変化を進める人と変化を受け付けない人が共存すること

Posted at 18/10/29

歴史をなぜ学ぶかというと、今の世界がどのようにできてきたか、その成り立ちを知るために学ぶわけだけど、一度それがある種の物語として成立すると、その物語に対する愛が生まれて、その成り立ちに異論が、つまり歴史学の進歩によって新説が出てくると、物語に対する愛から親切に対する拒否反応が生まれるようになる。

歴史における物語というのは、日本なら日本がどういう国かという自分たちの国民意識に対するアイデンティティに関わる問題なので、新しい説から考えるとそういう国ではなかったと言われても、そう簡単にはいそうですかと受け入れられないこともある。そのレベルの深刻さについてはかなり重要な問題だと思う。日本においては聖徳太子をめぐる問題などがそうだろうし、韓国においては朝鮮総督府支配下の経済発展なども受け入れ難いものであるだろう。フィンランドやアイルランドなどでも19世紀に一度国民的な建国神話が成立し受け入れられると、それを否定するような歴史研究成果はなかなか受け入れられない。また西欧文化がギリシャローマの文化を受け継いでいるという観念の強さは、それを否定的に見る現在の歴史学的な傾向に対し、拒否感はあるだろうと思う。

それはそういうことで仕方のないことだと思うのだが、例えば日本の歴史の場合はもっと微細なところにもあって、戦国大名に対するイメージが過去に成立したもの、例えば頼山陽の日本外史以来の講談的なイメージでできたものから司馬遼太郎の小説や彼の表明した歴史観・人物像などを現実的なものと考える傾向は一般にはかなり強くあって、またそういうイメージが現代の町おこしや観光資源などとしての活用にもつながるだけに、史学研究の最新成果が返って受け入れられないということもよくあることのようだ。

この辺りのことは歴史学の立場から言えば最新の歴史研究成果を啓蒙していくしかないわけだけど、しかし歴史学の側だってさらに新しい研究の結果また違うことが見えてきたりするわけで、結果的に啓蒙した内容が間違っていた、ということだって常に起こることであるわけだ。

例えばこういうことは医学などの問題ではよくあることで、以前は病気の予防のためにはこうするべきだ、とされていたことがいつの間にかそれをやっても意味がない、ないしはやってはいけないことになってしまうなど、そうした常識の側面さえも変わってしまうこともよくあるわけで、例えば反ワクチン運動やヴィーガニズムなど、医学的・栄養学的に見て正しいとはされない主張も「またいうことが変わるのではないか」と言われてしまえば絶対に変わらないとは言えないところが科学や学問の側の弱いところだと思う。

そういう意味では、科学や学問を受け入れる、あるいは科学的な思考をするということの意味は、今信じていることも科学の進展によっては否定されていく、という可能性をも含めて受け入れなければならないということで、これは人によっては受け入れが難しいという側面はあると思う。

科学や学問の進歩についていけない人だと見なされていた人が、逆に一周回って最先端に立っている、ということだって十分起こり得ることなわけで、そういう意味では結局信じられるものは自分の頭で考えて正しいと思ったこと、と考えるしかないように思えるし、そうなるとそういうことを巡って意見の対立が起こることも致し方がないこととも言えるだろう。

大事なのは結局は新しいことは学ばなければわからないということで、人間は常に知識をアップデートしながら自分にとっての正しさをも更新していく必要があるということではあるのだが、それを受け入れられない人たちもまたいるし、彼らには彼らの正当性があるのだということは認める必要があることは多いということなのだろうと思う。

社会の安定というのはそういうことまで見ないといけないわけだし、ある変化をとても受け入れられないと感じる人が多ければ、それは変化に対して拒否という形で社会が反応し、大きな社会的対立が起こることもまたある。今のように変化の激しい時代は、当然そういうことは少なくないだろうと思う。

急進的変化を求める人、勢力と漸進的な変化に止めようとする人、変化を一切拒否する人、また変化を拒否する人を断罪する人、ある価値観をめぐりそうした対立が起こることは避けられないことではあるのだけど、その辺りをどう調停していくかがこれからの政治が求められることの要諦なのかもしれないとも思う。

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