「チェンソーマン」の世界で消されたものと「現実の世界」で消されたもの
Posted at 20/12/15 PermaLink» Tweet
「チェンソーマン」が「このマンガがすごい!2021」のオトコ編第一位に選ばれ、またジャンプ2号で連載が終了し、アニメ化が発表されるという目まぐるしい状況を呈していて、やはり今年を象徴するマンガは「チェンソーマン」だったのかなと思う。
私自身の今年の第一位はヤングジャンプ連載の赤坂アカ原作・横槍メンゴ作画「推しの子」なのだが、その作画の横槍メンゴさん自身が毎週月曜午前0時になると「チェンソーマン」の怒濤の展開について叫びのようなツイートをあげるのがすっかり風物詩になっていたくらいなので、「チェンソーマン」の力はやはり強力だったなあと思う。
「チェンソーマン」は面白いのだが、私には読みにくいマンガだった。「鬼滅の刃」はこれはこういうものを象徴しているのだろうなとかそういうものが割合自分なりに理解できるところがあり、自分なりにつながる読み方ができたのだけど、「チェンソーマン」ではなかなか何をどう読んだらいいのか見当がつかないところがあり、わからないけどなんだか圧倒的、みたいな感じでついに終わってしまった。
それで、この作品は一体どういう作品なんだろうと考えながら色々なものを読んでいたのだが、昨日たまたま「リアルサウンドブック」での三人の評論家の対談と、昨日発売の「このマンガがすごい!2021」に掲載された作者の藤本タツキさんのインタビューのを読み、少し考えて、少しはわかってきたかなという感じがした。
対談の方を読むと彼らは藤本さん自身がチェンソーマンで目指すものとして「邪悪なフリクリ、ポップなアバラ」と書いていることについて触れているのだが、自分は「フリクリ」は見ていないが弐瓶勉「アバラ」は読んでいるので、まあその辺が理解のための一つのヒントにはなるのかなとは思った。
実はこの発言を読んでからamazonで「フリクリ」を買い、少し見てみたのだが、まだ最後までは見ていない。今から見ると少しレトロな感じで、逆にこの頃はこういう表現が許されたのだなと感じる部分もあった。
少年のある種のとっぴな大人の女性に対する恋心、みたいな感じなのかなと解釈すると、それはデンジのマキマさんへの思い、なんだろうなと思う。「アバラ」の方は、主人公自身が駆動電次でまさにデンジなのだ。これは「黒ガウナと白ガウナの戦い」の話なのだが、このガウナというのもまた弐瓶勉さんの別の作品「シドニアの騎士」に出てくるガウナという存在ともまた違っていて、まあ人間のような人間のようでないようなものである。
ネタバレをかくと、チェンソーマンの「最終回」に、支配の悪魔であるマキマが転生したナユタという少女が出てきてこの子もまた可愛いのだが、これはなんと「アバラ」に出てくる黒ガウナのデンジと戦う白ガウナの名前で、それを出していいんかいなとちょっと思った。まあどう考えてもオマージュではあるのだけど。ここはデンジとマキマのある種の和解が、ある意味でのアバラ的宇宙へ開かれていく感じもした。
で、終わる終わると言われていたが実は「第一部 公安編 完」であることが明らかにされて、ファンは歓喜の声を上げていたのだが、第二部ではデンジとこのナユタを見てみたいなと思う。まあこの作者さんのことなのでそんな普通に読者の期待に応えてくれるかどうかはわからないけれども。
ナユタは「デンジの指を噛む力がマキマと同じ」ことでマキマの転生だとわかる(どういうわかり方だ)のだが、ナユタを託されたデンジはナユタに「何か食いてえモンあっか」と尋ねると「食パン」と答える。マキマの朝食のシーンでマキマがトースター(!)で食パンを焼く場面を思い出すと味わい深いのだが、「随分と安上がりな悪魔だな」というデンジにVサインをするナユタが可愛い。(ここも、普通にピースサインと言いたいところだが、買いてるうちに時空が歪む感じがするのでVサインの方がふさわしい気がした)
