「丁寧に考える新型コロナ」を読んでいる。
Posted at 20/11/16 PermaLink» Tweet
なんだかんだ言っても、今年最大の問題は新型コロナ(Covid-19)の流行であることは間違いなく、それについて少しちゃんと勉強しないといけないということは思っていたのだが、ネットの情報だけでは限界があるので、一度腰を落ち着けてじっくりと本を読んでみようと思い、岩田健太郎「丁寧に考える新型コロナ」(光文社新書、2020)を買った。
岩田さん自身、その行動から毀誉褒貶のある人であることは分かっているのだが、感染症に関する臨床の専門家として様々な局面で活躍されてきたことは事実だし、それ故に、というか「信じて突き進む個性」ゆえに軋轢も多く生じている訳だが、最終的にはいろいろな人の言説を読んだ方がベターなことは分かっているので、まずは岩田さんの本を読んでみることにした。というか、私はこのコロナ禍の前から彼の本は読んでいる(あまりちゃんと覚えてはいないが)ので、まずは彼の本から、と思ったのだった。
この本は彼の問題意識に沿って「はじめに」で概論が述べられ、ファイル1で国ごとに感染の違いが出た理由について述べられ、ファイル2で検査について述べられている。ファイル3ではマスクについて、ファイル4では緊急事態宣言について、ファイル5ではプールや温泉の問題と「専門家」の問題、ファイル6が音楽会などでの問題、ファイル7が治療の問題ときて、巻末に岩田さんと西浦博さんの対談が100ページほど、という構成になっている。
私は現在のところファイル2まで読んだが、対談を除けばここまでで174/278、大体2/3近く読んだので、ここまででかなり岩田さんの言いたいことは書かれていると判断し、ここまでのところで一度読んだ内容をまとめ、考えたことなどを書いておきたいと思う。
「はじめに」で彼が指摘していることは、「わかりやすく説明するというのは短く一言で断言することではない」ということで、小泉元首相のワンワードポリティクス以来テレビでは顕著になった「一言で断言する」という報道の仕方がこの複雑な疾病の理解の障害になっている、ということだ。これは当たり前といえば当たり前のことなのだが、つまり彼が「丁寧に考える」本を書かなければと思った動機ということなので、特にそこを強調しているということだ。政治家もそうだし国民もそうだけど、難しい問題になっても「つまりそれはどういうことなの。一言で言うと」と聞きたくなりがちなのは確かで、テレビや報道はその要求に応えようと不正確であっても短く表現する嫌いは確かにあると思う。
またここで書かれているのは官僚的な仕事のやり方の問題点、医学的な正しさ、実務的な効率よりも役人の「仕事をやった感」が優先される問題などが述べられていて、これは医学者であり臨床実務の人からの問題提起であると捉えるべきだと思った。
ファイル1での主張は「日本が比較的感染を押さえ込んでいる」のはなぜかと言う理由の考察で、日本人の生活習慣とか人種の遺伝的特性とかウィルスの変異とかBCGの有無とか様々な今まで言われてきたことを検討し、それらは特に現時点で明らかに根拠になりうるものではないとして、結局のところ東アジアでは感染の発生から割と早期に、つまり感染の少ないうちに問題化し、対策が打たれてきたから抑えこめているのであって、欧米や南米などは気がついた時にはすでに大流行になっていて手遅れになってしまったからだ、と主張している。
また、日本で重症化が起きにくい理由としては、血栓の発生のしやすさに人種間の差があると言う指摘をしていて、確かに血栓が発生すればそれだけ大変なことが起こりやすい訳だから、そこは大きいなと思った。
ただここでも第一波を経験しながら十分に第二波に備えられなかったことについては「国の備え」に問題があったと指摘していて、GOTOなど医学的に見れば時宜を得ない政策が行われたことも問題があったとしている。
ファイル2、つまり「検査」に関する内容で重要だと思ったことをまとめると、要は「感度」と「特異度」の問題になる。「感度」というのは「実際の感染者のうち検査で陽性になる人の割合」を指している訳で例えば「感度が90%」ということは、感染者のうち10%は陽性と判定されないということで、1万人に検査したらそのうち1000人は陽性にはならなかったが実際には感染しているということだ。そして「特異度」というのは「感染してない人のうち検査で陰性になる確率」ということだから、特異度が99.9%であっても10000人検査したら10人は感染してないのに陽性が出るということになる。これはアメリカやフランスのように何百万と感染者が出ている地域ならあまり問題にならない、というか問題にしている余裕はないけれども、日本の田舎のように感染の少ない地域では大問題になる。感染者ゼロの10000人の街で全員検査する、となったら感染してないのに10人の陽性が出るということになる訳だ。これは日本の田舎ではかなり大きな問題になることは想像に難くない。
岩田さんは、検査の妥当性を上げるためには、事前の診察で患者から話を聞くことが重要だという。その話の内容で感染しているかどうかの事前の確率がある程度判断でき、感染の可能性がほとんどない場合は検査をして偽陽性を出すようなことはするべきではない、という考え方である訳だ。
報道されているように「陽性」が一人出るということは大変なことなので、偽陽性はなるべく出さないようにしなければならない。また、検査の担当者にも検査自体が負担のかかる仕事なので、その労力に見合った結果が出るような検査の仕方をしなければならない、と言っていて、これは私としては納得できるものだった。
今まで読んだ感想としては、感染症の流行という現象は、医学的にだけでなく社会的な問題であり、また政治的な問題でもあるから、多くの立場の違う人が政策決定に絡んできて、「船頭多くして船山に登る」になりがちだなということ。
政策の司令塔は本来政府である訳だが、首相や大臣は基本的には医学には素人な訳だし、専門家の意見をうまく使うのは難しい。政治家はもともと政治や社会に対しても一定の考え方を持っていて、もともと政策にバイアスがかかりやすいということもあるし、現在の政府は特に「学者」「専門家」を嫌う傾向があるのでより難しくなる。
専門家の間にももちろん意見の対立はあるだろうし、また政府や役所の中でも足の引っ張り合いや権力闘争も絡んでくるので、「医者にこれ以上ものを言わせたくない」という勢力もある感じはするから、その中で政策を立てたり研究をしたり臨床で患者の対応にあたる人たちは本当に大変だと思う。
特にこういう問題の時には本当にニュートラルな人が陣頭指揮を取ればいいと思うのだが、日本ではなかなかそういう人が偉くなるのは難しいのだよな。
とにかく第三波が襲来している今、政府に対してはより適切な政策をとり、現場にちゃんと必要な物資と人員が供給されて、医療者があまり疲れすぎないで済むような状況を作り出すように頑張って欲しいなと思うのだった。もちろん経済面での対策も万全にして。できれば消費税は凍結した方がいいと思うし。
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