アニメが終わったので「宝石の国」最新話まで読み、感想を書く。
Posted at 17/12/25 PermaLink» Tweet
10月から始まった秋アニメ、ほとんどの作品が最終回を迎えた。私が見ているのでまだ続いているのは「ブラッククローバー」だけだが、これはいつまでやるのだろう。
私が見ていたのは夏に引き続いての「ボールルームへようこそ」、「干物妹うまるちゃんR」、「ブラッククローバー」、「食戟のソーマ 餐ノ皿」、そして「宝石の国」。「ボールルーム」は2クール目は少し絵が荒れたような印象があった。緋山千夏の演技そのものはとても良かったし、原作が休載しがちな中、頑張ったという印象はあるが、夏ほどのインパクトは残念ながらなかった、という感じ。また原作が溜まってから二期があれば見たいとは思うけれども。
で、今季のベストワンは何と言っても「宝石の国」だった。この作品は「月刊アフタヌーン」に連載されているのは知っていたが、市川春子さんの作品が少し苦手だということもあり、読めていなかった。しかしアニメでは最初からとても美しく、また声優さんの声がつくことでキャラクターが立体化され、またほとんど3DCGで作られるというその工程が思ったよりずっとこの作品にあっていて、奇跡のように美しい作品になったのではないかと思う。
作品自体は、実は鬱展開で、その辺りは初期の「シドニアの騎士」やいまなおそうである「進撃の巨人」を思わせる部分があるのだが、その美しさによって「疑惑までもが美しい」という感じになっていた。
アニメは原作の5巻の途中まで、終わり方は最後にシンシャを持って来るために少し展開と構造をいじってはあるが、基本的に原作に忠実に作られている。最後に先生に対する疑惑が芽生えるところで終わるサスペンス落ち。これは最近時々ある展開で、基本的には続きを、二期を制作するという予告のようなものではないかと思う。
最初はアニメの世界に入っていけるかやや緊張して見ていたのだが、毎週見ていくうちにどんどんハマってきて、原作も読んで見ようという気になった。しかしアニメから入っているのでアニメ優先の原則を貫き、アニメが終わるまでは原作の先の部分を読まないようにしていた。
というわけで、23日のアニメ最終回終了ののち、5巻の途中から読み始めて単行本が出ている8巻まで読破し、その続きをKindleでアフタヌーン1月号をDLして読んで、先ほど2月号を買ってきて連載で掲載されているところを全て読み終わった。
アニメの中でも主人公・フォスフォフィライトは足を失って貝殻を足にして急に足が速くなり、腕を失って白金と金の合金を腕にして特殊能力を得ているが、そのさきはネタバレになるのでアニメ派の人はここまでにしたほうがいいかもしれないが、今度は頭を失ってなんと頭だけ残されていたラピス・ラズリの頭部を接着し、100年の眠りののち、復活するという、とんでもない展開になる。フォスは今度はラピスの能力もまた使えるようになるわけで、本当にフォスはどんどん、失うことによって進化していく。
そしてフォスの中に芽生えた「先生に対する疑惑」は、それを部分的に共有する宝石たちによってさらに駆り立てられ、ついには自ら月に乗り込んでいくということになる。そして月で見たもの、知ったことは、予想とは全く違うものだった。
この後のことはまだ自分の中でネタバレ感が強いので書かないけれども、この先の展開は疑惑と関係性の破壊を伴っていくために、読んでいて辛くなる、落ち込む人も多いのではないかと思う。
だからこの辺りはいろいろな文学作品を思い出させるのだが、例えば蝿の王とかが近いのかもしれない。フォスは、本当のことを知りたい。それは根本的にいえば、何かを「信じたい」からだろう。
「信じたいために疑い続ける 自由への長い旅を今日も 自由への長い旅を一人」と歌ったのは岡林信康だが、フォスのやっていることは「信じたいために 破壊し続ける」という感じの身を切るような切なさであり、でもおそらくその絶望の深さが、今日においてはより共感されるのではないかという気がする。
というか、私自身はフォスの気持ちがよくわかる、気がした。こうしたらこうなってしまうだろうということはわかってもそうせざるを得ない。思ったより変わらないこともあるし思ったより傷が深くなることもある。いいと思って行動して、ついてくる人がいても、深いところを打ち明ければ打ち明けるほど、ついてこれない人が増える。
それからもう一つ、フォスの体がどんどん入れ替わっていること。別役実に「木に花咲く」という戯曲があって、この中で鬼たちが男の体をちぎっては死体の体を継ぎ合わせていくというインドの話(だったかな)が出てきて、この話は全てが入れ替わった後、「だれかが一人いました」というオチなのだが、一体それは誰なんだ、という。月から帰ってきたフォスに疑いの目を向けたユークが「あれは本当にフォスなの?」という場面、読んでる方は当然そうだと思って読んでるのに、そう言われてみると本当にフォスなんだろうか、と思ってしまうところが怖い。
こんな現象は非現実的だと思うかもしれないが、人間も「やりたいこと」があって仕事について、夢を実現しようと頑張っているうち、現実にいろいろなものに触れ、妥協し、考えを変えたり周りに影響を受けたりしているうちに、最初に思っていたことと全然違うことをやっていることなど珍しくないと思う。そう考えてみると、そんな風に変わってしまった自分は、心の中が入れ替わってしまった自分は、本当の自分なんだろうか、という問いにもつながっていくように思う。
この物語の問いかけるところはそんな風にとても深く、怖いところがあってどこに引きずり込まれてしまうのかわからない感じがある。しかしそれもまたある種の例えようもない美しさとともにあって、この作品の怖さと美しさを何度も反芻してしまう、そんな作品なんだと思った。
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