『社会学はどこからきてどこへ行くのか』(通称・社会学どこどこ)を読み始めて思ったこと。
Posted at 18/12/04 PermaLink» Tweet
『社会学はどこからきてどこへ行くのか』(通称・社会学どこどこ)を読み始めた。まだ16/361ページしか読んでないので全体的な感想ではないのだが、社会学における見田宗介先生の大きな影響力というものについて改めて知った。というか、今現在においてもこれだけ大きな存在なのかということは初めて認識した、と言ってもいい。
私は個人的な動機、というか自分の中で決着をつけたかったことがあって1982年に見田ゼミに出席していたのだが、前期はどんなことをやったかあまり覚えてなくて、とにかく合宿が印象的だった。まあこれは参加者みんなが合宿は強く印象が残っていると思うけれども。身体性・社会性というか身体の共振性みたいなものを自覚するための合宿というのか、瞑想(メディテーション)や野口整体の活元運動、竹内レッスンの「砂浜のエチュード」など、初めて経験する学生にはきわめて刺激的な内容だった。
私は自分の中の問題意識、これからの社会はコミューン化していくのかどうか、みたいなものを持っていて、で、自分の中のイメージとしてはコミューンに対しディストピア的な印象が強かったから、今後何を目指しどう生きて行けばいいのか、みたいな切実な部分があった。(まあそんな意識を持ってる人はまず第一に特殊だと思うが)
当時はそういうコミューンに対する問題意識から身体性の問題に自分の関心が移り、演劇を始めていてそういうことでも見田先生の思索・研究・実践というものに関心があった。
しかし結局のところ私は見田さんが何をやっているのかよくわからなかったし、本を読んでもあまりよく理解できず、さらに後期の宮澤賢治を読むゼミでもどうもうまく乗れなくて、自分の関心も演劇における「身体性」の問題から同じ演劇内でも「表現・アート」の方に関心が移っていき、自分に切実な問題への取り組みとしての社会学よりも自分が好きで勉強したい(と思っていた)歴史学の方へシフトしてしまって、そのあたりからは離れていくことになる。ただ「そのあたり」はまた新たに自分の中の未解決な問題として残ってしまって、「社会学とは自分はよくわからないが凄いことをやってるらしいところ」という印象が残ることになった。
まあ結局のところ自分自身の問題みたいなものは全然解決も何もせず、ただ長い間社会で生きていく中でどうも社会がコミューン化していくことはなさそうだと思っても、たとえば「家族」みたいな価値観が強調されてもどうもついていけず、自分の中のネガなのか、やはり「同志の共同体」みたいなものの中で生きたいという思いはずっと持っていたのだなということは考えている中で思い出した。自分が劇団というものに対して思っていた思いもそういうものに近いのだろうなとも。
ツイッターなどで見かける若い人たちの新たな試みのある種の共同性、教祖と信者みたいな関係のビジネスモデルはともかく、共感する人たちで新しいことを始める、みたいなものに対してやはり期待と共感を持ってしまうのはそういう部分があるのだなと思う。
ただ現実には共同体そのものが目的になってしまっては続かないことは明らかで、それは種々のそうした共同体が、たとえば会社共同体のようなもの、組合共同体のようなものも目的や方向性を失ったら立ち腐れていくし、宗教共同体のようなものも変質しカルト化していく、つまりディストピア化していく例はいくらでも見ることができる。また省庁などが共同体化していくことによって官僚制的な強度なセクショナリズムが生まれたりして、なかなかあまりいい方向に行く例がない。
基本的には個人とか自由とかに立脚した思想体系、社会体系が好きなのだけど、というかだから民主制というのはそういう意味ではそんなに悪くない制度だと思うのだが、逆に言えばそういう個人の不安、自由の不安みたいなものに耐えられない人たちを社会でどう抱えていくかみたいな話になってしまう、というか日本では個人として生きることをよしとする人が本当に少数でしかも偏屈な人が多いので、なかなかそれも難しいなとも思っている。
まあそういう人間の接着面というか離合集散面から考えるより内発的な利益追求の側面、資本制によって世の中を統御していこうという方向での考え方が今は強いし、またネオナショナリズムみたいな皇室の存在は軽視するが日本人というアイデンティティは盲信する傾向とがあいまってあまり論理的には説明しにくい世の中になってしまっている感じはする。
見田さんの社会学というのはそういう社会の行き詰まりを近代そのものの行き詰まりと考える方向性の中から生まれてきたものだと思うし、それゆえに様々な社会運動のある種の母体にもなっているように思うが、そうした諸運動を社会を混乱させるだけのものと苦々しく思う人も少なくはなく、というか確かにそうなってしまっている面もあると思うのだけど、であるから社会学というものの本来持つ力を、見田さんの社会学が生み出してきたものの「功績」を認めたうえで、もう一度見直そうというのがこの本の取り組みなのかなというふうに私は思った。まだ少ししか読んでないから何とも言えないけど。
「『近代の行き詰まりを超える=ポストモダニズム』の行き詰まり」を超えるために社会学という近代「科学」の方法を見直すという動きは多分全般に起こってきているのだと思うが、それと同時に「資本主義に靡かない大学」に対する資本主義的(ネオリベ的)政治権力からの攻撃も激しくなり、学的に「超克の超克」の試みが大変になっているなあというのを実感としては思うし、いまだに「近代批判」自体に無批判な人もいれば一周回って新しくなったモダニスト・科学主義者がまた脚光を浴びていたりするものややどうかと思う面もあり、とはいえネオリベ政権が批判されて暴動や政権交代に至っている国々も多いしそれ以前の近代化を遮二無二推し進めている独裁国家もある、という世界全体的に言えば無秩序な、ある種のポストモダン状況はまだ続いているとは言えるのだろう。
そんな中で社会学はどう有効性を持ちえるのか、という問いは多分無駄なことではなくて、政治学や経済学といった『上からの』学問だけでは扱いきれない問題を、提起し解明していく可能性はなくはないと期待はしたいと思う。
社会というものが何たるかという理論的な問題から、社会の実態がどうなっているかという社会調査的な研究から、わかってくることは皆無ではないはずで、ただそれが変な社会運動に結実すると変なことになる可能性はあるなとは思うが、そこを自重して地道な活動で少しずつ社会を変える力につなげることはできなくはないと思う。
しかしまあ、考えてみると社会学というのは怖い学問だな。今までその怖さをちゃんと認識してこなかったけど。下手をすると日本的フェミニズムや狂信的な反原発運動などの怪物的なものを生み出す力もあるわけだし、だからと言って蓋をすることで見えなくなる問題が沢山あることも確かだ。まあ本来、学問というものはそういうもの、両刃の剣だと言えばそうで、社会学に限った問題ではないのだけど。(経済学がいかに日本や世界を傷めつけているかを考えてみればすぐわかるが)
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