自分にとって書くことは
Posted at 20/02/25 PermaLink» Tweet
個人的にもメチャクチャ忙しくて、世間的には新型コロナで殺気立ってるし、かといって年度末はどこかへ行ってくれない、みたいな状況なのだけど、自分の中の整理はそれなりに進んでいて、仕事の方は大変なのだけど、今まで自分がやってきたこともまたしっかりやっていくことが自分自身のためにも自分が何を残せるかということについてもまた生きていくうえでの柱をつくるためにも大事だなという気持ちがしてきていて、自然に本を買っている。
ここのところ本を買ってもあまり読めないというか、本を買いに行くこと自体が目的になってしまって買った後あまり読めないということが多かったのだけど、それは自分がどうして行こうという方向性が決めきれずに彷徨していたことが大きいなと思う。
平日は仕事やこまごました用事や家事、また母の介護関係のことで疲れてしまっていて週末はなかなか建設的なことができていなかったのだけど、逆に週末を含めた一日の過ごし方みたいなスケジュール表を作ってみて、ああこんな感じで動けばけっこう前進できるなというちょっと手ごたえみたいなものを得た。
ここのところずっと部屋の片づけをしていて、だいぶ古い地層まで整理が進み、昨日は1981年に駒場に入った時の推薦図書の一覧冊子が出てきたりして、かなりしみじみしている。いや実は、中学生の時の文集も割と見えるところにあったのだが。
昔を掘り返してみるとその時その時に関心があったこと、こういう方向に生きようとしていたこと、そのときに悩んでいたこと、そのときにこうと決めてみたことなどたくさんの自分自身の生の欠けらみたいなものが出てきて、自分を励ましたり照れ笑いさせたりする。何しろ、昔書いたものを今見るとずいぶん幼稚だなと思うことが多いし、それは10年くらい前のものでもそうで、きっと今書いていることもあとで見ると幼稚だったなと思ったりするのだろうと思う。
簡単に言うと私は何かを分かりたいと思って生きていて、それが分かることが自分にとってとても大きなことだし、それを積み重ねて生きていきたいと思っているのだけど、そのためにも、またそれで分かったことを伝えるためにも、文章を書いていくことが自分の人生の一つの柱になるべきだということを再び改めて思い始めたと言えばいいだろうか。
なぜそれを見失ってしまったのかと考えてみると、何のために文章を書いているのかということが見失われて、書くこと自体が自己目的化しがちだったからなんだろうと思う。
小説を書く人などはおそらく文章を書くこと自体が目的になるので、逆に言えば常にそれをし続けていれば目的から離れることはないのだけれども、私の場合は「何かを分かりたい」という思いから書いているので、その思いが弱くなってそれでもただ書いていると、何のために書いているのかわからなくなってしまう。
ただ書いていないと生理的に整わない時期があって、それゆえに書いてはいたのだけど、人間関係的なことからそこのバランスがうまく取れなくなって生理的な必要性から書くことができなくなってしまってから、他の忙しさからも書けなくなってしまっていたということもあった。
今思うと、書くということは常に今まで自分のやってきたことの、つまり過去の上に立って未来を見、現在を語る行為であって、未来だけを見ようとすると書けなくなる。知りたいことは未来にあるとは限らないし、わかりたいことは大体過去にあるので、自分の過去、つまり今まで自分が積み上げてきた部屋の中の書籍や雑誌、また自分が書いてきた膨大な断片に向き合わなければ書くという行為はできないのだなと思う。
分りたいことと書くことが直接関係あるのか、いや実際のところ書いているうちにわかってくるときもあればしばらくして急にこういうことだったんだなと理解することもあるし、わかりたいというのは多分自分自身にとってかなり深いところにある欲求なので、自分の環境を整えていくにしたがって自分の分かりたいもの一つ一つと向き合いやすくはなってきたのだなと思う。
知識、経験、表現を形にしていくことの一つが書くことなので、自分にとってのより本質的な営みの一つであることは確かだなと思う。
今の時点で読んでいる本を備忘のために記しておきたい。6冊並行して読むことになってしまった。
冨田恭彦『詩としての哲学 ニーチェ・ハイデッガー・ローティ』(講談社選書メチエ、2020)。これは多分先週、日本橋のタロー書房で立ち読みして買ったのだが、自分が詩を書いていた頃、詩はどういうものであるべきかみたいなことを考えていて、純粋にポエジーを描写?するものだ、みたいなことに思い至り、というかそういう表現としての純粋性みたいなものに魅かれていたので、思想を述べるような形態は詩としてよくないみたいに思っていたところがあったのだけど、逆に詩という表現形態はそういう狭量なものではなく、むしろ思想やそうでないさまざまなものを載せてもいいんじゃないか、というようなことを立ち読みしているうちに思ったということがあって、買ってみた。この本の目的はデカルトカント的な定言命法の哲学ではなく、エマソンやニーチェなどの詩の形式の哲学の優位性を述べることのようなのだけど、そこから自分の考えることや書くことに何かの影響があるのではないかと楽しみにしている。
佐藤進一『日本の中世国家』(岩波文庫、2020)。初出は1983年なので、ちょうど私が大学生の頃だ。今ツイッターでフォローしている気鋭の中世史家たちのコメントをいろいろ読んでいると、この佐藤進一の中世観がかなり影響を与えていることが分かる。われわれの時代の中世史のスターと言えば網野善彦であり、今谷明であったわけだが、研究はさらに進んでいる上で、中世理解の枠組みと言えばひとつの大きなとらえ方が佐藤の提示したものがいまだに大きな存在としてあるようだ。最近そのあたりはいろいろ読んではいるが、理論的なものとしては大きな存在であることはまだ読み始めてわずかだけれどもびんびん伝わってくるので、楽しみにしたい。
小林泰三『大きな森の小さな密室』(創元推理文庫、2011)。これは丸善日本橋店に平積みされていたが、新版が出たということなのだろうか。私はミステリーはほとんど読まないのだが、何となく魅かれて買ってみた。調べてみると著者は私と同年同月の生まれで、わずか4日しか誕生日が違わないことが分かり、そのあたりからも興味を持って読み始めたのだが、社会のいろいろな様相をよく知ってる人だなという印象を受けた。1話だけ読んだが結構に比べてオチが単純すぎる気はしたけど、ミステリーというものをあまり読んでない身としては評価は難しい。肩がこらないよ見方ができる本だなと思う。
時間が無くなってきたので後は書名だけ。時間があるときにコメントを書きたい。
ティナ・シーリグ『20歳の時に知っておきたかったこと』(CCCメディアハウス、2010)
宇野維正・田中宗一郎『2010s』(新潮社、2020)
松下哲也『ヘンリー・フューズリの画法』(三元社、2018)
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