「教養としての世界史の学び方」:近代歴史学はどう成立したか
Posted at 19/04/24 PermaLink» Tweet
諏訪に戻ってくると、今が桜の満開で、本当は色々花を愛でて回るのもいいなあと思うのだが、なかなかそんな時間もなく、毎日色々な用事に追われている。スケジュール帳にto doを書き始めると真っ黒になってしまい、結局もう一度整理し直さないと何が何だかわからない、という感じに毎日なっていて、毎日ちゃんと色々こなしているのにどうして無限に用事が湧き出してくるのか、人間が生きているというのは不思議なものだなと思う。
こういう用事が入っていると本格的な書籍の感想とかを書くのはまず読む時間と体力がほとんど確保できないので難しいのだが、とりあえず書き続けている「教養としての世界史の学び方」の感想を続きを書いてみようと思う。
今日はとりあえず第一部「私たちにとっての世界史はいかに書かれてきたか」の第一章「近代的営みとしての歴史学」の第1節「科学としての歴史学」の(3)「近代国家、大学、歴史学」について。
とあえずは昨日まで書いた歴史学と歴史でないもの、の部分にこうした本に対する違和感はだいたい集中するので、昨日までのところがまずは書いておかないといけないこと、ということなのだけど、歴史学というものがどのように成立してきて、その成立の過程から否応無く受けている性質や傾向、限界といったものについては考えておかないといけないなと思う、というのはこれは歴史学をやる人だけでなく、方法としての歴史学を使う例えば経済史家や社会史家にとっても確認しておかなければならないことだろうと思う。
近代以前の「歴史」のパトロンは例えば日本も含めた中国文化圏においては国家そのものだったが、ギリシャではヘロドトスやトゥキディデスなどの個人が書いた場合もあるし、啓蒙時代にはギボンの「ローマ帝国衰亡史」のように個人の業績に帰せられる書物もある。これは啓蒙時代には大学がアカデミズムの中心ではなかったということで、このあたりはこの本にも書かれているが、しかし啓蒙時代の成果が市民革命・産業革命後の近代国家によって「大学」という研究・教育機関に制度化され、整備されていったことは、ちょっと言及が足りない気がした。
つまりそこに、村上陽一郎さんの表現を用いれば「聖俗革命」にあり、聖と俗の分離、つまり自然現象や人間の社会現象を超越的な存在を前提としないで考えようとする近代科学思想の勝利があり、それを前提として学問が整備されていったということが重要なので、アプリオリに科学が勝利したわけではない。
それはやはりフランス革命やアメリカ独立、そしてその前後に起こった産業革命の過程の中で、科学的合理主義の採用が、自らの国を市民が守るナショナリズムの成立とともに、非合理主義や貴族主義的コスモポリタニズムに対する勝利に貢献し、近代国家における大学の役割として位置づけられた、ということはこの本の指摘を読んで改めて確認したところがある。
「この時整備された大学は、一方で近代的な国民国家の統合と発展という目的を持って作られたものですが、(中略)経験的な次元における客観的な事実に根拠を置く科学という様式を取ることが基本的な条件になりました」「学問が、近代国家の目的に奉仕しつつ、近代国家の保護を受けるためには、自らの営みが科学であることを主張しなければならなくなったのです。」
その辺のところはきちんと確認しきれていないところもあるのだけど、大枠においてその通りだろうと思う。
そして学問が科学であるための条件としてこの時代(つまり19世紀)に進んだのが、法則を定立しようとする物理学のような科学と、「個性記述的科学」の二つであり、歴史学は後者を選んだ、という。
後者は基本的にはいわゆる「博物学」が中心で、遺伝子研究等分子やそれ以下のレベルでの研究が盛んになるまでは動物学や植物学、あるいは鉱物、地理等を研究する学問もまた個性記述的な学問であるけれども、これらの学問との違いもあると。
このあたりのところは少し考えてみないと妥当性が判断できないのだが、人間は自己対象化の能力を持つので自分自身を変革することができ、つまり自由意志に基づいて社会を変革する歴史の主体であるという非常に近代主義的な考え方に基づいて、「一回性の現象」としての歴史は記述されるべき、とされたのだという。
この「歴史主体としての人間」という考え方は歴史学の歴史の中でも位置付けは時期や学派によって変わってくるところはあるのだが、歴史学の成立過程と結びつけて考えたことはあまりなかったのでこのへんのところは機会があったら考えてみたいと思う。
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