土について
Posted at 20/11/03 PermaLink» Tweet
自分の興味のあることを調べて書くのが個人ブログの一つの醍醐味だと思うが、「土」というテーマの本は今までちゃんと読んだことがなく、いろいろと興味深く読むことができたのが藤井一至「土 地球最後のナゾ」(光文社新書)だ。読んだ、と言っても正確にはまだ第二章までなのだが、136/215まで読んだところで少し知ったことを整理したり、考えたことなどを書いておきたいと思う。何しろ知らない分野の話なので、新書一冊と言ってもかなり膨大な知識の山であり、たとえば地球に存在する土壌が十二種類にまとめられるというのもなかなか興味深い話だと思う。
土といえば地理などに出てくる名前として知っていたのは穀倉地帯のチェルノーゼムや熱帯のラテライト、中国の黄土や日本の関東地方の関東ローム、北海道の泥炭土など、そんなに多くはないのだが、これらを12種類にまとめるというのはアメリカ農務省のUSDA分類にしたがっているとのこと。
少しググっただけなのだが、土の分類については実は非常に長い歴史があるし、また国によって全く土壌が違うので世界レベルでの分類というのもそう簡単ではない。
https://www.kahaku.go.jp/special/past/bisyoso/ipix/soil/index.html
こちらは国立科学博物館の土壌関係のサイト。主に日本の土壌について説明している。
https://www.hro.or.jp/list/agricultural/center/seika/soilqa/q30.htm
こちらは北海道総研の、主に施肥改善調査の分類法だそうで、11群の基本土壌類型と51種の土壌類型から成っているとか。
考えてみたら日本で農耕がはじまったのは縄文時代にさかのぼるわけだから、それから3000年くらいは経っているだろうし、土についての知見もずっと積み重なってきているだろう。検地などの時にも取れ高で「上田・下田」などのランク分けもあり、そこで土についても研究されてきたと思う。
ただ日本の地質は世界的に見ると1%を占めるに過ぎない「黒ぼく土」という土が全土の30%を占めるなど特殊な部分もあるらしく、日本独自の分類もまた意味があるのだろうと思う。
https://www.hro.or.jp/list/agricultural/center/seika/soilqa/q3.htm
現在の日本の土壌分類はこちら。
https://en.wikipedia.org/wiki/USDA_soil_taxonomy
こちらがアメリカ農務省のUSDA分類の説明。
本書では土壌を出来た順番に
未熟土(Entisol)
若手土壌(Inceptisol)
と見てから
永久凍土 Permafrost (Gelisol)
泥炭土 Peat(Histosol)
ポドゾル Podsol(Spodsol)
と農業に適さない土を見、
チェルノーゼム(Mollisol)
粘土集積土壌(Alfisol)
ひび割れ粘土質土壌(Vertisol)
といわゆる「肥沃な土」を見てから、
砂漠土(Aridisol)
強風化赤黄色土(Ultisol)
オキシソル(Oxisol)
とやはり農業に適さない土を見て、最後に日本の主たる土である
黒ぼく土(Andisol)
を見るという順番で世界の土をめぐる、というのが第2章までの趣向だ。なおカッコ内はUSDA分類の名前で、とりあえずいろいろ調べて当てはめたが著者が書いてくれているわけではなく、またググってもはっきりとはわからないところがあったので違っている可能性もある。(参考にした図は http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/mizo/lecture/agc-kok/agc-kok-okada.pdf の第10図)
黒ぼく土は火山灰起源の土なので、関東ロームもこれに含まれる。日本の土地の30%が黒ぼく土なのだそうだ。プレイリー土やパンパ土はMallisol、著者の分類ではチェルノーゼムに含まれ、日本に飛んで来る黄砂の元である黄土は砂漠土と言うことだろう。ラテライトはオキシソルの一種と言うことになる。
割と軽い気持ちで調べ始めたがかなり大変で、それだけまだ日本では世界の土に関するスタンダードの分類が出来ていないということなのだろう。WikipediaのUSDAの分類も日本語のページがなく、また見方も著者の説明とかなり違うところもあり、なかなか難しかった。
それぞれの土がどのような特徴がありどういう問題があって土壌改良にどのようなことが試されてきたかなど、人間が食糧生産のために土と取り組んできた歴史が感じられた。
関連してググって調べていたら出てきたのが強風化赤黄色土のボルネオ(カリマンタン)島の話で、熱帯の森の土は実は痩せているという話が説得力があった。本書によれば結局は焼き畑農業で草木灰のアルカリで酸性土壌を中和させて稲作やイモ作が行われているのだと言う。
https://globe.asahi.com/article/12350322
あと意外だったのが、日本の黒土と言うのはもともとは火山灰土で、それが腐植が混ざることで黒くなったものだということだ。同じ土はジャワ島にもあり、多くの人口を養っているのだと。火山灰土と言うと「痩せた土地」だと思ってしまうが、温暖湿潤な日本では生物による風化、腐植が土と混ざることでかなり速いスピード(1万年に1メートルくらい)で多くの人口を養える良い土に変わると言うのが興味深いなと思った。
著者のテーマは「100億人を養える土を探す」というテーマだそうで、これはこれで大きいテーマだと思うが、なかなかこれでは研究費が取れないらしく、地球環境問題に絡めて黒ぼく土の研究で研究費が採択されたのだそうだ。
というのは、実は腐植という形で土壌中に含まれる炭素の量は、空気中の二酸化炭素の2倍、生きている植物の3倍に当たる量なのだそうだ。だからこの炭素を蓄える力の維持・強化と言うのは温暖化対策への貢献ということになるわけだ。
こういう根本的な研究も時流に乗ったテーマを立てないと予算がつかないというのは現代の病理の一つだと思うが、ともかく土の研究が重要だということはよくわかったので、進むといいなと思う。
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