「盗めるアート展」と「転売屋」について
Posted at 20/07/11 PermaLink» Tweet
ネットで話題になっていること等をいくつか考えてみたことを書いてみよう。今日は転売屋について。
全然知らなかったのだが、「盗めるアート展」というものが開催され、そこでは展示しているものを一人ひとつに限り「盗んで良い」という設定の展覧会だったらしいのだが、小さな展示物をそっと持っていく、みたいな盗み方が想定されていたようだけど、結局は会場時間前に大挙して押し掛けた人たちにあっという間に全て持ち去られ、そのわずか後にはメルカリで売られているという状態になったらしい。
この話を聞いた時は「アートの人たちが「世間」を知らない」という文脈で捉えて、つまり演劇人の一部がコロナで上演できない経済苦みたいなものを自分たちは援助すべきだと主張していることへの批判みたいな文脈で捉えていたのだが、今日読んだ諏訪敦さんのツイートで認識を改めた。
諏訪さんによると、彼の最初の画集がネットで高騰してしまったので、せめてもの思いで作家保管分だった数十部を2008年の展覧会で定価放出したところ多くの客が押しかけ並んでも買えなかった男が、販売スタッフに暴言を吐き物を投げつけるということが起こったのだそうだ。
私はアートの世界でも転売屋が問題になっているということは知らなかったので、なるほどそうだったのかと思った。つまり、この「盗めるアート展」の問題もこの転売屋問題の文脈で捉えるべきだったのだなと認識を改めた。
転売屋が問題になっていることを知ったのは元はと言えばオタクの人たちが楽しみにしている限定グッズを動員して買い占めてメルカリに売る行為がある、という話を聞いた時だった。今年はマスクやホットケーキミックス、在宅勤務が問題になるとウェブカメラであるとか、普段売れないが急に需要が増えたために品薄になったものが転売屋に買い占められ高値で売られるということが問題になっているけど、オタク界隈の転売屋への怨嗟の言葉がどちらかと言えばアート界と共通した問題性があるように思った。
そうなるとこれはハイカルチャーの世界だけの問題ではなく、サブカルチャーの世界の問題でもあるわけで、より多くの人たちがこの件に関し問題を感じているという問題意識を持った方がいいと思ったわけだ。ましてマスクやウェブカメラの問題になると、そういう趣味のない人たちの生活や安全にも関わってくるわけで、より広い層に問題意識が共有されることが可能だろうと思う。
Twitterなどで発言を拾ってみると、ほとんどは転売屋を非難し怨嗟する声なのだが、転売屋の論理として「需要と供給の原理に則っているだけ」という主張があることも知った。確かに、転売によって利益を得るというのは資本主義の基本ではある。やってることを見ると海賊資本主義の時代に帰ったような感じはするが。
初期の資本主義というのは荒っぽいものだったし、江戸時代でも商人の地位が低かったのは支配者ではなくものを生産しないのに大きな利潤をあげているということが封建社会の倫理の琴線に触れたからで、紀伊國屋文左衛門など多くの商人が財産を取り上げられたりしている。しかし彼らも権力から身を守るために株仲間とか組合とか商工会議所を作ったりして連帯するとともに、権力側もむしろ彼らの挙げている利潤に着目して冥加金や税を取り立てる方へ移行し、むしろ積極的に組織を作らせたりするようになったわけで、先行利益を蓄積した後は帝国主義時代や戦争期のような荒っぽい時期を除けば割合上品な商売をしているように見せるようになってきて、社会の上層部にも参入するようになっていった。
転売屋に対しても荒っぽい商売を規制する方向への要望がTwitter上では強いし現にマスクに関しては規制が行われたわけだけど、「規制をするとヤクザが絡んでくる」という指摘があって、確かにそうだなとは思った。それならばむしろ経産省とかが転売行為の実態調査を行い、法規制とともに業界団体を作らせて自主的にルールを守らせる体制に移行させた方がいいのではないかと思った。
もちろんそういう状態になると、いわば「ブルーオーシャン」的な状況(まさに海賊時代)ではなくなるので転売から足を洗う人も出てくるだろうし、業界団体に加盟せず地下で活動するような人も出てくる可能性はあるが、概ね今のような混乱した状況は収められる可能性はあるのではないかと思う。
まあ全般に素人考えなのでこの考えの有効性はよくわからないのだが、既成の企業が新しい分野に商機を見つけるとすぐそこに口を出してくる経産省が、こういう野蛮な分野にはあまり積極的でないのはちょっと残念だし、むしろそういうところにこそ政府が存在する意味があると思うのだが、いろいろなご意見を伺っていければいいなと思う。
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