アメリカの反差別運動について感じていること
Posted at 20/06/30 PermaLink» Tweet
これは印象論なので試論という感じではあるのだけど、アメリカを中心に暴風雨的な状況を示しているBLM運動がなぜこんなに激しくなっているのかということを考えたのだが、日本から見ているとやはりなかなか考えにくいのだが、リンカーンの銅像や南北戦争で戦った黒人兵たちの顕彰碑まで被害にあっている状況になっている。
この動きももっときちんと検証しないと本当のところはわからないのだけど、日本文化と西欧文化の違いの理由として一般によく言われている(だからこれ自身をもっと検証しないといけないのだがとりあえずの試論としてそこに乗っかって見るのだが)一神教と多神教の違い、というところにあるのではないかと思った。
日本ではあのような暴力的な動きに対し、やはり眉を顰める向きが多いと思う。もちろん黒人たちの権利を主張する、Black lives matter.という主張に理解はするけれども何もあそこまで、という感想を持つ人が多いのではないか。またそれを受けての社会・国家の側の動きも、トランプ政権が法に基づいた取り締まりを主張するのは理解できても、ミネアポリス市議会が「警察の廃止を決議」というところまで行くとなかなか理解しがたいだろう。
社会的な面でも「平等に」「慎重に」という動きは強く排撃され、黒人も白人も平等に扱うとした大学教授が解任され、その動きに慎重/消極的だと思われたFacebookやスターバックスが攻撃され、少しでも黒人差別的・あるいはそれを連想させると思われる作品等も(ダークエルフなど)も配信中止に追い込まれたりしている。
日本はよく同調圧力が強い、価値観の多様性がないと言われるけれども、アメリカでのこうした恐慌的な動きを見ていると、彼らは同調圧力というような生易しいものではない、むしろ生き残るために必死にBLM運動に賛同の姿勢を見せている、というように見える。
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つまり、今行われているのは、BLM運動に反対・批判・慎重・消極的な姿勢を示すもの全てに対する魔女狩りのようなものであって、これはなかなか日本では起きにくい(廃仏毀釈など、なかったわけではないが)動きであり、ある種の一神教的なメンタリティによるものなのではないかと思ったわけだ。
全ては神の味方か神の敵かしかおらず、慎重な姿勢を示したり躊躇ったりしたらそれだけで断罪される。幸い、日本はそうした環境ではないので、アメリカでの動きを奇異に眺めていれば今のところ済んでいるけれども、基本ソフトをはじめ娯楽ソフトなども相当な部分世界的にアメリカの支配下に陥りつつある現在、世界的に焚書坑儒的にヴァンダリズムが吹き荒れることも可能性としてはないわけではない。
そしてこれが、どの程度実質的な差別の撤廃につながるのかももう一つよくわからない。リベラル的な価値観の人々の会話等ではあからさまなレイシズムはないけれども、形を変えた屈折した差別が残っている例が多いということもある。
彼らは「黒人が多いから危ない」とは言わないが、「そのストリートは治安が悪いから危ない」という言い方をするし、住民に黒人層が増えてくると白人層は一斉にそこから転出していくという現象はよく起こる(いわゆるプアホワイトは取り残されるが)ようだ。全くそれと同じ形で正反対なのがOKマークの件だが、3本の指がW、親指と人差し指がPを、つまりWhite Power(白人の力)を意味し、白人至上主義のサインになったとして一斉にそれを排撃したりする。OKのマークとして商標にしている日本メーカーなどは飛んだとばっちりだが、「決して交わらない」という姿勢では同じように思われる。
またこれは先日知ったことだけど、アメリカでチップ制度が定着したのは奴隷解放後、黒人に給与を払わなくてはならなくなった白人経営者がそれを嫌い、客からのチップをサービス従事者の収入とするようにしたからだ、というのを読んだ。なぜアメリカでこのような奇妙な習慣が定着しているのかと思っていたが、そうした歴史的な経緯だと言われると納得できる。
結局、一神教的な正しいことだけが許され少しでもそれに反するものは許されないという規範が強いと、感情と規範との間に齟齬が生じるため、根強く残る差別感情はそのような屈折した形で表出されるということになるのだなと思った。
あからさまにBLM運動に批判や反対の姿勢を示しているのはトランプ陣営などそう多くは伝わってきていないけれども、表に出てこないだけで(今表に出るのは矢面に立つということだから)実際には不満や批判を持っている人は相当多いだろうし、そうした動きはトランプ再選への原動力になるだろう。
日本及び日本人にとってこの動きは有利なのか不利なのかはなかなかわかりにくい。フェミニズムが「男性も生きやすい社会」を掲げても実際には女性に有利な政策や主張が主であるように、黒人差別を無くそうという反レイシズムが我々他の人種の差別的待遇撤廃につながるかどうかはわからないし、むしろ日本の右派の人々を見ているとトランプの方に共感を示す人の方が多い。
大体我々日本人が韓国人や中国人と同じようにアジア人というカテゴリーに分類され、アジア人らしい振る舞いやメイキャップを強要されるという現代アメリカの風潮自体が非常に畸形的だと思うのだが、アメリカがくしゃみをすると日本が風邪をひくという話の通りどんなトバッチリが日本にくるかわからないので状況の推移を見守るしかないという感じはする。
日本の田舎における他者排除というのはむしろコミュニティの生き残りのための免疫的活動、つまりある種生理的な感じで、新しい動きも既存のコミュニティの生き残りや発展のために有効であると判断されると今度は無秩序に受け入れてしまうという面もある。それを多神教的という言い方をしたのだが、日本社会は論理より生理みたいな面があってそれはそれでもう少し論理が欲しいとは思うけれども、論理というか教理的なもの一辺倒の一神教的世界の生きにくさを、アメリカを見ていると感じる。
リンカーンの銅像や南北戦争の黒人兵の顕彰碑に落書きをしたりするのも、「黒人が権利を勝ち取ってきた」という歴史そのものを否定しないと絶対的なものとしての黒人の権利が脅かされるという意識があるのではないかという気がする。
この運動はまだ継続中なので総合的な評価はまだ難しいと思うけれども、現時点(2020年6月30日)で感じていることをまとめてみた。
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