友か敵か
Posted at 20/08/20 PermaLink» Tweet
友と敵
柄谷行人世界史の構造」序説「交換様式論」読んでいるが、面白い。
面白いというのは、この文章を読んでいると様々な分野の研究者や思想家が柄谷の解釈のもとそれぞれの主張をするのを、柄谷が自分の論の展開に伴って次々に登場させて、そこがある種の演劇のように見えるからだなという気がする。
これはだから学問的であろうとしている(特にマルクス解釈学的に)けれども学者ではなく思想家の文章だし、ニーチェのように概念化した人物を登場させるわけではないが、それぞれの登場人物たちがそれぞれの場面で自分のセリフをいい、柄谷がそれに答えて話を進めている感じがして、ある種対話的でもあり、旅人的でもある。
もちろん柄谷自身の構想に沿って述べられて行っていることは明らかなのだが、この文章は彼の思想そのものとは違って、その文章構成力によって読ませている部分は大きい気がした。基本的な気質は特性はやはり思想家というより文学者・文筆家なんだろうなと思う。
だからここに登場してくる様々な学者や思想家も、私があまりよく知らない人も出てくる。特に序文の時には有名どころが多かったから大体知ってる人が出てきてはいたが、本論というか序説「交換様式論」に入ってからは人類学系の学者が顔を出すようになって、あまり知っているとは言えない人が出てきて、そういう方向への私自身の興味が広がる感じがした。
序文ではほとんど思想家・学者たちの文章をそのまま引用したところはないのだが、序説に入るといきなりマルクスの「経済学批判」の引用が出てくる。序文に比べて彼らのセリフも長くなっている感じはあるが、まあやはりマルクスは特別な席が与えられているということはできる。
興味を惹かれた学者や思想家でいえば、特には文化人類学者のマルセル・モースなのだが、この人は社会学者デュルケームの甥だとのことで、未開社会においては贈与と返礼の互酬システムが社会構成体を構成する原理になる、ということを言っていると。Wikipedia等を見てみるとその他にも色々と面白い仕事をした人だということがわかり、機会があったら読めるといいなと思った。
あとは今日の表題にも書いたが、カール・シュミット。「政治的なものの概念」の中で、政治に固有の究極的区別は何か、という議論において、「道徳的には善と悪、美的には美と醜、経済的には利と害」であるとすれば、政治的には「友と敵」になる、と言っているとのことで、割とこれは新鮮な感じがした。
柄谷はこれは交換様式B、つまり国家が支配する体制において固有のものであるとしているが、なるほど権力を持っているものが誰を友とし誰を敵とするかが究極の区別であるというのはわかりやすい。友には恩恵を与え、敵には一撃を加える。
「友か敵か」という議論は、私などはどうしても「子どもっぽい」と思ってしまうが、それは政治学において大真面目に語られるような中心概念の一つであるのだなという認識は割と新鮮だった。確かに、自民党内分の抗争史的なもの、「小説吉田学校」とかを読んでいると政治家という人たちは本当に「友か敵か」というところに相手を判断する基準があるのだということがよくわかるし、吉田茂のところに交渉に行った三木武吉が交渉が終わって帰ろうとすると、吉田に「ちょっと雑談でもしていかないか」と誘われる場面がある。三木はそれを断って帰るのだが、その解説として、「政治家は雑談が好きだ。そして雑談をすれば、相手が「話がわかる」男かどうかがわかる。今の交渉を考えてみても、吉田は「話がわかる男」なのだろう。そう思ってしまえば、敵として戦う決意が鈍る。」だから三木は雑談を断って帰ったのだと。この辺りが三木武吉という男の真骨頂なのだなと思ったことを思い出した。
「友か敵か」という議論を子供っぽいと考える私の観念自体も、おそらくは父や祖父、叔父が教師だったり、自分も教師をしていたという、教育者的な環境で自分が育っているから、ということはあるのではないかと思う。社会において人間関係をうまくやろうとするのが大人であって、すぐに群れを作って戦うのは全体の社会をギスギスしたものにしてしまうし、あまり望ましくないと思う。ただ、ネットを見ていると本当に「友か敵か」で行動している人が多く、政治学者の人のツイートを読んでいても仲間外れにされたりこき下ろされたりこんな状況だと辛いだろうなあと思うようなことが多く書かれていて、政治学者は「友か敵か」を研究テーマにするというよりそれを実践する人たちなのかな、という印象を受けたりはしている。
一般に「友か敵か」、ショウザフラッグ!みたいなことを言う人はどちらかと言うと右側の人が多く、左側の人はどちらかといえば友好的なことを言っていて友好的な外貌で近づいてきて「まさか右翼じゃないよね?」みたいな反応をして意外な返答を受けると飛び上がって掌を返して、ちょう攻撃してきたりブロックしたり「友達の縁を切る」みたいな発言をする人が多く、まあそれでは単なるお為ごかしではないかと思ってしまうのだが、やはり左においても「友か敵か」は重要なんだよなと思う。
まあ私はどうしてもそう言うことを根が下らないと思ってしまうのでアレなのだが、まああまりそう言うことは態度に出さず、友好的に付き合っていきたいと思う。
しかし、それは特定の考え方を支持したり批判したりしないと言うことでは全くない。そんなのは私のツイートやブログを読んでいただいた方にはわかり切ったことなのだけど、自分でよく考えた結果として意見を支持したり批判したりはする。ただそれを、「友か敵か」と言う原理で行うことはしない、と言うだけのことだ。ただ、あまりに「友か敵か」と言う原理で発言する人ばかりである思想もあるわけで、そうなるとその思想の集団全体を批判することになり、結果的に敵認定してしまうことはなくはない。
ただまあ、それ自体はそんなに生産的なことではないのでなるべく避けようとは思っている。
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