「限界の現代史」:国連はどういう場か/冷戦崩壊後に新しい秩序は作られなかった
Posted at 18/11/01 PermaLink» Tweet
ウィークデーはなかなか落ち着いて根本から考え、それを書く時間がないので、読んでいる本について書くことが多くなるかもしれない。今朝も今読んでいる内藤正典さん「限界の現代史」で印象に残ったこと。第3章を中心に。
まず国連とは何かということ。国連の構成員は各国の代表団と、事務局と、「個人の専門家たち」だと。つまり個人の専門家が集まって行われる特別報告(人権理事会などで行われている)は個人の専門家の資格で行われているもので、国連総体の見解の発表ではないということ。そういう意味では学会発表みたいなもので、こういう発表があったからといって学会が非難されるということがあまり妥当でないように、異論があったら日本の国連大使等がその発表された場で反論すればいいとのこと。
この辺り、日本では国連が水戸黄門の印籠のように扱われていて、国連でこういう発表があったから絶対的な権威だ、というような報道が多いが、それはミスリードであるということ。あくまで国連という場で行われた専門家個人の責任で行われた発表なのだということをもっと報道の側も周知するべきであると思った。
2016年当時のシリア内戦の停戦の枠組みをまとめたのは国連ではなくトルコ・ロシア・イランの3カ国であったというのは、国連がすでに調停能力を失っているからで、それはアサド政権が化学兵器の使用を認めない以上ロシアはそれを口実に安保理でシリアを支持することができ、そうすれば拒否権を行使して制裁決議を否決できるからだと。つまり嘘をつき続けることがシリアにとって賢明であると。またロシアがアサド政権を支持し続けるのは中東の基地として使える場所がシリアしかないので安全保障上シリアを敵に回せないことが大きいと。この辺りは北朝鮮を奪われるわけにはいかないから支持し続ける中国と同じで、独裁政権の勝手な行動に手を焼きながらも支持をやめるわけにはいかないと。むしろシリアや北朝鮮によってロシアや中国は振り回されているのであって、冷戦構造の残存と見るのは妥当でないと。
またイスラエルはホロコーストの歴史から化学兵器を深刻な問題と受け止めていて、シリアで化学兵器が使われていることには神経を尖らせていると。アメリカが2017年に初めて政府軍施設にミサイルを撃ち込んだのは半ば公然とアサド政権が化学兵器を使ったことをイスラエルへの深刻な脅威とみなし、それを取り除く目的で行われたと。人道目的ではないと。
つまり米露が冷戦構造的な社会主義の大義とか人道主義・自由主義の立場での軍事介入というのは完全なアウトオブデートであって、それぞれが現実的な実利を追求しての介入なのだということを内藤さんは何度も強調しておられる。
また2017年に来日したトルコの前首相が講演で述べたという「第一次世界大戦後の世界は国際連盟、第二次世界大戦後は国際連合という秩序の枠組みを作ったが、冷戦の崩壊後はそれに変わる秩序の枠組みがつくられなかった」という指摘はその通りだと思った。恐らくは国際連合という枠組みの有効性がまだ期限切れにはなっていないと考えられたからだろうが、結局は五大国協調で世界の平和を守るという理念は機能しなくなり、拒否権はその国の特権化して、その一つに独裁国家が支持を受けたら何をやっても安保理は非難決議もできないという状態になってしまっているというのはその通りだと思った。
冷戦の崩壊後は歴史の終わりなどと言われたように自由民主主義が世界を支配し軍事的にはアメリカ一強支配によってある意味安定する、という見解が主流を占め、その「パクス=アメリカーナ」的な楽観的な見方に支配されることで新たな世界秩序づくりが行われなかっただけでなく、ハンチントンの「文明の衝突」論の影響で共産主義に代わる新たな敵としてイスラムが出てきたという、秩序は作られなかったが新たな対立構造の設定は行われたという指摘は確かになあと思う。それを指摘したのがトルコの政治家であったというのも、イスラムの側から見ればそれがよく見えたということなのだなと思う。
まだ途中だけれども、「復讐のサイクルからは破壊しか生まれない」という指摘は全くその通りだと思った。
この後、いかに報復の連鎖を終わらせ平和を回復するか、という重要な議論が続くのだが、そのあたりはまだしっかり読んでいないのでまた後で。
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