見田宗介さんの近著とか暗記中心学習の歴史的意義とか
Posted at 19/01/10 PermaLink» Tweet
見田宗介「現代社会はどこに向かうか 高原の見晴らしを切り開くこと」(岩波新書)を読んでいる。私は学生時代、見田先生のゼミに1年間出ていたのだが、結局よくわからないところもあって、進学先は社会学ではなく西洋史の方を選択したので、あまり見田さんの本を読んできてはいないのだが、近著が出ていることを聞き、Amazonで注文して読み始めた。
見田さんの本は自分にはとにかく読みにくい、何を書いてあるのかなかなか読み取れない本だったのだが、この本はとてもわかりやすい。こちらの社会の理解対する変化ももちろんあるとは思うが、とても読みやすいし論旨もわかりやすかった。
時間がないので本格的には論じられないのだけど、人類は爆発的膨張期としての近代は終わり、種として安定した段階に入るところだという主張で、そこにはバラ色の未来が書かれているのだが、そのあたり少し内田樹さんの言うことに通じる部分があるような気がした。
戦争も闘争もない安定した社会というのは、階層分化が進んだ社会的変動の少ない社会なのではないか、そしてその社会を楽園視できるのは比較的上層にいる人たちにとってのことであって、社会の下層に置かれた人たちは何世代にもわたってその位置から逃れられないということになるのではないかという気がする。
そしてその辺りのことについて、今まで読んだ範囲については論じられていなくて、その辺りの感覚が内田樹さんに似てる感じがしたのだった。
論理や描かれている図式自体はなるほどと思うのだけど、で、それでいいのか、というところに疑問を感じると言えばいいのか。しかし、安定化・保守化というのが社会の趨勢になっていること自体は多分本当なので、そういう疑問を感じている人もそう多くはない、というのはツイッターを読んでいるだけではわからないことなんだろうなとも思った。
国が進める文教政策などを見ていても、今現在不利な状況にいる人たちにとってより不利になるような政策が進められているように思う。今までは受験を頑張って人生一発逆転、みたいなことが可能だったわけだけど、それがやりにくくなりつつあり、社会階層を上昇する経路が細くなりつつある。不利な状況にある人にとってより不利になるということは、有利な状況にある人にとってより有利になるということで、当然階層分化は進んでいく。私はそれはあまりいいことだとは思わない。福澤諭吉も「門閥制度は親の仇でござる」と言っていたが、個人の努力で社会的上昇が果たせる可能性がある社会でなければ、社会の活力というものは失われていくだろう。その辺りは中国と比較してみればもっと良くわかると思う。
財政緊縮、消費税増税、という方向も基本的には今豊かな人にとってより有利になり、今貧しい人にとってより不利になる政策であることは間違いない。より強い累進課税制度と再分配制度がより社会的階層の低い人にとって生活の厳しさを緩和し、社会的上昇のための努力を可能にする面はあったわけで、それで社会的上昇をしたら課税が強化されてもそれは同じ条件の人たちのためになるのであれば受け入れる、という姿勢が以前はあったと思うが、今は金持ちにとって所得の再分配は自分たちが頑張るモチベーションが下がるという理由で嫌われているわけで、そこには社会的に低い階層にいる人たちに対する視点が薄くなっていることは確かだ。
中国は遅れてきた近代国家、西欧北米基準においては多少奇形的であってもモダニズム国家であって、日本はいわばそうしたポストモダン段階に入っているから、勢いとして中国の方が強いことはまあ仕方がないが、だからと言ってその奇形的なモダニズムを日本に対して強要してくるような姿勢が仄見えていることはやはり警戒すべきで、対抗する意思を持つべきだと思う。それには社会の深層からの活力は必要だと思う。
その辺のところ、問題意識が一番近いのは財政緊縮派の方々もあるけれども、例えば和田秀樹さんのような受験勉強は子供を救う、というスタンスの人にも共感するところが多い。
日本はかなり洗練された社会になってきたので、教育面においても数学も英語もより原理的な、より高みに到達しうるような教育を主張する人が増えてきたが、今までの受験勉強がある程度の英語力、ある程度の数学力を国民的・大衆的に涵養してきたことに大きな意味はあるだろうと思う。その際に、暗記を重視した教育が行われてきたことを否定する向きが強いのが少し気になっている。
暗記による学習というのが諸刃の剣であることは確かだが、一定の成果を上げるためにある意味での手っ取り早さがあることは確かで、また悪い状況の人でも細切れの時間を使ってでもできるある意味機械化された学習法であるから、そういう人たちが多かった時代には信奉されやすい学習法であったと思うし、そのことの歴史的意味は決して軽くないと思う。また階層分化が固定化されそうな今現在においても、決して否定すべき学習法ではないと思う。
もちろんそれは万人向きの学習法と考えるべきではなくて、より高度なセンシティブな高い教育技能と優れた専門能力を持った人による教育が可能な人に対して強要される必要はない、モンテッソーリ教育のようなことが可能であればしたほうがいいだろうとは思うが、誰にでもできる状況ではない。
暗記教育・学習が社会階層を上昇するための一つの経路であり得るということの意味は、あまり軽視しないほうがいいのではないかと思う。
見田さんの近著から色々なことに触れてしまったが、今思っていることを書いた。
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