「鬼滅の刃」は何故爽やかなのか
Posted at 20/12/07 PermaLink» Tweet
「鬼滅の刃」の鬼たちはそれぞれある種の欲望や執着を具現化した存在だと書いたけれども、それならばもっとドロドロしてきても良さそうなのになぜそうなってないのか、爽やかなのかを考えてみると、この欲望や執着の中に「権力欲」「金銭欲」「性欲」が出てきてないからだと言うことに思い当たった。
そう言う意味では「鬼滅の刃」は正しく少年マンガであって、そう言うものが些かなりとも関わってくることが普通の青年マンガや成年マンガとは違う。と言うのは、鬼というものになることの利点は「死なない」「強くなる」と言うことであり、欠点は「日の光を浴びられない」「鬼舞辻無惨に逆らったら殺される」と言うことであるわけで、逆にいえば鬼になることによって権力欲も金銭欲も性欲もあまり意味がなくなると言うことはある。
ただもちろんその権化として鬼を描くことは可能なわけだが、今書いたようにそれらは基本的に意味がないので、醜悪なだけで滑稽にもなるだろう。そのあたりを描かずもっと人間としてのあり方みたいなところから外れたものを鬼として描こうと言うのがある意味教育的であり、少年マンガ的だと言うことになる。
例えば童磨(上弦の二)とかは女の肉を食うわけで、これは「女を食う」ことの比喩ともいえなくはないが、彼はインチキ宗教家としての描かれ方が強い。おそらくは性欲よりもそちらの方が主なのだろう。
そして権力欲・金銭欲や性欲が出てきてしまったら、今の日本ではおそらくは「国民的コンテンツ」にはなれないのだ。
それは何故なのかを考えてみると、2000年代、いわゆる0年代は「自己」実現の時代、「自分」がやりたいことをやり、「既存の社会」に強烈なノーを突きつけることがカッコよく見えた時代だった。ライブドアの堀江氏や2ちゃんねるのひろゆき氏がその象徴だったが、「自分が成功すること」が第一の、新自由主義が最も大衆的にも支持された時代だったように思う。
そこからの大きな転換点は2011年の東日本大震災だったのかもしれないが、10年ほどの時代をかけて0年代のスターたちは光を失い、新自由主義に疑問を持つ人が増えてきているように思う。「絆」といえばあまりに陳腐だけれども、誰かのために戦う、思いを受け継ぐ、大切な人の幸せを祈り、そのために尽くすと言う能動的な姿勢が支持されるようになってきているのだろう。
東日本大震災と「進撃の巨人」が関連づけられることが多いけれども、新型コロナの流行と「鬼滅の刃」は関連づけられて語られていくのかもしれない。新型コロナは人と人とが近づくことによって感染する病だから、人と人との距離の近さ遠さというものを考えざるを得ないところがある。
自分自身よりも人とのつながりを大切に感じる時代、そして人と人との距離、関係を考えざるを得ない時代だからこそ、「鬼滅の刃」はこれだけ人の心に届いたのかもしれないとも思う。
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