日産ゴーン事件は、歴史の流れを変える可能性すら出てきたかもしれない
Posted at 18/11/22 PermaLink» Tweet
なかなか更新できないので、普通だったらツイッターに書きそうな内容なのだが、ブログに書いておこうと思う。日産のゴーン事件のことだ。この問題は実は歴史を変える事件になる可能性もあるような気がしてきている。
色々な報道を読んだり聞いたりしていると、少し風向きが変わってきた感じがある。特に気になるのは、フランスで今回の事件をゴーン氏を追い落とすための陰謀なのではないかとみる意見が強くなってきたということだ。もともとフランス史には「陰謀めいた事件」がいくつもあって、それだけフランスは政治的な国民だ。大革命以来、いやその前からも様々な政治勢力の綱引きがずっと続いていて、現在のところは世俗主義が国政の根幹とも言える国になっている。それがイスラム系住民との軋轢も産むわけだが、宗教がないということは政治が強いということであり、それも日本のように情緒的な民主主義ではなく、非常に論理的な、つまりソフィスティケートされた権力闘争が日常茶飯事の国だということだ。
報道を読んでいると、この事件の背景の構図として否応無く浮かんでくるのがルノーと日産の経営統合問題、つまりはルノーによる日産の吸収合併という問題がある。日産はルノーの子会社になり、ゴーン氏が送り込まれて経営が改善され、生き残ったという過去があるから、ルノーの支配力は強い。しかし今ルノーは業績が低迷し、日産が好調なので日産のあげる利益がルノーを支えている状態になっているのだという。そしてルノーはもともと国有化されていた経緯もあり、フランス政府のルノーに対する発言力も非常に強い。マクロン大統領はゴーン氏に対し、ルノーの経営を続ける条件としてルノーと日産の経営統合を要求し、それをゴーン氏は受け入れたと報道ではされている。
つまり、日本から日産という大企業が消え、ルノーというフランスの会社になってしまうということになる、まあ形式はどうなるかはわからないが。それには日産幹部だけでなく、日本政府も危機感を持ったことは容易に想像できる。つまりこの事件はその危機感を背景にして、日産側、報道によってはその裏に日本政府もついてゴーン氏を追放することによって経営統合を回避しようとして起こした意図的なスキャンダル、国策捜査であるという説が出てきているわけだ。
先ほどテレビを見ていたら、日本政府の関与に関しては誰も発言していなかった、多分そこは自制なのか政府からの牽制なのかが働いているのだろうとは思うが、リテラなど反政府系(?)のメディアを見ると経済産業省出身の今井首相秘書官の名前も上がっている。また、このスクープは朝日新聞主導だったらしく、朝日は日産内部の不満なども報道しているが、その主張もあまりに情緒的な反応が多く、そうした形で世論操作に出たのかと勘ぐりたくなる感じもある。
実際のところ、構図が本当はどうなのかはよくわからないし、本当のところがどうなのかということに関わらず「こういうことで手打ちにしよう」という国際間の政治的取引がどのようになるかもよくわからない。それはカショギ氏をめぐる事件でサウジアラビアが皇太子不関与の主張を貫き、トランプ政権もそれを支持しているという、真実とは遠そうな主張が国際的に通りそうなこと一つを考えてもよくわかる。他にもロシアのクリミア統合など、そういうのは枚挙にいとまがない。日本の敗戦をめぐる事柄だって真実を明らかにしようと努力する人たちに「歴史修正主義」の罵声が浴びさせられていることからもわかるように、一度決まった手打ち、政治的取引をひっくり返すことは簡単なことではない。
それはともかく、この件で何度も日本の報道で繰り返されている「ゴーン氏一人に権力が集中しすぎた歪み、矛盾がこうした事件となった」という「語り」を聞いているうちに、これは安倍政権に対する批判なのではないかと思えてきたということがある。安倍政権こそが一人に権力が集中しすぎた歪みを様々生み出していることは消費増税や移民法改正など重大な案件がまともに審議されずに動きかねないことからもよくわかる。
また、もう一つ感じるのは日本で多くの失業者、ロストジェネレーションと言われる不遇な世代を生み出す一つの大きな原因ともなったリストラ至上主義を日本に持ち込んだ「コストカッター」ゴーン氏が、膨大な個人資産を築くとともにそれによってあげた利益をフランス政府の影響力が強いルノーに持ち込んでいたこと、そしてそれだけで満足せずにフランス政府・マクロン大統領はさらに経営統合を推し進めることでフランス人の雇用拡大を図ろうとしていたということだ。それだけ自国の雇用政策に心血をそそぐフランスに対し、テレビのコメンテーターが「社会主義的ではないか」と批判していたが、解説の学者は「それは頭に置いておかなければならないことです」とすっと流したのも印象的だった。日本人にとって「社会主義政策」は過去の遺物としてバカにされているけれども、欧米では決してそうではないわけで、日本人の、特に新自由主義者がいかに雇用政策を軽視しているかが現れた発言だったと思う。
つまりマクロン大統領は、ルノーやゴーン氏を通して日本の労働者や日本企業の犠牲のもとにフランス国民の福祉を増進させようと図っているわけで、まさに新しい形の帝国主義であり、また社会主義でもあるということが言えるのではないか。しかしそれは、そうまでして自国の労働者の雇用を守り雇用を創出しようとする政治指導者がいるということを羨ましいと思う人も日本には多いのではないかとも思う。また、帝国主義と社会主義というと相反するように思われるかもしれないが、もともとセシル・ローズという代表的な帝国主義者が「労働者の荒々しい主張を聞いて、帝国主義の必要性を痛感した」と言っているように、もともと親和性は高く、またそれはソ連や中国が実質的な帝国主義国であることからもわかる。
この問題はどこに行くかわからないが、日本の産業界・労働市場だけでなく、日本という国のあり方にも大きな影響を与える可能性も出てきているように思う。
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