『食戟のソーマ』OPの工夫/「リベラルな価値観」に伴う痛みと伴わない経済的メリット(「そろそろ左派は経済を語ろう」を読んで)
Posted at 18/07/02 PermaLink» Tweet
なんとなく『食戟のソーマ 餐ノ皿 遠月列車編』を録画で見ていたのだが、OPの最後のソーマが雪の中に立っている場面、第1話(餐ノ皿全体では第13話)ではソーマが一人だけで立っているのに気がついて、何話か見直してみたら少しずつ立っている人数が増えている、だんだん仲間が増えているという演出になっていることに気付いた。
アニメのOPやEDでは時々そういう工夫があって、『食戟のソーマ』では以前も弐ノ皿のときEDで貞塚ナオがフィーチャーされていて黒魔術的な絵柄になっていたが、新戸緋沙子に破れて貞塚ナオ(白)になった回では純白の演出になっていて面白かった。この作品はこういうちょっとしたところで気を利かせられる余地があるような構造になっているからで、そこがこの作品の長期的な人気の一つの秘密ではないかと思った。
『そろそろ左派は<経済>を語ろう』。なかなか一気に読み切れないが、第3章~第4章を読んでいて気がついたこと、思ったこと。
「左派が経済的下部構造を軽視するあまり、人々をリベラルな価値から遠ざけてしまった」という指摘。これは確かで、経済的に不満や不安を抱える人たちがまず第一に求めるのは個人個人の経済問題の解決、端的に言えば雇用の問題であって、若者にとって言えば就職ということになる。今の民主党系統の政党の取り組みを見ていても、たとえば奨学金問題に対する取り組みとたとえば平和問題系に対する取り組みのどちらに熱心さを感じるかと言えば圧倒的に後者だろう。彼ら自身の価値観の中心が人権や平和の方に傾いていることは確かで、経済問題に対する取り組みに本気度が感じられない。そうなると彼ら自身が信用されないし、ひいては彼らが大事にする「リベラルな価値観」に対しても胡散臭さを伴って感じられる、という不幸なことになってしまう。
それからもう一つ思ったのは、左派系の運動が経済問題重視から「リベラルな価値観」重視の方にシフトしていったのは、左派運動内部での方向転換からきているということ。
左派は自分たちの内部の変化は重要なことだととらえていて、たとえば共産党の武装闘争放棄と新左翼過激派の分派、運動の過激化と後退のようなことを重大視しているけれども、それは一般の人々から見れば結構どうでもいいことだということが分かってないということ。
たとえば、左派運動の中でマイノリティが重視されるようになったきっかけに「華青闘告発」(1970)というのがあったということは外山恒一さんの著書で知ったのだが、そのことがこの本でも取り上げられている。つまり新左翼運動内部での日本人中心主義を在日中国人グループに強く糾弾され、参加してなかった革マル派以外が自己批判してマイノリティ運動にシフトしたという出来事があった。また、新左翼運動を描いたマンガや小説作品にもよく出てくるが、理論家や運動の中心となる割とイケメンの男性にぴったりとかいがいしく内助の功を尽くす女性、見たいなものが描かれたり肯定的に描かれていたのが、フェミニズム的な批判によってそれらが覆されていった、ということもある。
つまりそうした現代のリベラルな価値観というものが運動内部で勢いを得て行ったという部分があり、運動内部では検討・議論されてはいたもののそれが一般社会に向かった時、どちらかと言えば「突然現れた新しい考えが有無を言わさずに押し付けられている」という印象を与えたことは否めないだろうと思った。
そうしたリベラルな価値観は伝統的な価値観に対し異議を申し立てるものであるけれども、それ自体に経済的な効能が伴うわけではなく、むしろ闘争に巻き込む側面があるものだから、そうしたものは常に社会の懸念や軽い拒絶感を伴わざるを得ないものであるにもかかわらず、普遍的なものであるという一方的な主張によって社会の意に反して押し付けられたという感覚が残る部分があったのだろうと思ったのだった。
つまり、リベラルの目指す未来が本当に良いものであるならば、おそらくはそれを実行することが多くの人にとって経済的利益をも伴う形で実現させるという方向が必要なのだが、そのことについてリベラルや左派はきわめて無頓着であり、それはつまり彼ら自身は経済的に問題を感じてないからだとみなされ、自分たちの味方ではないと考えられることにつながるということだ。
保守の側の方がそのあたりはもともと巧みなので、このままではいつまでたっても保守政権は覆らないということになりそうだが。
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