「シオリ・エクスペリエンス」でロックの魂を「体験」した。

Posted at 17/06/07




今、一番はまっていると言えるマンガが、「ビッグガンガン」に連載中の「シオリ・エクスペリエンス」。地味な27歳英語女性教師にジミ・ヘンドリクスの霊が憑き、彼がギターを彼女の首筋のジャックにジャックインすると彼女がジミ・ヘンドリクスそのままのギタープレイをしてしまい、それでギターへの情熱を呼び起こされた彼女が、生徒たちに呼びかけてバンドを結成し、伝説を目指す、という設定なのだが、これが無茶苦茶いい。




もともと「ビッグガンガン」を読み始めたのは「ユーベルブラット」が連載されているからで、その元はネットのどこかで「日本ではあまり知られてないけど世界では売れているマンガ」の1位として上がっているのを見て単行本を探し、まだ連載中だったから雑誌を探して、読んでみたのが最初。他の作品はほとんど読んでなかったのだけど、どの作品も面白そうだなとは思っていた。
「シオリ・エクスペリエンス」は初めて読んだのが06号(5月25日発売)の吹奏楽部の光岡部長の過去の話で、だから最初は吹奏楽マンガだと思って、こういうのも読んだことないけど面白いなあと思いながら(考えて見たら世の中には有名な吹奏楽マンガもあるのだが)読んでたら、実はそうではなくて最初はちょっとがっかりしたのだが、面白そうであることには違いないと思い、6月4日の日曜日に神保町のヴィレヴァンに行った際に書棚に全巻あったのを見て、とりあえず1巻だけ買って読んでみて、はまったのだった。

NANA (1)
矢沢 あい
集英社
2000-05-01



音楽(や音楽を扱った)マンガといえば、今まで読んだ中では「ピアノの森」とか「NANA」とか「どハマり」した作品がいくつもある。それぞれ個性豊かだけど、「シオリ・エクスペリエンス」は読んでてなぜか嗚咽が出て止まらない場面さえあるという、自分の中の何かを覚醒させるような作品だった。
「ピアノの森」もすごく好きで、涙が止まらなくなるような、声を出して泣きたくなるような場面も多々あった。「NANA」はまたちょっと違うが、登場人物のセリフとかに痺れたものが多かった。「NANA」は実在の曲が出てこないからそれで音楽にハマる、というものでもなかったけど、「ピアノの森」にはかなり触発されて、それでショパンはかなり聴いた。

Smells Like Teen Spirit
Nirvana
Universal Import
2000-02-29



今回の「シオリ・エクスペリエンス」はロックミュージックを扱った作品で、これも読みながら出てくる曲をiTunesでダウンロードして、聴きながら読んでいる。ニルヴァーナとか実は今まで聞いてなかったので、初めて意識して聴いてみて、ああこれがロックというものだよなというものを感じさせられた。

ショパン:ポロネーズ集(全7曲)
ルービンシュタイン(アルトゥール)
BMG JAPAN
2007-11-07



その、作品と音楽と自分との関わりの仕方みたいな部分において、「ピアノの森」の場合とは違うな、と思った。「ピアノの森」の時は「作品を理解するためにショパンをきいた」という感じが自分の中では強い。もちろんそれをきっかけに聴いてみてショパンの良さはすごくよくわかったし、多分作品に出てこなければ聴いていなかった「ポロネーズ5番」が一番好きな曲の一つと言えるくらいになったので、作品が自分の現実を動かしたという面もあるのだけど、でもやはり作品世界を理解するために聴いていたという感覚は自分の中では強かった。

しかし、「シオリ・エクスペリエンス」の場合はそれとは違い、この作品を通して初めて「純粋なロックな魂」に触れたような感じさえするのだ。

ロックというのはファッションの問題ではなく、生き方の問題なのだ、ということがこれだけ伝わってくる作品は自分にとっては今までなかった。27歳英語女教師とか、野球部キャプテンとか、オカルト少女とか、吹奏楽部の落ちこぼれとか、そんな今までの概念ではロックと全く関係ないように思われていた(少なくとも自分の中では繋がりがなかった)人たちが、紫織(主人公)の影響を受けてバンドにのめり込んでいく。



 
そしてそれに並行してジミ・ヘンドリクスをはじめとするロックの名曲が取り上げられ、その描写が音楽を聞かずにはいられなくする。そして聴いてみると、その音楽の素晴らしさに震える。

なんというか、この作品を読んだことで、自分の首筋のジャックにギターが接続され、ロックの魂がジャックインされたような、そんな感動の震え方なのだ。

まさに、「聴かずにはいられない」。ロックとは生き方なんだ、というのが文字通り体内に染み込んでいくし、ロックに関係のない人間なんていないとすら思える。

ザ・タイマーズ
THE TIMERS
ユニバーサルミュージック
2006-01-25



私が嗚咽が止まらなくなったのは、「デイドリーム・ビリーバー」のくだり。「ずっと夢を見て幸せだったよ」という言葉を読んで、涙も声も止まらなくなった。そうだ、「ずっと夢を見て、幸せだったんだな」と。

この曲、もともとそんなに好きではなかったのだけど、このストーリーの中でこの曲を聴いて、そこに向かって自分の人生の記憶、いや記憶というと断片的な感じだけどその数十年間の自分の意識無意識の体験の総体が開かれて、それが自分を嗚咽させた、としか思えない。幸せってこれじゃん、みたいな。夢を見ることそのものなんじゃん、みたいな。

だけどそれは生易しい夢ではない。傷つき、ボロボロになりながら、それでも見る夢。それは奇跡ではなく、「泥と汗で汚れた両手(現実)」。そのためには今までの自分を「辞める」。それは、「やりたいことをやりきって、生ききって死にたいから」。だから(そういう意味で)ロックに関係のない人なんかいない、ということになる。

・・・

まだ、はまってる最中なのでなかなか客観的な論評ではないのだけど、はまってる最中でないと書けないし伝わらないものもあると思ったので、ちょっと書いてみた。

ちなみに、作中に「ロック」という言葉、今思い返した限りでは出てきていない。「ブルース=魂の叫び」という言葉でそれらは全て表現されている。でも、自分にとってはその言葉は「ロック」なんだよな。

ということで多少強引だが、こういう表題をつけさせていただいた。「「シオリ・エクスペリエンス」でロックの魂を「体験」した」と。

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