デクエヤル元国連事務総長死去/偏差値教育の果たしてきたもの/野田秀樹さんの「演劇の灯を消すな」ステートメントについて
Posted at 20/03/06 PermaLink» Tweet
ツイートでもいいのだが考えてみると結構連続ツイートをしている時があるので、どうせならブログにしてしまおうと思って書き始めた。しかし寒いせいでMacBook Airの動きがおかしく、変換が変になる時があって手間取る。電子機器が寒さに弱いというのはなんとかしてもらえないものだろうか。
デクエヤル元国連事務総長が100歳で亡くなったとのこと。彼はペルー出身で90年代はフジモリ元大統領の政敵だった。彼が事務総長を務めたのは1982-91年、冷戦最末期ということになる。一つの時代を担った人の一人。確実に時代が変わっていく。
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大学受験におけるいわゆる「偏差値」教育を批判するツイートを読んで、少し思ったことを。私の知る限りでは、偏差値という考え方が普及したのは1970年代だと思う。私が受験したのは1981年で、その頃にはもう大体受験関係の人は知っていたように思う。偏差値は点数や平均点といったその時、その試験によって変わってしまう条件ではなく、平均点を50として受験生の成績が全体のどの位置にあるかをわかりやすく示す手段として、重宝に用いられてきた。それにはいわゆる「受験戦争」と言われた過酷な競争が背景にあったと思う。
受験戦争というと東大・早稲田・慶応といったいわゆる超難関校ばかりが話題になりがちだったが、多くの受験生は皆がそういう大学を目指していたわけではない。情報もなく、知名度や近くにある大学に行く、という程度の情報を頼りに受験し、なかなか成果を治められないでいたのが、大学受験が厳しいと言われたことの一面だろう。
偏差値の導入によって、自分の位置が可視化されるとともに、大学もランク付された。その是非はもちろんあるのだが、それによって自分の入れそうな大学、頑張ればいける大学、というのが可視化されたことは受験生やその指導者にはとても大きいことだったと思う。頑張ればここならいけそうだと思うことでモチベーションが上がる。逆に、頑張ってもあの大学は無理だからこの大学で、というようなある種の「諦め」を生んだという一面ももちろんないわけではない。しかし、指導者にとっては毎年大量の浪人生を出していた状況から、少しでも多くの現役合格者を出して教え子の道を安んじたい、という切実な願いもあっただろう。そういう意味ではよりスムーズに大学受験を乗り越えるための一つのツールとして、偏差値は役立てられてきた。
また、例えば家の経済的事情で先の学校に進むのを諦めていた生徒が、模試を受けて全国での自分の位置を知ることで、無縁だと思っていた東大や京大などに進むことに、学力的には不可能ではないということを知り、奨学金や授業料免除など様々な援助を受けて進学する可能性を開いたという側面もあるように思う。
もちろん大学に進学するということが偏差値ありきで進められるようになった弊害はあるのだが、本来そういう役割もあったのだということをちょっと書いておきたいと思った。
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野田秀樹さんが「演劇の灯を消すな」と訴えたことについて、世間はわりとネガティブに受け取った印象があるのだが、彼の訴えを演劇人の特権意識というように受け取ったひとが多かったことが多かった、ということがあるようだ。それ自体はどうだったか論じても仕方ない感じがするのだが、私が印象に残ったのはよりラジカルな姿勢からの視点、「彼の限界は劇場を飛び出して外でやろうとしなかったところだ」という指摘についてだった。演劇が本当に人間に必要なものなら、劇場を飛び出して河原でもやれる、という主張なわけだ。
その主張と野田さんのスタンスの違いがどこにあるかというと、野田さんはそうしたラジカルないわば一個の表現者としての原点、みたいなスタンスではなく、むしろ病院や警察やスーパーやお菓子屋さんなどのいわば社会システムの一員としての演劇のあり方みたいなものを考えているのではないかと思ったのだ。
例えばセゾンの堤さんが「生活の中のアート」というものを日本に定着させようとしたように、生活のお供としての演劇というか、アートでもありエンタテイメントでもある演劇の灯が、いまだ基盤が脆弱なまま消えていってしまうことについての危機感があのステートメントには表れていたのだと思う。
常に素の人間からスタートし直せる演劇というのもそれはそれで魅力的だが、野田さんのように資本主義社会システムの一環としての演劇の育成にずっと関わってきた人は違う思いがあるのだろうなと思ったのだ。
何がいいとか何が正しいとかいう話ではなく、そんなふうに自分の中で整理し直してみた、ということなのだけど。
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