アメリカ大統領選を前にオッカム先生のアメリカ史インタビュー(全4回)を読んだ
Posted at 20/10/31 PermaLink» Tweet
アメリカ大統領選も近いということで、アメリカ史が専門のオッカム先生こと帝京大学教授石川敬史さんのインタビューが東洋経済に掲載されていたものを読んだ。
第1回 アメリカ建国の英雄は民主制を否定していた? 「1つの国家」と言えない政治体制・社会だった
https://toyokeizai.net/articles/-/381258
第2回 「リンカン」以後、無名の大統領が続いた理由 トランプが目指すのは「黄金の1920年代」の幸福
https://toyokeizai.net/articles/-/381259
第3回 F・D・ローズヴェルトという極めて異質な大統領 「ニューディール・リベラリズム」とその終焉
https://toyokeizai.net/articles/-/381260
第4回 米大統領選、なぜ「高齢者候補」が好まれるのか 大統領は「キング」であり、選挙は「内戦」である
https://toyokeizai.net/articles/-/381261
これらはそれぞれ大変面白く、時間をかけて何度も読みたい感じだ。ヨーロッパ史に比べてアメリカ史は分かりにくい面があり、それは国の成り立ちが古代から君主制を軸に成立した日本と言う国とかけ離れているということにあるのだと思う。アメリカは世界最大の強国だし経済規模もまた世界最大、現状世界で最も影響力の大きい国であるのに、その国の性質や歴史があまり広くは理解されていない感があって、アメリカ史やアメリカ社会研究はこれからますます重要になって行くとも思う。
日本の高校の世界史などでも中国やヨーロッパの歴史は詳しくやるが、アメリカの歴史は西洋史のおまけのようにとびとびにしか出て来なくて、第一次世界大戦でいきなり世界の強国として現れる。ただ、国際連盟成立を主導したと思ったら参加しなかったり、その行動様式は謎のまま残されるし、アメリカの政治や社会の性質について考察する機会はなかなかなかった。
一通りこの4回のインタビューを読んでみた最初の感想は、高校の頃、少なくとも大学の1年の頃にこの文章が読めたらなあと強く思った、と言うことだ。アメリカと言う日本やヨーロッパとはかなり違う国の成り立ちをすぐに理解するのは難しいところがある。今ですらこの文章を読み返しながらもっと考えてみたいと思うのだが、高校生のころにこういうアメリカ像を持っていたらその後もっとアメリカについての理解を深めて行けたのにということは思う。
もちろん、この文章を読んだら全部わかるかと言えばそういうことはなくて、たとえば森本あんり『反知性主義』(新潮選書)などと照らし合わせながら考えないと分からないところもあるなあと思う。本当にわからないのはやはり独立前後の時期の「大覚醒」とかそういう宗教にまつわるところだし、そのあたりから導かれるのがアメリカの民衆の反エスタブリッシュ志向、反エリート志向なのだが、今回の文章ではそのあたりは主にジャクソンから話がはじまっていて、そことの整合性をどう理解するかというのが自分の中のちょっと課題になっている感じがある。
内容については、要素的には面白いなと思う内容がふんだんにあったのだけど、一番印象に残ることだけを上げると、民主党にしろ共和党にしろある種の「旗印」みたいなもので、その時代によってその旗の下に集まる層が変わっていることだ。ジャクソン時代には南部のプランター(奴隷を多数使用した大土地農場主)の政党であった民主党が、20世紀の始まりには都市の貧民の支持を受ける政党になり、1930年代にはFDRという特殊な大統領の元、ニューディール主義の政党になっていく。一方で南部のプランターの影響力を潰すために集まった「それ以外全部」の人たちが作った政党でリンカーンを選出した共和党が北部の資本家たちのための政党になり、ニューディールの時代には逼塞していたが、ニクソンの時代に南部の福音派や白人至上主義のグループが重要な支持層として加えられていくこととか、日本やヨーロッパでは考えにくい政党の融通無碍なあり方が興味深いと思った。
また大統領選の関連で言えば、大統領はある種の「王」であり、貴族(アメリカのエスタブリッシュ層)の支配を覆して政治を市民のもとに取り返すことが期待されていて、だから顔の見えるキャラクターが重要になるとか、また国民の統合の中心にならなければいけないからワンイシューで訴える人は大統領にはなれないとか、いろいろ興味深いこともあった。その辺はぜひ読んでいただければと思う。
戦前期にも戦後期にも、アメリカを本当に理解した人は日本にはあまりいなかったと思われ、それゆえの失敗がいろいろなところで起こっていたのだろうと思うが、今からでも遅くない、アメリカを理解していくことは大事なことだと改めて思った。
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