今心に響く本/「上宮聖徳法王帝説」
Posted at 17/09/22 PermaLink» Tweet
今どんな本を読んだら心に響くのだろう、というのは最近いつも考えていることだ。昔はどんな本を読んでも結構心に響いていたのだけど、最近は本を買っても読まないで放りっぱなしになる、ということがよくある。頭では関心があると思っているジャンルが、実際に取り組もうとしてみると本当はそんなに関心がなかった、ということが多いということなんだろう。逆に、思いがけず熱中して読んでしまう本もあり、本当に関心のあるジャンル、本当に没頭してしまうジャンルは何なんだろうと常に問いかけざるを得なくなっている。
最近読んだ本で結構読めるのは日本史関係の本が多い。以前はあまり原典、つまり日本史の教科書に出てくるような史書に当たっていなかったのだけど、最初に読んで面白いと思ったのが、確か「神皇正統記」だった。これは南北朝時代に南朝の北畠親房が後村上天皇への傅育のために書いた歴史書だが、思ったよりずっと公平に書かれていた。例えば仇敵と言うべき北条氏でも北条泰時の統治や北条時宗の元寇撃退に関してはきちんと評価しているのを読んで、「南朝の正統性を説くために書かれた」と巷間言われていることと必ずしも一致しないと思ったし、批評を読んでもその本の中身はわからないと言うことのある種典型の例だなと言うことに気づき、それから時々原典を読むようになった。
その後読んだ本は「古事記」「日本書紀」「続日本紀」「大鏡」「増鏡」などだが、どれも読む前の思い込みを破ってくれる面があり、やはり読んでみないとわからないなと思った。ただ、「平家物語」や「太平記」などは割と苦手で(現代語や子供向けに翻案したものは子供の頃に読んだが)何もかも読めるわけでもないとは思った。
最近は中世史ブームということもあり、「応仁の乱」や「観応の擾乱」などが売れているが、前者は一応最後まで読了したが後者はまだ途中で、以前「室町の王権」など今谷明さんなどの著作を読んだ時とは少し感覚が違った。「応仁の乱」は史料に完全準拠して書くというスタイルなので、史料の著者目線がどうしても強くなり、あまり歴史的にその著者の立ち位置がよくわからない立場からすると、想像力の拠り所を確立しにくいという側面があると思った。ただ応仁の乱のようなグダグダの展開をする対象を描くには史料著者の視線というものを視線として確立しておくというのが唯一ブレにくい記述方法かもしれないとは思う。
そしてつい数日前に読んだのが大塚ひかり「女系図でみる驚きの日本史」だったのだが、これは「女性と婚姻関係を中心とした系図を書いてみることで歴史の違う側面が見えてくる」という方法的な提案を含んだ一般書で、そのあたりが非常に刺激的だった。
そしてこの書の中でも触れられていたのが聖徳太子だ。聖徳太子については近年「いなかった」説などが出ていることもあり、そうしたやや政治的な面を含む(含まざるを得ない)動きが気になっていたこともあり、気が付いた時に関連書籍を読むようにはしていたのだが、聖徳太子の根本的な伝記である「上宮聖徳法皇帝説」が岩波文庫で出ているのに気づいて、アマゾンで取り寄せて読んでみることにしたのだ。
読み始めてみるとこれは面白い。校注は木簡や金石文の研究で知られる東野治之氏で、その中の指摘にもうなずかされたりなるほどと思ったりするものが多い。
今まで読んだのは45ページまで、この本の分類によるとA太子の系譜とB太子の事績の部分。原文(漢文)で言えばわずか6ページ分なのだが、いちいち色々考えながら読んでいる。聖徳太子は仏教に造詣が深かったことはよく知られているが、自分でも「三経義蔬」など仏教書も著しているだけでなく、推古天皇への講義なども行なっている。推古天皇に講義したのは「勝鬘経」というものだが、これは女性が主人公の経典で釈迦の教えを説いていて、その勝鬘という貴婦人をつまりは推古天皇になぞらえて講義したわけで、まさに「人を見て法を説け」の典型例だなと思えて面白いなと思った。
もう一つそうなのか、と思ったのが「上宮王家」の行く末に関しての校注。よく知られている歴史では、聖徳太子が亡くなり、推古天皇も亡くなった後、皇位は田村皇子と聖徳太子の嫡子・山背大兄王の間で争われたが山背大兄王は行為につくことなく、最終的に蘇我氏に攻められて一族全てが全滅した、わけだが、校注では「上宮王家の全滅ということ自体、伝説の域を出ないであろう」とあり、これもまたそんな説があるのかと驚いた。つまり、上宮王家、聖徳太子の子孫の中にものちの時代まで生き残ったと思われる人がいるということのようで、それは意外な話だった。
聖徳太子や上宮王家に関するあたり、山岸凉子「日出処の天子」やそのスピンオフである「馬屋古王女」などで読んだイメージが強く、王子王女の名前が出てくるたびにその絵柄が思い浮かぶ。もちろんマンガはマンガなのだが、史実で存在した人が描かれているとその人をイメージしやすいのは確かで、それに縛られると不適切なことになるが、それを出発点とするのは悪くはないと思う。
そんな思いもあり、私は史実を扱った歴史マンガは割と好きだ。今連載されているもので言えば例えば灰原薬「応天の門」で在原業平と菅原道真が陰謀渦巻く平安京で問題解決、みたいなものがあり、この辺り面白いなと思っている。
「上宮聖徳法皇帝説」、まだ読みかけだが、まだ色々得るものがありそうに思う。
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