作者インタビューの方は、読んでるととてもホラー映画の話題が多く、この人は映画を見ている人だなとは思っていたが、なるほどそのジャンルなのかと思った。そして、私がこのマンガが面白いのによくわからないと感じる源は、私がホラー映画をほとんど見ていないせいなんだなと思った。つまり、教養体系が違うのだ。だから見ていて「わかるわかる!」にならないわけである。
大体私はチェンソーという言葉に山林で木を切る道具としてしか見られてなかったので、ホラー映画におけるチェンソーの位置づけというものが全くわかってなかった。インタビュアーが「ホラー映画におけるチェンソーといえば「悪魔のいけにえ」や「死霊のはらわたII」が有名ですが」と尋ねていたがその両方とも全く知らない。その辺がわかってないとなぜチェンソーの存在がそんなに重要だということがわからないのだなということがわかった。
インタビューで面白かったのは、作者さんが一番気に入っているキャラが「レゼ」だということで、これは私もそうなのでやはり力を入れて描いたキャラなんだなと。ただ、デンジと二人で夜の学校にいる場面が「台風クラブ」からの引用だということはわからなかった。私は「台風クラブ」は見ているが、え?それ?という感じである。文脈の飛ばし方はやはり私には相当突飛に感じられるが、アニメ化もする訳だからその辺の描き方もまた見てみたいと思う。
そのほかインタビューに書かれていたことでは、意図的に「神様」という単語を排除していて、またスマホは出さないと決めているというのが面白いなと思った。そして、それが出てこなくても全然成立している。レゼがソ連で改造されたボムの魔人であるという設定はあれ?これって冷戦モノだったの?みたいな軽い思考のバグを起こさせたが、実際にはもっと訳の分からない世界であることが後でマキマによって明らかにされる。こんな風にしても世界というものは成立してしまうんだという感じが、世界の不確かさを感じさせるんだなと思う。
魔人たちは一度地獄で死んでもまた蘇るが、現世の存在とは違うものとして生まれる。そういう意味で輪廻転生だが同じ魔人としての継続性はあっても個人(?)としての人格の継続性はない。だからむしろある種の存在の継続性の方が実体で、個人がある種の仮のものであるのはもちろん、この世界自体も実は不確かなものかもしれないと感じさせる。この辺はブッダの前世を描いたジャータカのようでもあるなと思う。
このマンガの新しさ、つまり同時代性ということで言えば、ナユタが食パンが好物だという設定もそうだが、対談でも指摘されていたけど、「チェンソーマン」や同時代の作品は、自我の葛藤とかの豊かな時代の青年心理などというよりも、まず生きること、どうしたら生きられるかみたいなところから話が始まってる、つまりは貧しい時代なんだ、というのは確かにあるよなと思う。
もう一つの同時代性というのが、バディとは仲がいいこと。「NARUTO」のナルトとサスケとサクラの関係のような緊張感が、デンジとアキとパワーの関係にはない。これは「呪術廻戦」の虎杖と伏黒と釘崎の関係でもそうだ。これが始まるのは「進撃の巨人」のエレンとミカサ、アルミンとの関係のあたりかもしれない。(それはその後変化するが)
その辺は、「僕のヒーローアカデミア」のデクと勝己の関係とは違い、「ヒロアカ」はある意味過渡期性があるのだなと思う。まあ、最近のジャンプ本誌では「呪術」と「チェンソー」と「ヒロアカ」、そして「アンデッドアンラック」が交互に爆裂していて、これは対談でも指摘されているけど、同じ連載誌での影響の与え合いなんだろうなとは思った。
今回は少し外面的な話が多くなってしまったが、機会があれば時間のある時にじっくりと「チェンソーマン」を読み直し、物語を再度追体験し直してから、もう一度書いてみたいと思う。
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