美しいところだけ、好きな人に見てもらったのね:「風立ちぬ」
Posted at 19/04/13 PermaLink» Tweet
忙しい中でも一番の一つの山が木曜日にあり、昨日は松本に行って身体をみてもらってきたので少し楽になっている。だいぶ色々な疲れが溜まっている感じがしていたが、昨日はそれなりに抜けたなと思う。ただまあまだまだこれからやることはあって、なんとか上向きの方向にした形で令和元年を迎えられるといいなと思う。
昨日は仕事から帰ってきたのが10時を超えていたので、金曜ロードショーでやっていた宮崎駿監督「風立ちぬ」は途中から見た。軽井沢での再会の場面。自然描写、特に光の描写が美しく、元々の絵がそうだけど、本当に印象派の絵のようだと思った。そこで出会い、恋に落ち、求婚と同時に病を告白され、と続く。
この映画は公開時に岡谷の映画館で午前中に見たのだが、いい映画だとは思ったのだけど結局一度しか見なかった。公開時の感想はこちらに書いてあるが、その後数回に分けてブログで感想や内容に対する様々な反応を見て思ったことを書いている。
見たのは2013年の7月か。もう6年も前か。もう新作を作らないと行っていた宮崎監督も、新しい映画を製作しているようだし、オリジナルの名作系?のアニメの作り手も「君の名は」の新海誠監督、「サマーウォーズ」の細田誠監督、「この世界の片隅に」の片渕須直監督と現れてきていて、盟友高畑勲監督も「かぐや姫の物語」を残して長逝したことを考えると、宮崎監督の時代も終わったのか、まだ過ぎ去ろうとしていないのか、微妙なところもあるが、時代の歯車はまちがいなく回っている。
映画「風立ちぬ」の話に戻るが、今回久しぶりに見て、公開時の印象よりもさらにいい映画だなと思った。それは、この6年間で自分が経験したいろいろなことが、この映画を見る上でさらに陰影を加えているからだなと思う。6年前はすでに50歳になっているのだけど、そこからの変化は自分にとって結構大きいのだなと思う。五十にして天命を知る、というのは孔子だが、ある意味五十代になってから自分の人生の意味みたいなものとか少しずつわかってきている感じはしなくはない。2009年に父が亡くなった時には私は47歳で、まあまだ今思うとわかっていなかったことも多いなと思うし、人間は案外歳を取ってからも変化する可能性があるので、今苦しい人もとにかく生きていれば違う、ということはあるとは思う。
この「風立ちぬ」は生と死の物語でもある。私は自分自身に死は迫っているという実感はないが、この映画の一つの主題である「創造的な人生の持ち時間は10年だ」ということは常に考えていて、それは「今」だろうと常に思いながらその時その時で苦闘してきていて、でもうまくいってなかったのだけど、考えてみたら今ようやくその10年が始まりつつあるのかなという気もする。
その10年を、主人公二郎は「好きな人」とともに送りたいと考え、重い病の菜穂子とともに上司の離れで生活を始める。彼に取っての最上の飛行機の設計という仕事で日中は一緒にいられず、また夜も手を握りながら仕事を進める、そういうエゴイズムを彼は貫いた。
そしてその晴れの試験飛行の日、菜穂子は家を抜け出し、山の療養所に帰る。それを追おうとする次郎の妹に、上司の妻はいう。「美しいところだけ、好きな人に見てもらったのね」と。それは菜穂子にとっての、最上のエゴイズムであったのだなと思う。菜穂子も、自分にとっての最上のエゴイズム、エゴイズムといって悪ければ「美学」を貫いて死んだ。
このことが特に印象に残っているのは、私も身近な人の死に接し、生き様を貫いた人の逝き方を見たからだ。もちろん本音をさらけ出し、苦しみをさらけ出して生き、死んでいく生き方もあるし、それはそれで人間らしいとも思うのだけど、やはり素晴らしい逝き方を見てしまうと、やはりああいう風に生き、ああいう風に逝きたいと思ってしまう。宮崎監督も二郎の生き方、菜穂子の行き方を通じてこういう素晴らしい人間がいる、見事な生き方があるということを示したかったんだろうなと思う。時代背景があるだけに、そこが複雑になってしまっていて、ものすごく多面的な見方ができる映画になっているのだけど、本当の底の底にはそういうものがあるのではないかなと思う。
人は時代や状況に翻弄されざるを得ないけれども、その中でどのように生きるか。生きる、というのは時に過酷なことではあるのだが、というより多くの部分が過酷なのだけど、その中で少しでも自分として満足のいく生き方ができれば、それは幸福だったということなのだろう。そしてそれは時に強い批判にさらされることもある。でも幸福が、そこにあることの方が大事なのだと思う。
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