マンガのレビュー・私の書き方
Posted at 20/12/16 PermaLink» Tweet
数日間マンガのレビューを書いてみたが、いろいろ見えてくることはあった。
「鬼滅の刃」に関しては、もともと結構読み込んでもいるし普段からなんとなくこういうことだよなという考察をしている部分もあったのでやはりその積み重ねから書けることが元々多いのだなと思う。自分としてはのめりこんだというほどではないのだけど、自然に側にいたからいろいろ知ってるよ、という感じがある。
自分が漫画にしろ小説にしろ自分なりにそのレビューが書ける作品というのは、物語の奥に入っていける作品というか、「自分がその物語の内側にいる」ことを感じられる作品だなと思う。
「物語の内側にいる」という感じが一番うまく表現できるのが、「無限列車編」にも出てきた魘夢(えんむ)の見せる夢の中の世界で、ある有限の世界の果てがあり、自分もその登場人物の一人、ないしは客観的にそれをみている人間としてその世界にいる、という感じの状態だ。で、物語の核というかその人間の核みたいなものはその中のどこかにあって、それとじっくり付き合うことによってなるほどなあと理解する感じがあると、自分なりにその物語を理解できた、追体験できた、という感じになる。
で、それがあると、現実の世界に戻ってきてからも、その追体験について書くことができる。そうなると客観的にその体験自体、自分がどういうことを感じたのか、なぜそう思ったのか、これと似たようなテーマで描かれた作品は何か、この懐かしさはどこからくるのか、この嫌悪感の源はなんだろう、と考えることができるようになり、記述の幅を広げることができる。
基本的に自分がレビューを書く時にやってるのはそういうことなので、多分やろうと思えばかなり多くの人ができること、というかあまり考えないでも当たり前にやってる人は多いのではないかという気はする。主観的に潜り、客観的に描くと言えばいいのだろうか。
物語が重要なのか、世界が重要なのか、キャラクターが重要なのか、言葉が重要なのか、絵が重要なのか、表現のヴィヴィッド性が重要なのか、ウェルメイド性が重要なのか、それぞれ全てがそれなりに重要であることは確かなのだけど、例えば原作マンガでは荒々しくてもヴィヴィッドである方がうまくいき、それがアニメ化されるとすごくウェルメイド性が高まるというのは、「進撃の巨人」でも「鬼滅の刃」でも「呪術廻戦」でもそうだった。「暗殺教室」の頃はどちらかというと原作のエロい部分やグロい部分、過激な部分はアニメ化ではシャットアウトされた感じがあってそこに不満が残ったのだが、「進撃の巨人」からこちらはかなり過激な部分をなるべく残すための工夫が強くなってきて、その辺りの不満はかなり減ってきたと思う。
マンガにおける「キャラを立てることの重要性」ということについては、昔は私はどちらかというとストーリー主義が強かったのでちょっと反発もあったのだが、「キャラを立てる」ことを「人間を描く」と言い換えてみるととても正当なことなので、「人間が書けてないとストーリーもつまらなくなる」ということはあると自然に考えるようになってきた。
キャラクターと物語の相克というのは、私が元々マンガにのめり込んだきっかけになった作家の一人が諸星大二郎さんだったということもあり、長編でのキャラの立て方と短編での物語重視と、その辺りのことをよく考えることがあった。むしろその視点が小説を読む時にも一つの評価軸にできるなと思うことがある。
ちょっと自分の書き方、ものの考え方について振り返ってみようと思って書き始めたが、まあ基本はそういうシンプルなことが多い。
そして「チェンソーマン」のレビューを書いてみて、こういうハイコンテクストな作品は、バックグラウンドについて詳しいことがかなり重要だなと思った。ただそのバックグラウンドをマウンティング的に書くだけでは仕方なく、作品自体に入り込めなければあまりいい文章は書けないと思うのだけど、ただ入り込むためにもバックグラウンド知識は必要で、その辺はやはり教養と言われるものがあった方がいいわけで、シェイクスピアを読むにも真っ当な勉強も必要だけど「七人のシェイクスピア」みたいなマンガ作品を読むことによってインスパイアされる面もある。
ちょっと系統的な表現にならずにまとまりは悪いが、メモ的にとりあえず書いておこうと思う。
「麒麟がくる」は実在の人物を扱った作品で、実在の事件を下敷きにしているだけでなく、最近の歴史学の研究成果も多く取り入れられていて、その辺りがとてもスリリングだと思う。作家的な視線と研究者的な視線と製作者的な視線と審美的な視線と、様々なものが絡み合って作られているのがまさに時代劇の華だと思うし、伝統的な時代劇にないよさというのは、やはり「最新の研究の成果の反映」なのだと思う。
時代劇に関していうと、現代に制作する点で一番不利なことは、過去の日本人の体型や体の使い方と現代人のそれとでは大きな違いがあるということで、特に「農民」とか「武士」の体の使い方ができる役者がまずいないということが大きい。
例えば「七人の侍」とかをみると、この辺りの時代ならまだ農民的な身体を持っていた人たちがいたんだなと思う。武士の身体というのはすでに歌舞伎以来の時代劇的な伝統というのがあって、武士らしさを出すための口伝や、舞踊によってその身体を作ることが営々と積み重ねられてきているけど、農民的な身体というものは再生産するのがかなり難しいから、むしろその辺りが嘘っぽくなってしまう弱点がある。歌舞伎でも、「その他大勢」が一番ネックになるのと同じである。
まあバレエで言えばコール・ド・バレエにあたる人たちは、訓練は受けているけれども十分な収入は得られにくいとのと同じで、演劇や映画もそのあたりの人たちの生活をもっと大事にしていかないといけないという面はある。
このままいくと作家論より舞台論・身体論になってしまうのでこのくらいにしておくが、良いレビューは作家を育てるし、良い作品によって批評家が育てられるという面があるのは小林秀雄を引くまでもなく当然のことなので、そういう相互運動に参加する人がより増えることで、日本の表現文化がより良くなっていくと良いなと思う。
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