「NARUTO」:ある種の社会契約の描出と人間が作り出してきた歴史への信頼
Posted at 19/11/19 PermaLink» Tweet
昨夜「NARUTO」を読み終えて、まだ余韻に浸っている状態なので、そんなに客観的なことは書けないし、多分スピード上げて読んでいるから細かい見落としなどはたくさんあると思うので、また周辺書籍などを少しずつ読みながら振り返っていく機会があると思うから、こまごました発見みたいなのはまたどこかで書くことになるのではないかと思う。
読んでいる途中で、この読書体験は自分のマンガ読みを更新する体験になるだろうという気がどんどんしてきた。もともと私はこういうスケールの大きな大ファンタジーというのが好きで、それは「ナルニア国」シリーズを読んだときからのことなので、このストーリーの構築力にはかなり驚嘆しているし、最終的にチャクラの起源であるカグヤや忍の祖である六道仙人まで登場するとは思っていなかったから、洗いざらいこの大ファンタジーの世界が描ききられていることには凄いと思っている。
ただ本当に凄いと思うのは、忍とは何か?里とは何か?一族とは、といったいわば「社会的なテーマ」が問われていることで、これは80年代~90年代にはなかった視点で、いわば抑圧するもの、個人を苦しめるものという社会や国家というものを、いくつかの一族が集まり、大名と協定が結ばれて里が出来た、という形である種の社会契約を、つまり国家の起源を描き出しているということではないかと思った。
NARUTO以前の作品がむしろ国家や社会、組織というものを抑圧的に、つまりある種の敵として描いているのに対し、NARUTOではもっと肯定的に、そしてある種そこからはじき出されたサスケの敵対と彷徨の末にその起源にまでたどり着いて、先人の凄さを素直に体験していくナルトとの最後の対決の結果、この世界を救うことになるというストーリーは正直あまりによくできていて、これを超えることはかなり困難だと思わざるを得ない。
今の少年マンガの作品が結構あっけらかんと組織や国家、文明というものを肯定している、肯定することができるようになったのは、「NARUTO」の影響がかなり大きいのではないか。もともとマンガというものはサブカルチャー、ハイカルチャーに対するアンチの位置づけだったから、特に70年代以降は社会に反抗的であるのが当たり前だったし、80年代はその構造自体が溶解していく、脱構築され物語の意味さえが失われていくなかで、個人の成長や友情といった少年マンガの本来の王道は繰り返されてきたとはいえ、サブカルチャーとしてのマンガがどう社会と対峙するかというテーマは「NARUTO」までなかったのではないか。
たとえば「OnePiece」でも人種差別や麻薬問題など社会的なテーマが取り上げられるようになったのも、ある種「NARUTO」の影響なのではないかと思う。
最近のマンガはむしろ組織の善とか大義みたいなものを肯定しすぎる方向へ行っているのはちょっと危うい感じさえするのだが、ただ人間が作り出してきたもの、その歴史への信頼というものがマンガで表現されたことは「NARUTO」の大きな功績だったと思う。それを商業誌であるジャンプで15年もかけて連載できたというのはある種の奇跡だったと思う。
社会の変化に応じまたマンガも変わっていくだろうと思うし、同時代の様々な作品の描き出すものにはこれからも期待していきたいと思うのだけど、「NARUTO」という作品が一つの金字塔として日本で描かれたことは、これからも大きな影響力を持っていくと思う。
私が再びジャンプを読み始めたのは2010年代前半だから実は「NARUTO」の最後の連載期とかぶっているのだけど、ほとんど読んではいなかった。どうもこの作品は途中から読み始めても意味があるというようなものではなく、最初から読まないとダメな作品だという感じがしたからで、ただこれだけ長い作品を読む機会がいつ訪れるかはちょっとわかんねーなと思っていたのだけど、最近ほんの少しだけでも余裕が出てきたことと自分のマンガ読みがちょっと行き詰まりを感じ始めていたこともあって、初心に帰るつもりで読み始めたのだけど、結構自分の中に芯を入れるような体験になったと思う。
まだまだ鉄が熱いうちの言葉であってきちんとその体験を言葉にしていく必要があるなと思うので、また少しずつ書くことになると思う。
***
個人的には、大蛇丸やカブト、水月、香憐、重吾といった旧サスケ陣営のキャラたちが「その後」どうなったのかということも知りたいのだが、多分その辺は野暮なんだろうなとも思う。あるいは外伝とかで描かれることになるのかもしれないな。
そのへんはまた出て着てのお楽しみということにしておくのがいいのかもしれない。
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