『進撃の巨人』第101話「戦鎚」を読んだ。
Posted at 18/01/10 PermaLink» Tweet
物語は終盤に差し掛かっている、とおもわれる。
壁の中=エレンの物語が22巻で「海」に到達し一つの区切りを迎えた後、新たに始まったマーレ・エルディア編ももう11話目。22巻ラストの「向こうにいる敵全部殺せば、俺たち、自由になれるのか?」という問いかけで始まったと思われるラストの物語、なのだと思いながら読んでいる。
「敵」マーレに支配されるエルディアの収容区で行われたタイバー家による壁内の人類に対する宣戦布告の舞台の過程で、エルディアをマーレに支配させたのはタイバー家であり、タイバー家こそが真の支配者であると明らかにされるが、舞台で宣戦布告を告げた瞬間にヴィリー・タイバーは満を辞して登場したエレン=進撃の巨人によって瞬殺されてしまう。
「敵は誰だ?」という問いはこの物語の最初から付いて回っている。「敵は巨人」という明確なものがあるように見えてはいたが、いったい「巨人」とは何なのか、ということがわからない以上、敵の正体も本当にはずっとわからないままだった。
ライナーやベルトルトの「裏切り」というか「騙し」が明らかになり、ライナーたちを動かすものたちが真の敵らしい、ということは徐々に明らかになってきていた。
しかし「グリシャの地下室の秘密」が明らかになることで物語世界は思いがけない巨大なものになり、真の新たな敵が認識されたわけだが、このところの展開でさらにその敵すらよくわからなくなっている。
その中で民間人の居住区で突然暴れ出した主人公。一体どうなるのか固唾を飲んだところで先月は終わりだった。
そして今月。今月はまさにダークファンタジーというにふさわしく、マーレ編の舞台に適応してきた読者に衝撃を与える展開だった。
エレンは蹂躙する。ヴィリーを瞬殺し、マーレの軍幹部(無能連)を全滅させ、住民や観客席の多くの各国代表や民間人をなぎ倒して行く。巨人継承候補生のガビは辛くもコルトに救われるが、ゾフィアは上半身が下敷きになり(下半身だけ生々しいこの描写がえぐい)助かったはずのウドは逃げ惑う各国要人によって踏み潰されてしまう。(逃げる巨大な黒人の蹴りが入るこの描写もえぐい)圧倒的なエレン=進撃の巨人、蹂躙される人々。それを驚愕したまま目を見開いて見ているガビ。そしてポルコとピークを連れ出したらしき長身の兵も下敷きになっている。
一方負傷したものの生き残っていたメイド服の女性が実はヴィリーの妹。そして彼女が「戦鎚の巨人」の継承者だった。戦鎚の巨人の登場場面はとてもかっこいいのだが、次のページでまだ変身途中なのにいきなりエレンにタコ殴りにされる。
この辺りの「進撃の巨人」の暴れぶりは今まで見てきたエレンの戦いぶりとは全く違う。22巻までのエレンは、どちらかというと抑制的に戦っていた。未知の相手に対して戦い方を探りながら、また周りを極力破壊しないように戦う姿勢がありありだった。それは三人組や獣の巨人の戦い方とは全く違っていた。しかし今回のエレンは違う。もちろん敵地だからある意味当然なんだろうけれども、破壊のための破壊。エレン、どうしちゃったの、と思った読者も多かったのではないか。
ヴィリーやマーレ軍の幹部たちが死んだ後対応を一手に引き受けることになったのはマガトなのだが、彼はまずはるか遠くからエレンに向かって小銃を打ち込む(多分届いてない)。「マーレ軍反撃の口火は今を持って切られた」というのだが、今書いていてこれは諫山創さん流のギャグではないかという気がしてきた。こういうアリバイ的なこと言う奴っているんだよな。
しかしこれはギャグにとどまらず、劇場の真ん中から突然鍾乳洞の筍石みたいなのが伸びてきてエレンを貫いた。持ち上げられたエレンが宙吊りになる中、「戦鎚の巨人」はようやく変身の過程を進めることができた。
しかしこの石筍もよくわからない。これは戦鎚の巨人の能力なのか、マガトたちの仕掛けなのか。いちおう後者だと私は解釈したのだが、硬質化は多くの巨人が持つ力なので、少し離れた地面から石筍を生やす能力もあるのかもしれない。
絶望した表情でファルコを探すコルトとガビたち。彼らにはまだ巨人化能力はない。一方地下に閉じ込められたポルコとピークがパンツァー隊に救出される。穴から這い上がったピークに四方八方から手が伸びるところも例によってギャグなのだが、戦闘準備を整えようとするポルコ(顎の巨人)とピーク(車力の巨人)の頭上を飛び交う人の群れ・・・
立・体・機・動・装・置だ!
この混沌とした状況の中に調査兵団(というか壁内勢力というべきか)まで現れたのだ!
調査兵団を見たことのないポルコはあっけにとられるが、シガンシナ区での戦いで彼らを相手に戦い済みのピークの「まさか・・・そんなわけが・・・」と言う絶望を通り越して呆然とした顔がすごい。
相変わらず石筍が突き刺さったままのエレンに対し、戦闘態勢を整えた「戦鎚の巨人」がかっこいい。巨大な戦鎚(War Hummer)を振り回す戦鎚の巨人に、エレンはようやく石筍を折って逃れるが、戦鎚の攻撃範囲は広い。鎖鎌みたいだ。
「始祖を殺してしまう」と言う兵にマガトは「今後は巨人の力に頼らない。それがマーレの新たな国是だ。命令通りエレン・イェーガーはこの場で仕留める」と言う。それがタイバー公・ヴィリーとの取り決めだったようだ。そして戦鎚の巨人もエレンを食うつもりはないようだ、とマガトはいう。そして戦鎚は硬化した腕越しに「進撃の巨人」の頭を破壊した。
うなじから現れたエレンに対し、戦鎚の巨人は「簒奪者エレン・イェーガー。最期に言い残すことはありますか」という。この場面はなんだかすごいが、これに対してエレンがいう言葉の方がもっとすごかった。
「今だ ミカサ」
すでに雷槍を6本携えたミカサが背後から戦鎚のうなじに迫り、破壊に成功したようだ。それを見てあっけにとられたマガトの背後から調査兵団らしき人影。そして次々とマーレ兵を倒していくジャンらしき影。
エレンの横に立ったのは黒づくめ、忍者のような兵装のショートカットのミカサ。これはかっこいい。
そしてミカサの最後の言葉がまた謎を呼ぶ。
「エレン・・・お願い。帰ってきて」と。
もともと圧倒的な巨人の力の前に、巨大な絶望が支配する救いの見えないストーリーだったけれども、唯一エレンの「巨人を駆逐してやる!」という意思のみがこの物語の希望と言えば希望だった。そしてめでたく巨人は駆逐されたわけだが、途中からややこしくなってきた人対人の物語はついに本来の主人公たる壁内勢力、特にエレン・イェーガーと、マーレ・エルディアを含む全世界という大戦争に発展しそうな兆しを見せている。
しかしミカサがエレンに言った言葉が、いったい何を意味するのか。エレンのみが単独で戦っているのか、それともこれも大きな作戦の一環なのか。
この数年間、壁内で何が起きたのか全く白紙なので、なぜこんな戦争になったのか全く分からず、闇が深い。
ハッピーエンドにはならないだろうけど、かと言ってどんな物語なのか、いまでもほとんどよくわからない。とにかくラストまで読み切りたいと思う。
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