おたくがハイカルチャーに優勢な理由/歴史が一度終わった後に
Posted at 18/10/26 PermaLink» Tweet
朝からいろいろ考えていろいろ書いて、ブログに書く文章につなげようと思ったのだがオープンエンドな感じになってしまい、これを読んでもらいたいという感じのものにうまくつなげられていない。
私がここに書くのは自分の問題、日本の問題、世界の問題と要約すれば言えるのだけど、例えば安田純平さんの話とか、今ネット上で問題になってることをそのまま書いてもそういうことに引きずられてしまうしそうなると自分が何を書きたかったのかわからなくなってしまうので、極力そういう形での執筆は避けたいと思っている。
昨日はツイッターで見た文章で80年台のセゾン文化とおたく文化のうち、セゾン文化=ハイカルチャーの方面は衰退し、おたく文化が今や全盛になったのはおたく文化が「生産する文化」だったからだという指摘があって、これは全くその通りだと思った。(こちら)ハイカルチャーの方面はその熱量で完全に負けている。
そしてものづくりのパワーといえばもう一つはいうまでもなくアメリカ発のITテクノロジーがあって、現代の文化シーンはこの二つの「ものづくり精神」のパワーに制圧されつつあるように思う。
「記号を消費し批評する文化」であったセゾン文化はともかく、ハイカルチャーというものは精神性に忠実という特徴があると思うが、ものづくり精神の方は精神性というより、ITテクノロジーは利便性に忠実であり、おたく文化の方は自らの欲望に忠実であるという特徴があるように思う。
おたく文化というものは、対象を愛し、自らの欲望をそこに注ぎ込み、その対象自体を知ることに力を尽くすが、それが「どう生きるか」「世界はどのようにあるべきか」といった倫理性には向かわない。おそらくは同じことをしていても、それが精神の作用であると認識しているか直接的な欲望の作用であるとしか見ていないか、がハイカルチャーとおたくを分けるものなのではないか。
しかしおたく的な欲望の解放、またITテクノロジー、いやそれだけでなく医療革命などの進展にもよる大きくいえば利便性の向上の向上が、この伝統的な倫理性を揺るがしている、歪めている面があるようにも思う。
フェミニズムが本来女性の生き方を見直すことで人間の生き方全般を見直すことにつながる倫理性の高い、つまりはハイカルチャーの産物であったはずだが、現今の論争を見ていると現代のコンテクストの中でその運動の方向が妙に畸形化しつつあるようにも見える。
これはフェミニズムがある意味現代で突出した思想であるから特に目立つことの一つではあると思うが、リベラルも保守もラジカル左右も、自分の精神性にその思想の根拠を置くことに自信を失っている、ないしは自信を見出せないでいるように思われる。思想家は自分の発言に閉じこもり、運動家は他からの声に耳を塞いで過激な行動を繰り返す。自信を持ったおおらかな姿であるとはとても言えないだろう。
だから、あえて普通の意味での精神性を捨てた(ように見える)おたくやITテクノロジーの担い手やその実業家が多く属しているように思われる新自由主義者たち、またネトウヨや暴力デモ左翼などに「権威ある」リベラルや保守が追いまくられる感じになっているのだろう。
一つには、「歴史の終わり」論が主張したように現代民主主義国家では飢饉や貧困、暴力や戦争や対立が解消されたから、ということはあるだろう。もちろん、それは例えば18世紀と比べて、というような話で21世紀になってまた新たな形でそうしたものが現れてきてはいるのだが、冷戦終結を一つの頂点として「人類の理想」が実現化した過程の中では、「人類の理想」についてある程度の合意が成り立ち得たと思う。しかしそれが一度実現して、緊張感が失われた後、「大きな物語」の大団円の後で無数の小さな紛争が始まった。そして日本では数々の災害が、世界では戦争が、あるいはテロがと理想が実現したはずの世界で「逆方向のベクトル」が強く働き出している。まさに「逆コース」とはこのことだろう。
つまり倫理性を掲げたハイカルチャーが一度理想を実現した後、それが変質していってもハイカルチャーの精神性の中にその変質を止めるだけの理念が生まれ出てないので力を失っている、ということなのだろう。
世界的に見れば腐っても鯛というかヨーロッパ世界でのハイカルチャーや中国の大国の伝統の圧力、イスラム世界の原点回帰力などはしぶとく生きているのだが、アメリカは二つのアメリカに分裂しようとしているし、日本は欲望と利便性の文化にどんどん推進されて大学入試改革を始め何を目指すのかという精神性が顧みられていない迷走状態に入っているように思う。安倍政権が一見うまくいっているように見えるのはこの神輿にうまく乗っているからなのだけど、いつまでもそれでいけるとはあまり多くの人は思っていないのではないか。
先が見えない、というのは先が予測しにくい、ということでもあるけれども、個人が、日本が、そして世界が何を目指せばいいのかということを見失っているということでもあると思う。
先を示す新しい思想が思想同士の闘争の中から生まれてくるのか、あるいはそれらの思想対立を乗り越えて、あるいは止揚して新しい思想が現れるのか、それはわからないけれども、このグローバルと言われる世界の中で、多くの人々に共感を得ることができる新しい思想が必要なのだろう。
今までは例えばヨーロッパの中で、あるいは先進国の中で、その範囲で共感を得ればよかったものが、ネットで直接世界が世界につながっている現在は、世界の津々浦々に共感を呼び起こせるような思想でなければならず、ハードルはかなり上がっているのだと思う。
それにしても、世界の誰もが賛成と言える最低限の理想、みたいなものが一つずつ見出せていけると良いとは思うのだが。
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