鴻上尚史「不死身の特攻兵」を読んだ:特攻という「劇場型戦術」とマスコミの不可分の関係
Posted at 18/01/16 PermaLink» Tweet
鴻上尚史「不死身の特攻兵」を読んだ:特攻という「劇場型戦術」とマスコミの不可分の関係
鴻上尚史「不死身の特攻兵」(講談社現代新書、2017)を読んだ。最近なかなか新書クラスの本を一気に読むということは難しい感じなのだが、この本に関しては一気に読んだ。
正確にいうと、鴻上さん自身が特攻について考察した第4章「特効の実像」に関してはやや「よくある」という印象を持ってしまったので飛ばし読みをした部分もあるのだが、この本の主人公である佐々木友次伍長のくだり、戦争の描写、将校や司令官たちの描写、佐々木さんのインタビューなどに関してはどんどん読んでしまった。
特攻に出撃して生還した人たちがいるということは知っていたが、佐々木伍長のように9回出撃したが体当たりは拒否し、うち2回は敵艦に大きな損害を与え、二度戦死の報告が天皇にまで上奏された、という人のことは初めて知った。それが陸軍の最初の特攻であった万朶隊の一員であったというのも驚いたが、佐々木伍長は元々は逓信省で採用されたパイロットであり操縦技術に強い自信を持っていたため、攻撃の成功率が下がるのに生還できない特攻攻撃に強い拒否感を持っていた、というのはとても納得できた。
読んでいると結局は「特攻」という軍隊の攻撃方法としてあってはならない戦法がとられたのは、現場というよりは戦場の現実をあまり知らない上層部の計画と実行によるところが大きかったのだなと思う。
大東亜戦争という戦争自体にかなり大きな問題があった、つまり終戦戦略(出口戦略)が稚拙だったということは重大だと思う(日露戦争は最初からアメリカに講和の仲介を依頼するビジョンがあった)のだが、戦争を始めた人たちというより戦争を遂行するレベルの人たちにとっては、どうやって戦争を継続するか自体が最大の課題となっていたのだなと思う。そして問題は、戦争を始めたり終わらせたりするレベル(政治的に最高レベル)の人たちよりも戦争を遂行する軍の上層部レベルの方が政治的により大きな発言力を持ってしまったため、終わりなき戦争が継続するという悲惨な状態になってしまったのだろう。
終わらせることができるのは天皇だけ、ということは国としてかなり悲惨な状態だと思うが、それでもまだ天皇がいたから終わらせることができたというのは不幸中の幸いで、普仏戦争のように皇帝が捕虜になってしまったりヒトラーのように死んだりしてしまったら交渉自体が成り立たず、終わることさえできなくなった可能性もあったかもしれない。そういう悲惨な状態になったのが沖縄なのだと思うが、日本中が沖縄のような状態になったかもしれないということだろう。
それはともかく、特攻のような戦法がなぜ取られたのか今までよく意味がわからなかったのだけど、要は「戦争継続のために国民の士気を盛り上げるイベント」として行われたのではないかとこの本を読んで思った。一命を投げ打ち一撃必殺で敵艦を沈没させ、多大な損害を相手に与えて不屈の闘志を示す、というのは当時の日本人にとってはまさに一縷の希望だっただろうと思う。
そんな戦術は実際面においては現場を知っている将兵にとっては絵に描いた餅だっただろうけど、だからこそ多大な影響力と有無を言わさぬ巨大な信仰的圧力になって特攻兵たちを拘束したのだろうと思う。
合理的に考えられることを全てやり尽くした後で一撃必殺、起死回生の手を打つということはまだわからなくないけど、特攻が計画され実行された段階(フィリピン戦の段階)では、読んでいる限りではまだやれることはいくらでもあったのではないかと思う。また沖縄戦の段階になると敗色が濃厚な中で、部隊による降伏を認めなかったことの誤りがより大きく感じられるが、そこはまだ自分にはよくわからない部分が多い。
まさに佐々木伍長の場合は高い航空操縦技術で敵艦に的確に損害を与え、その上で生還することは十分できると自負していたわけだし、もちろん同様の飛行機乗りはたくさんいただろうから、戦争を遂行する「だけ」の観点からいえば特攻は無意味だったが、国民の士気向上に関してはおそらく多大な効果をあげたのだろう。そして、その「統帥の外道」による士気向上の効果が麻薬のように司令部に蔓延してしまい、やめられなくなってしまったのだろうなと思う。
最大の問題はトップレベルでの戦争と外交をめぐる能力の低さにあったことは間違いないが、次の問題は戦争遂行に際しておそらくは手当たり次第にやれることは全部やってしまい、その中で「特攻」という常道を外した戦術に頼ってしまったことは、作戦立案・実行能力においてもかなり問題があったことは間違いないだろうと思う。
つまりは「身の丈に合わない戦争」をしてしまった、といえばいいのだろうか。
これも少し考えただけのことだけど、なぜ日本はそんな戦争をしたのかというと、つまりは「資本主義の発達した都会」と「貧しく立ち遅れた田舎」の社会矛盾が極端に大きくなり、一つの国の中で同じ方向を向いていられなくなりつつあった、ということが大きいのではないかと思った。まあこれはレーニンの「帝国主義論」的な考え方なんだろうな。
まあその考察はこの本の感想の範囲を超えるからこれくらいにしておくけど、「特攻」という戦術は、その戦果を大々的に国民に宣伝するマスコミの存在なくしては成り立たないいわば「劇場型戦術」だったのではないか、というのが今回読んでの「特攻という戦術」に対する理解の獲得だと思う。
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