ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』を読み始めた。
Posted at 20/01/19 PermaLink» Tweet
最近めっきりブログもマンガの感想も書かなくなったので、今日は久しぶりにちょっと書いてみよう。
最近読み始めた作品でこれは面白いと思ったものを一つ上げると、ゆうきまさみ『新九郎、奔る』だなと思う。これは今まで月刊スピリッツで連載されていたのだが、新年7号から週刊スピリッツでの連載になった。既刊三巻だが、どれも面白い。移籍したばかりということもあり、まだ3巻ということもあり、今読み始めるにはよい時期だと思う。
新九郎とは伊勢新九郎盛時、いわゆる北条早雲のことだ。北条早雲については最近の研究の進展で従来のイメージとは全然異なる像が描き出されるようになっているのだが、この作品ではその新しい像をベースに、まだ京都にいる時代の元服前後の新九郎について描かれている。
従来のイメージでは素浪人であった新九郎だが、最近の研究では室町幕府で代々政所執事を務めた伊勢氏の一族で備中伊勢氏の出としてこの作品では描かれている。伊勢氏については私もあまり詳しくはなかったのだけど、このマンガを読んでかなり政所執事の権限の強大さについて理解できた。ウィキペディアなどを読めばわかる程度の伊勢氏の情報より一歩踏み込んだ描かれ方をしている点は、もちろん作者の創作なのだと思うが、そのへんの必然性もよく練られていて、読んでいてとても面白い。
時代は応仁の乱、新九郎の兄八郎は足利義視(今出川殿)に仕えていたが、東軍の総大将であるはずの義視が密かに陣を出て西軍に合流することになった際、義視に従おうとした八郎は一族の伊勢守景に誅殺されてしまう。もともと棟梁になる可能性がなかった新九郎が思いがけず目前の兄の死により一族を率いる立場になってしまう場面は、胸に迫るものがあった。またそれが新九郎の異母姉・北川殿が今川義忠に輿入れする当日でもあるという劇的構成でその悲劇性を高めているのもオーソドックスな手腕で重厚さを感じた。
新九郎の目を通して描かれる権力者たち、義理の叔父である政所執事の伊勢伊勢守貞親や管領細川勝元、またその舅である山名宗全などもとても魅力的に描かれており、応仁の乱の時代が立ち上がってくるようだ。それらのキャラが立つのも、主人公である新九郎が一本気ではあるが聡明で果断な少年として描かれているところによるところが大きいなと思う。北条早雲はもっと謀略的な「戦国大名の祖」というイメージがあるけれども、そのイメージとはいわば正反対に描くことで、時代のある種退廃した雰囲気をより強く描き出すとともに物語に凛とした雰囲気を醸し出すことに成功している。アニメになったらいいなと思う作品だ。
ちなみに、母が八郎と北川殿の生母である貞親の妹ではなく横井掃部助の娘(側室)とした設定は北条五代記によるものということをいまウィキペディアを読んで知った。
特に歴史を好きな人にはお勧めできる作品だと思う。
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