文章をうまく書くコツとか文章修業法とか
Posted at 19/02/03 PermaLink» Tweet
ツイッターで開成中学の国語教育の話を読んだ。大量に本を読ませたり、漢字や短文づくりを徹底してやって、文章分析などやらなかったというのだが、実践の一つに「「杜子春」を楷書で書写させた」というのがあって、ああなるほど、と共感した。
杜子春は芥川龍之介の作品だが、唐代の伝奇小説「杜子春傳」を種本としてかなりの創作を織り交ぜた作品で、発表当初は『赤い鳥』に掲載された童話だったという。もともとは子ども向けの作品で、語り口としても子どもに諭すような部分があるが、現代では中学校の教科書に掲載されているようだ。
この小説における芥川の文体は明快で平易で、また漢字の数もそう多くなく、文章も短い。もし原文で書写するなら歴史的仮名遣いになっているし、また中国の小説のパターンなども知ることができるし一気にいろいろなことが学べる作品で、この作品を選んだ開成の先生はさすが慧眼だと思う。
国語の指導という点では、「天声人語を書写する」という指導が高校入試段階などでよく行われているけれども、ああいう新聞のコラムは玉石混交で、かならずしも妥当だと思えないこともある。ただ、そこから出題されることがあるというのは強みだし、朝日新聞社では写経、もとい書写用のノートも売っていて商魂たくましい。私はこのコラムは特によい文章でもないし内容も気に入らないことが多いから書写したいとは思わないけれども、文章を書写すること自体は意味があることだし、文章の練習としてはお勧めしたい方法でもある。
有名な作家でも夏目漱石の作品を書写したとか、尊敬する作家の作品を一字一句書き写したという人は少なくない。樋口一葉や中里介山などは書写したくなる文体ではある。
私の場合は、文章が上手くなりたいと思ってはいたけれども実際に書写をやってみたのはもう大人になってからだった。朝日新聞に掲載されていた河合隼雄さんのコラムを毎週書写していたのだ。そのコラムは『おはなしおはなし』という書籍にまとめられているが、楽しい語り口で様々なことが描かれ、当時もっとも真似したい文章だったのだ。
コラムは日曜の朝刊に掲載されていたように記憶しているが、新聞が来るとその面を開け、一読してから原稿用紙に書き写していく。当たり前だけどいつも同じ枚数で終わるわけで、読んでいるときはそんなこと気にしていなかったけど、さまざまな内容が必ず同じ枚数で終わるというのは、なんだか魔法みたいな気がした。
この書写は半年くらいはやったと思うが、とても財産になっている。卑近なことで言えば、文章を読んだとき枚数を考えるようになったし、長さの感覚が実感として理解できるようになった。まあ、コラムとしての長さであって数百枚の小説になると話は違うけれども。
河合さんが書いていて、この辺りで話を変えよう、とかこの辺りでまとめに入る、みたいな展開に関する考えが、書写することで感じられる。言葉の選び方とか、字数を合わせるために表現を工夫するとか、そう言う技術的な部分も、つまり作者の呼吸のような部分が実感としてわかるようになった。この文章の呼吸というものは、うまい文章でなければ無いものであって、読む人に読む速さを指定するようなところがあり、もちろんその人なりの速さで読むにしても、ちょうどいい読む速さを指定するのが「文章の呼吸」なのだと思う。その呼吸の仕方みたいなものが、河合さんの文章は、抜群に私の膚に合った。
いろいろな小説を読んでみても、私はどこか苦手なものが多く、それはその呼吸の仕方がどこか浅いものが多い、あるいは呼吸など忘れているものが多い感じがする。呼吸があっても作り物めいたところもあるし、なかなか呼吸が性に合う作品は多くない。今までで一番あった気がしたのは『アカシアの大連』だったかなと思ったり。
河合さんのコラムは内容の選び方も興味深かった。身の回りの大学や日文研のこと、ユング心理学のこと、文学のこと、家庭でのこと、クライアントとのこと。私は一度だけ河合隼雄さんの講演を聞いたことがあるのだが、想像してたのと違う雰囲気の、めちゃくちゃよく喋るおじさんだった。話がうまくて、コラムで話題の選び方がうまいのもよくわかる感じだった。ちなみにそのときの講演のテーマは「とりかへばや」で、そのジェンダーめいた内容自体はあまり共感はしなかったが、あとでマンガ「とりかえ・ばや」を読んだときは、すでに亡くなっていた河合さんの文章やお話を懐かしく思い出すよすがにはなった。
こんなふうに書いてみて思うと、私の文章をもし私自身が評価するとしたら、やはりその「文章の呼吸」の部分なのではないかと思う。まあ内容の良しあしは自分では分からないけど、呼吸に関してはうまく書けたなと思うときと、いまいちだなと思うときはある。そして呼吸の整え方なんかは自分では分かっているので、推敲するとしたらその点が中心になる。まあ忙しいから最近はほとんど推敲しないでブログに載せているのだけど。
そういう意味では、自分の文章の特色みたいなものが自分なりに理解できたのも、この「書写」がよかったのだと思うし、おそらく誰がやっても発見できることはあると思うので、自分が「こんな文章を書きたい」と思う文章を書きうつす、ということはお勧めの文章修業法だということはできる。
よかったら。
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