、アメリカのパワーによるその演出に酔ってそれを賛美するのも愚劣な話だなと思う。
今回のアメリカの状況はまだ流動的な部分があり、1月20日の大統領就任式に何が起こるかもまだわからない。アメリカの不安定な状況に対し中国やロシアがどう動くかもわからない。総括的なことは数週間経たないとまだいうことはできないが、その頃にはまた全く違う局面になっているかもしれない。
今の時点で考えたことを、Twitterで書いたことを中心に、とりあえずまとめておいた。
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