内藤正典「限界の現代史」を読んでいる
Posted at 18/10/31 PermaLink» Tweet
内藤正典さん「限界の現代史 イスラームが破壊する欺瞞の世界秩序」読んでる。
とりあえず第2章まで読み終わったのだが、大事だと思ったことをいくつかメモしておく。
80年代にもてはやされた多文化主義(multiculturalism)だが、重大な問題があったという指摘。同化主義に比べてより少数者を尊重していると考えられていたわけだが、それは返って他者に対する無関心を生んだと。特にオランダの場合、911によってテロリズムへの恐怖と見知らぬ隣人であるイスラームへの不安が合体して、一気にヘイト犯罪が増えたとのこと。交流と口で言うのはたやすいが、疎遠に無関心になるとそれは無知になり不信を生む。私もどちらかといえば多文化主義を正しいと思っていたので、その落とし穴の指摘は考えさせられた。
ナチスドイツはユダヤ人などの排除を行なったが、逆に「アーリア人種」と認めた人々には「強制同化」を要求したと。具体的にどこの国かわからなかったがオランダとかオーストリアとかだろうか。ナチスが「同化」を強制したと言う認識はあまりなかったので目を開かされた。
フランスの世俗主義(laïcité)の問題。これは「共和国」とカトリック教会との対立の中で、宗教を個人の内面に限り、公の場や公教育から宗教を追放したことから来ているわけだが、イスラム教徒の増加によってそのlaïcitéが再び危機に瀕していると言う認識がある。それがシャルリ・エヴド襲撃事件とその反応につながった。日本では宗教的信条から、例えば剣道などはできない、と主張することはできる(ようになった)けれども、フランスでは個人の側から公(行政)に対して「これはできない」と主張することはできないのだと。スカーフ着用の禁止などがフランスで問題になっているが、これは公の決定であれば個人は従わなければならないと。laïcitéの強制力の強さは少し意外だった。
メルケルのドイツはなぜ大量の難民・移民を受け入れると表明したか。これは「ドイツ連邦共和国基本法第16条のa」に「政治的迫害を受けている人は庇護権を有する」とあるからだと。それだけだとあまりピンとこないけれども、これはいわば日本国憲法における第9条=平和主義(侵略戦争の放棄)に当たるもので、ナチスドイツのユダヤ人迫害への反省から生まれたものであり、つまり「ドイツ国家が守らなければならない約束」であるという前提がある、と言われるとなるほどと思う。
ドイツが、またEUがこのキャパを超える多数の難民を受け入れるべきだったかどうかというのは難しいにしても、拒否できない事情がドイツの側にはあったということなのだろう。
多文化主義、世俗主義、迫害されている者の庇護、という、それ自体としてはプラスの価値と考えられるものがヨーロッパにおける経済的な労働力の必要性(経済優先主義)や構造的な原因を持つイスラム過激派のテロリズム、また過去のヨーロッパが中東に無理に領域国民国家を形成させたことによる矛盾からきたシリア内戦などによる多数の難民の発生などに直面し、返って大きな問題を生む、あるいは問題を大きくすることにつながっていることは知っておいた方が良いと思った。
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